第110話ジルの結婚式
「はぁ? ジルが結婚するですってぇっ!?」
あたしがシェルにその事を伝えると大いに驚いている様だった。
そしてつかさず「誰が相手よっ!?」とかあたしに聞いてくる。
あたしが獣人のアルミナさんだ言うとしばし思い出すのに時間がかかりながらも最後には思い出して、「そうか、あの娘か。うーん、これは祝いに行かなきゃだめね?」などとぶつくさ言っている。
現在ティナの町にいるあたしとイオマはジルに関係ありそうな人たちにこの事を伝え、盛大に祝ってやろうとしている。
意外だったのがゾナーが式に出たいと言ってきた事だ。
現在ホリゾン公国立ち上げで忙しいはずなのにジルの結婚式には出ると宣言していた。
まあ、長い付き合いだしジルの事は弟のようにかわいがっていたしね。
そんな訳であたしたちはここ水上都市スィーフの郊外にあったジュメルの地下施設、「テグの飼育場」の壊滅が終わり奴隷たちを開放し終わったところだった。
「しかし主よ、ベイベイの屋敷でこの者たちを引き受けるのもそろそろ大変になって来たぞ? あの屋敷では入りきらないのではないか?」
「その事でしたら大丈夫ですわ。既に隣の屋敷も買い付けましたわ。今現在あの屋敷はデルザが指揮を取ってアルフェがロックゴーレムを作り整地を始めていますわ。私のうち誰かが戻ればすぐに改築をして母屋と離れで使えるようにしますわ」
びっと指を立ててあたしはそう説明する。
するとショーゴさんは嬉しそうに奴隷の子供たちを見る。
「そうか、ではこの子らは当面は何とかなるか」
「ええ、ティアナはいませんでしたがこの子たちの面倒は私が引き受けますわ。立派に育ててちゃんと自立させますわ!」
そうそう、テグの入れ墨なんだけどあたしは会う奴隷全部からそれを消し去っていた。
ただ、ティナの町にいるセレとミアムはそれを拒否した。
なんでもこれはティアナとの大切な思い出になるし他の人に見せることは無いからそのままにしたいらしい。
まあ当人たちの希望だし、その辺はあたしも尊重してあげる。
「それではベイベイに寄ってからすぐにティナの町に行きますわよ!」
あたしは言いながらみんなをベイベイの屋敷に転移させるのだった。
◇ ◇ ◇
「それではジルとアルミナの未来を祝ってカンパーイですわっ!」
おおおぉぉ~っ!
「かんぱーい!」
「乾杯」
「かんぱーいぃ!」
現在ジルの村には人であふれかえっていた。
式場をティナの町でやろうとしたらジルが獣人たちを呼ぶのが大変だからジルの村で質素にやりたいと言い出した。
でもそんな事はあたしが許さない。
戻って来たあたしたち三人のエルハイミはこのジルの村を大々的に改造し始めた。
まずは広場や噴水の拡張をして岩山を更に削り平地の面積を増やす。
もともと坑道で近場は穴だらけだったから落盤を考えればごっそりと山を無くした方が早いので掘りつくされた所まで一気に削った。
切削面が崩れないようにちゃんと固める作業もしてあるので地震が起こっても大丈夫だろう。
そして結果村の規模が三倍に広がった。
あたしはそこへ更に農地や家畜を飼う場所、ジルたちの為の新居とステキな寝室も作り上げたのだけどジルに何故か怒られた。
せっかく子宝に恵まれるように好い雰囲気の部屋にしたのに‥‥‥
でもアルミナはすごく喜んでいた。
だって真っ赤になりながらもあのもふもふの尻尾が嬉しそうに揺れていたから。
そして関係者が集まり絶対に必要だと思って作った教会に祀る神がいないとなってゾナーの発案であたしがご神体にされてしまった。
勿論嫌がったが周りが全員一致で同意したためここにも「エルハイミ教」が設立されてしまった。
