第109話鋼鉄の鎧騎士完成
イオマとティナの町に戻り早くも二週間が過ぎていた。
「おおっ、これが新たに出来上がった『鋼鉄の鎧騎士』か!」
とうとう十二機全ての「鋼鉄の鎧騎士」が出来上がった。
そして初号機と二号機以外はこれよりガレント王国の首都と国境近くに配備され国の守りの要、「ガーディアン計画」に従事する事になる。
ちなみに初号機は今だあたしのポーチの中、これはティアナレベルの魔力と技量が無ければ動かせない。そして二号機は連合軍に引き続き提供する事になっている。
「何とか出来上がりました、でもお姉さまが手を加えた初号機には性能的には敵いませんね」
「それでも後期型同様にそのうち全ての改修をすれば零号機の最初期状態の比ではありませんわよ? これはほとんどイオマの努力の証ですわよ?」
あたしがそう言うとイオマは嬉しそうにする。
「でもやっぱりお姉さまは凄い。あたしもこの子たちの更なる性能向上を目指します!」
イオマはそう言って出来上がった七号機から十一号機の計五体を見上げる。
後期型になるこの「鋼鉄の鎧騎士」は現状稼働時間が短いながらもその機動性や出力は向上していて更に戦闘力が上がっている。
問題だった防御力の低下は標準装備で小型ラウンドシールドを装着することにより問題を解決した。
なのでよほどの事が無い限りダメージを喰らうことは無い。
「これで我がガレントの守りは堅固なものになった。我が国に攻め入る事は容易ではなくなるだろう!」
エスティマ様は興奮気味だった。
まあ分からないでもない。
「鋼鉄の鎧騎士」が一体いるだけで陸上であれば地竜や巨人、ジュメルの巨人に対してだって十二分に対処できる。
ヒドラクラスなんてもう指先一つでダウンさせられる。
もっとも、それは乗り手も重要になって来るけどね。
「エスティマ様、後期型の『鋼鉄の鎧騎士』は従来以上の乗り手の技量が必要になりますわよ? それに魔力の消費も半端では有りませんわよ?」
「ええ、ですからイオマ殿に聞かされた後にすぐにガルザイルではロクドナル卿が更なる猛特訓を始めました。魔法騎士の更なる実力向上の為に日夜過酷な訓練をしているそうです」
うーん、あの時点で師匠譲りの特訓していたのに更に厳しくするのかぁ。
後でこっそり様子見に行かないといけないかな?
「しかし、本当に二号機はあんなので良かったのかい、イオマさん、エルハイミさん?」
ルブクさんは出来上がった後期生産機を見ながらあたしたちに聞いてくる。
そう、二号機は初期の設定のままだったのだ。
実は二号機は初期設定のまま連合軍にメンテナンスをしてまた引き渡しをする予定なのだ。
ティアナがいなくなりその技術の漏洩を良しとしないガレントの意向で二号機だけは初期設定、つまり機動力も出力もそのままで引き渡されている。
もし今の零号機あたりと模擬戦をすれば二号機は確実に負ける。
たとえ搭乗者が凄かったとしても。
「連合軍を信用しない訳ではありませんけどやっぱり他国もそれを見ることが出来るとなれば何時までも『連結型魔晶石核』の秘密も保持できるか‥‥‥ それに『エルリウムγ』も魔鉱石と大量の魔力と技術力が有ればやがてはマネできるでしょうし」
イオマは指を折りながらいくつかの点を言う。
それでもこんなものを他の国で作ろうとするならば十年以上はかかるだろう。
「今のところは我が国の専売特許と言う事かい? しっかし、もし最初からこんなもの一体作るとしたらどれだけの予算と人がかかる事やらなぁ」
ルブクさんはうんざりとした顔をする。
それはそうだ。
これにはガレント王国の国家予算二十年分が費やされているのだから。
「エルハイミ殿がいなければやっと数体できるかどうかでしたしな。感謝いたします、エルハイミ殿」
エスティマ様はそう言ってあたしの手を取りその甲にキスをする。
