第108話ティナの町のイオマ


 あたしとイオマはベイベイの屋敷をアルフェ、ベーダ、デルザの三人に任せしばしティナの町に戻っていた。



 「ふう、こっちはやっぱり涼しいですね?」



 イオマはそう言って新しく作ったゲートでティナの町まで来てその風景を見る。

 もうじき秋になるここは他の地域よりちょっと早めに涼しくなり始める。




 「やっと戻って来たか、イオマさん残りはあんたの分だぜ」


 早速「鋼鉄の鎧騎士工房」に着くとルブクさんが声をかけて来た。


 「ルブクさん! すみません、ずっと任せっぱなしで!」


 イオマはルブクさんにぺこぺこと頭を下げる。

 しかしルブクさんは笑ってそんなイオマに言う。


 「なぁに、俺らが出来る所の部分は組み上げは終わったさ。エルハイミさんが不足パーツをポコポコ作って置いてくれてから組付ける事は問題無く出来たが、魔道回路だけは俺らじゃ出来ねえからな」


 そう言って残りの七号機から十一号機の計五体の素体を見せてくれる。

 既に素体状態ではほぼほぼ完成。

 後は魔道回路を取り付けるだけとなっている。



 「あら? ルブクさん、あれは二号機と三号機ですの?」


 「ああ、そうだよエルハイミさん。ホリゾンとのドンパチが終わってメンテナンスで戻って来たは良いが誰だい現地であんな設計変更したのは? 外装もそうだけど基本性能がやたらと上がっているじゃねぇか?」



 何それ?


 

 あの前線でそんな改修してたっての?

 いったい誰が?



 「全く、『エルリウムγ』をたやすく変形させ、現地仕様に容易に出力バランス変えて更に現地に特化した装甲にまで改造するなんて、まるでエルハイミさんみたいだな‥‥‥ って、ちょっと待てよ? エルハイミさん!?」


 「ぎくっ! え、え~とぉですわぁ‥‥‥」



 思い出した、ゴエムのやつをゾナーに引き渡しに行った時に「鋼鉄の鎧騎士」をその場でメンテナンスして魔法騎士の要望でちょびっと改造したんだっけ。

 どうせ改造するならと現地での状況を聞かせてもらいそれに合うようにいろいろと。



 「はぁぁあああぁぁ、やっぱりエルハイミさんが関わっていたか! でなきゃこんな複雑かつ整備性の悪く変に戦闘に特化した機体になんて出来る奴はいねえわなっ!」



 思いっきり睨まれる。



 「あ、あはっ、あははははははははっですわ‥‥‥」


 あたしは苦し紛れに笑うけどそんなあたしを見てルブクさんは大きくため息をついてイオマを見る。


 「実際とんでもねえ改造だったよ。イオマさんよ、エルハイミさんがいるからその辺の改修ポイントをよく聞いだしておいてもらってくれ。これなら稼働時間は短くなるが瞬発力は抜群だ。外装も戦争するならありゃ最適だ。だが防御を犠牲にしているから通常の守りには合わねえ。盾の実装が必要だな」


 ルブクさんはそう言って過去の機体と戻って来た機体の相違点をまとめた資料をイオマに渡す。

 イオマはそれをしばし見ていて唸る。


 「なるほど、長々と戦闘をしないのであれば連結型魔晶石核を瞬時に臨界点まで持って行き各動力機関をリミッター無しで動かせば短時間であればここまでパワーが出る訳ですね! そして装甲もそれに見合ったものに改定して打撃中心型に変えている。確かに防御が弱くなりますが攻撃が当たりさえしなければ何と言う事は無い訳ですね!」



 あー、なんかイオマがのめり込み始めた。

 この辺は師匠となるアンナさんに似ているなぁ。



 そしてイオマとルブクさんはあーだ、こーだと意見を言い合い始める。

 それはかなり技術的な事から実際のメンテナンスのしやすさまであれやこれやと。


 しばしその様子を見ていたあたしだけどだんだんと専門用語や専門知識の話になっていき分からなくなってきた。

 しかしますますヒートアップする二人。

 既にあっちの世界に入り始めている。


 あたしはため息一つ、長くなりそうな二人を工房に残してエスティマ様に挨拶に行くのだった。



 * * * * *



 「ふう、とりあえず一息ですわ」



 ぽてっ。



 あたしは自分の部屋に戻りベッドに倒れ込む。

 久しぶりにここへ帰って来た。

 そしてティアナと一緒に眠っていたこの布団にもうティアナの香りがしなくなってきた事に気付く。



 ティアナが死んで一年半以上が経つ。



 順調に転生して育っていればもう一歳半くらいになるかもしれない。

 人は産まれる数か月前にやっと魂の定着をする。

 そして転生者は状況にもよるけどあたしの場合生まれてすぐに意識が戻った。

 だってあの時はまだ目がちゃんと見えない程だったのだから。


 ジュメルが一体幾つくらいから意思を閉ざす魔法をかけるかは分からない。

 もしかしたら生まれてすぐかもしれない。

 だからなかなかティアナの気配が掴めない。

 