そしてあたしの前で式は粛々と進み、あたしの加護の下、誓いのキスをさせ式は盛大に終わった。
そして二次会の始まりが今の乾杯である。
「ぷっはぁー! しかしジルが結婚とはねぇ~。そう言えば誓いのキス、ぎこちなさすぎよ! もっとこうブチューっと思いっきりいかなきゃだめよ!」
「まあまあ、あの初々しさが良いんですよ」
「ふむ、契約の儀式であるならば欲情は抑えるべきです」
既に酔いでもまわり始めたかシェルがジルたちを茶化す。
イオマやコクはそれぞれの評価をしながらやはりうれしそうにしている。
「ジルよ、これでお前も立派な大黒柱だ! 今日はとことんつき合え、男としてどうしたら良いかとことん教えてやるぞ!」
「ふっ、その辺はゾナーに任せれば間違いはないな。しかしジルよ激しいだけではいかんぞ? 女性には優しくしなければな」
あー、既に新郎に酔っ払いのゾナーとエスティマ様がぐちぐちと言い始めている。
そんな中アルミナは甲斐甲斐しくもみんなにお酒をお酌している。
うん、良い子だな。
これならジルをちゃんと支えてくれるだろう。
姉の様なあたしもこれで安心。
あたしがそんな事を思っていると酔っ払いどもが更に騒ぎ始める。
「それで子供は何人欲しいのよ、ジルぅ~、ひっく!」
「良いですねぇ、あたしもお姉さまの子供欲しいですぅ~」
「何を言っているのですイオマ、お母様のお子を産むのは私です!」
「あ~、お肉美味しい!」
「ねぇねぇ、ジルのお嫁さんも赤ちゃん産むの? どうやって?」
「マリア、それはだな、こ、コウノトリさんが連れて来てくれるんだぞ‥‥‥」
「ふん、ショーゴそろそろマリアにも本当の事を言っても好いでいやがります」
「ふむ、しかしフェアリーに理解できるものか?」
わいわいがやがや
「ああ、でもエルハイミさんがいるならすぐじゃない?」
「なんでよファム? ひっくっ!」
なんだかんだ言いながらみんな酔いがまわりジルたちをからかっていたのだが「風の剣」のエルフのファムさんがあたしたちエルハイミ三人を指さし言う。
「だって、ここに『子宝の女神様』が三人もいるのだからすぐよ!」
「「「はいっ!?」」」
思わずあたしたちは同時に聞き返してしまった。
「だって噂じゃエルハイミさんは女神様で、『育乳の女神』とか『子宝の女神』とか『偏った慈愛の女神』とか言われてて世界中でアガシタ様の代行者の女神として有名になっているわよ?」
いや、アガシタ様の代行をしてはいるけど何その変な二つ名の女神って!?
確かに最近は面倒になって来て女神様紛いの事よくやっちゃうけど、なんでそんな変な呼び名なのよ!?
「なんだぁ、じゃあ~あたしにも子供授けてよ、エルハイミぃ~ ひっくっ!」
「シェルさんずるいです! お姉さま、私も~っ! ひっく!」
「何を言うのです、お母様まずは私からです!」
酔っ払いながらシェルにイオマ、コクがあたしたちに寄って来る。
そんな中ファムさんがまたまた余計な事を言う。
「あら、三人もエルハイミさんがいるんだから一度に出来るんじゃない?」
「「「あっ」」」
シェルたち三人の目がきらーんと光る。
「エルハイミぃ!」
「お姉さまっ!」
「お母様っ!」
「「「のわっっきゃぁぁぁああああぁぁぁっッ―!!」」」
三人が三人のあたしに同時に襲ってくる。
そしていつも通りのあたしの悲鳴が響くのだった。
「‥‥‥エルハイミねーちゃん、痴話げんかは外でしてくれよなぁ~」
「ジル、あれが私たちの女神様になるの?」
「‥‥‥うん」
なんか向こうでジルたちがため息をついているのだった。
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