そう言えばまだ独り身だったんだよなぁ、エスティマ様。
未だに何かある事にあたしを口説くけど毎回きっちりとお断りしているのにね。
「とにかくこれでやっと『ガーディアン計画』は完成ですわね! イオマご苦労様でしたわ!」
「本当に、ご苦労様でした、イオマ殿」
「やっと終わったかぁ、エルハイミさんよ、当分変なモノの開発は勘弁してくれよな?」
あたしやエスティマ様はイオマの労をねぎらう。
そしてつかさずルブクさんはあたしにくぎを刺す。
あたしは乾いた笑いをしながらあたしの別の目的を達成する為にイオマと動くつもりだ。
コクと一緒に行動していたあたしは次の「テグの飼育場」を突き止め奴隷たちを解放したけどその中にはティアナがいなかった。
シェルたちと一緒のあたしは未だに「テグの飼育場」が見つかっていない。
南方の土地はどうやら奴隷たちを地下以外の所で飼育している様だったからだ。
「ベイベイの屋敷の事もありますわ。私たちもこの後陛下にご挨拶に行ってからティアナ捜索を始めますわ!」
あたしはそう言ってここでのやるべき事を終えたのだった。
* * * * *
「今何と言いましたのジル!?」
「だから、俺結婚することにしたんだよ」
ティナの町からまた当分は離れなければならないのでこの町で各ギルドや知り合いにも挨拶しようとしていたらジルがやって来ていてあたしに重要な話が有ると言ってきた。
シェルがいない事にほっとした場面もあるもののジルはあたしに結婚することを話す。
「そ、それで相手は誰ですの? いや、ジルの事だから悪い娘に騙されるようなことは無いと思いますけど、やっぱり気になりますわ!」
「エルハイミねーちゃんは俺のかーちゃんかよ? 大丈夫だって、獣人のアルミナだよ」
アルミナ?
えーと確かきつね獣人のフェルミナさんの妹で当時確か十六歳、いまはもうすぐ十七歳か?
「アルミナさんですの?」
「ああ、そうだよ。駄目なのか、エルハイミねーちゃん?」
だめではないけど、いきなりなので驚いていた。
確かに獣人と人間の間でも子供は出来るし、ジルの村ではそう言った事が有っても別段問題ではない。
ただジルはあの村の代表で責任者だ。
それが結婚となれば盛大に祝ってやらなくてはだ。
「勿論良いに決まっていますわ! ジルが『いっぱしの男』になるなんて、これほどうれしくて頼もしいことは有りませんわ!」
「‥‥‥なんかエルハイミねーちゃんにその姿で言われるとものすごく別の意味に聞こえてくるは気のせいだろうか? いや、シェルねーちゃんでも同じか」
あたしをジト目で見ているジル。
外観上はもう立派な大人だし背丈だって遠の昔にあたしを超え、男性として今が一番力強いのではないだろうか?
対してあたしは今だ成人したばかり、十五、六歳にしか外観上は見えない。
今年あたしだって二十一になるというのに。
最近は周りのみんなの方がお兄さんやお姉さんになっている。
あたしは軽くため息をつく。
分かってはいるんだけどねぇ~。
「それでは各方面に通知して盛大に祝ってあげなければですわ!」
「いや、出来れば質素なのが良いんだけど‥‥‥ ほら俺ってあんまり金持ってないし、知り合いもそんなに多く無いし‥‥‥」
「それなら大丈夫ですよ、きっとお姉さまが何とかしてくれますって!」
「そうですわよ! 私たち三人のエルハイミが完全サポートしますわよ!!」
「本当にエルハイミねーちゃんが三人もいるんだ‥‥‥ 世も末だな‥‥‥」
なんかジルが変な事言っていたような気がするけどこうなっては義姉として盛大に祝ってあげなければいけない。
あたしはこの事を早速別々に行動しているみんなにも伝えジルを盛大に祝ってあげることにするのだった。
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