 そうなると直接会いに行ってあたしがその者を見て判断するしか無いのだ。


 「ティアナ‥‥‥」


 あたしは何となくティアナの名を呼ぶ。

 そしてポーチからティアナの残り香のある衣服を引っ張り出す。



 すううぅぅぅぅ‥‥‥



 その服に顔をうずめてティアナの香りを吸う。

 ものすごく安心すると同時にもの凄く悲しくなってくる。



 「ティアナ、早く会いたいですわ‥‥‥」



 女神をも超える力を身に着け、「あのお方」のこの世界での端末になっても万能ではない。


 あたしはエルハイミのまま。

 だからどんなに変わってもエルハイミとして心からティアナが欲しい。


 大切なティアナの残り香の残る服に包まれながらあたしは久しぶりにこのベッドで深い眠りにつくのだった。  


 

 * * * * *



 「んぅ? 私ったら眠ってしまったのですの?」


 「う~ん、お姉さまぁ~」


 気が付くとあたしは裸で眠っていた。

 そしてその隣にやはり裸のイオマが眠っている。



 「え”っ、ですわ‥‥‥」



 ちょっとマテ、あたしは何もしていないぞ?

 確かティアナの服を抱きしめながら眠ってしまった様だけど、何で裸になっているの?

 それに同じく裸のイオマが何故隣に寝ているの!?



 がちゃっ!



 いきなり扉が開かれた。



 「エルハイミさん、戻ってきているとエスティマ様に聞きまし‥‥‥」


 「正妻、その後について教えて欲しぃ‥‥‥」



 固まるミアムとセレ。



 「ち、違いますわぁっ! 私は何もしていませんわぁっ!!」


 「う~ん、お姉さまぁ~、昨日は凄かったぁ~」


 「イオマっ! 何を言っているのですの!? 私たちは何もしていませんですわよっ!!」


 完全に事後状態のこれに一人焦るあたし。

 そしてそれを目撃したミアムとセレ。



 「エ、エルハイミさん、見えない所でならまだしも‥‥‥」


 「ティアナ様と一緒に使っていたベッドに他の女を引き込むとは!!」


 

 背景に仁王が見える、いや、般若もいるぅっ!?

 ミアムとセレはそれはそれはにこやかな目の笑っていない表情であたしを見ている。


 「んんぅん、あれ? お姉さま? あ、いけない、お姉さま寝てたから脱がせて着替えさせよとしてあたしも疲れてたからそのまま眠っちゃったんだ! でもこっちは涼しいから冷え性のお姉さまは私に抱き着いてくれてからいい夢見れましたよぉ~。でもできればそのまま襲ってもらいたかったのに~」


 頬に手をあて素っ裸のままベッドの上に座ってイオマはくねくねと妄想含めいろいろと暴露してくれた。

 それを聞いたミアムとセレはすぅ~っとあたしを見る。

 そう、ごみを見るような目で!


 「イオマさんが嘘をついていることは無いでしょうが、気付かず裸のままイオマさんに抱き着いていたですと?」


 「それもティアナ様と一緒だったベッドで‥‥‥」


 二人の視線が痛い。


 が、ミアムが有るものに気付く。


 「あら? これってティアナ様の肌着?」


 「え? あ、本当だ‥‥‥ って、これ何!? ティ、ティアナ様の香りがする!?」


 「あっ、ですわっ!」


 ミアムがそのティアナの肌着を取り上げセレが確認をする。

 そしてその肌着にはまだしっかりとティアナの残り香がする。



 「エルハイミさん、これは罰として没収します!」

 

 「良いモノを持っているじゃない、正妻! これはもらっておくわ、これで今回の事は多めに見てあげる。ミアム早速!」


 「ええ、セレ!」



 そう言って二人はティアナの肌着を持ち去る。



 「あ”あ”あ”あああぁっ! それ残り香が一番するやつなのにですわぁっ!!」



 「良いじゃ無ですかお姉さま。どうせ転生したティアナさん見つけるのでしょ? それより続きしましょうよ!」


 「何の続きですの? 私は何もしていませんわよ!?」


 「もう、お姉さまったら! 本気で襲っちゃいますよ~!!」



 

 「なんだ扉が空いてるじゃないか? おーい、イオマさんいるかい? 改修ポイントの事なんだがな‥‥‥」



 ばさっ!



 セレとミアムはティアナの肌着を持ち去った時に部屋の扉を開けっぱなしだったようだ。

 そこへイオマがここにいる事を知ったルブクさんが用事があって来たようだったが‥‥‥



 「す、すまねえぇ! お楽しみ中だったとは思いもよらなかったぁっ! お、俺は見てないからな、何も見てないぞぉぉおおおぉぉぉぉっ!!」


 「あ”あ”あ”あああぁっ! ルブクさぁぁあああぁぁぁんっですわっ!!」



 裸のままイオマに襲われそうになったあたしたちの様子を見たルブクさんは資料をその場に落し慌てて逃げ出した。


 ものすごい誤解にあたしは悲鳴を上げるもののイオマはきょとんとして「見られちゃった、では既成事実を」などと言っている。


 勿論そのあとあたしの悲鳴がこだまするのだがどうやらイオマはアルフェ、ベーダ、デルザたちに変な知識を教えられていたらしい。




 あたしはベイベイに戻ったらあの三人に折檻する事を心に誓うのだった。 

  

 

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