第107話イオマとエルハイミ
あたしはシェルたちと一緒に次の「テグの飼育場」がある場所へと転移する。
そしてあたしもコクとセキたちを連れて次の「テグの飼育場」へと転移する。
「行きましたわね」
「ふう、なんだかんだ言ってこの子たちの面倒はお姉さまが見るんですね?」
イオマと一緒に残ったあたしはここミハイン王国の首都ベイベイで屋敷を構えこの国の表と裏の様子を見守りながら元闇奴隷だった子たちやその母親を保護してこの屋敷の使用人として使っている。
ジュリ教に「テグの飼育場」として捕らわれていた闇奴隷たちはその境遇には同情するもののしっかりと自立してもらわなければならない。
意思を押さえられる魔法は解除したので彼女たちも徐々に人間らしい反応を始めていた。
だからこの子たちにはここで使用人となって働くかあたしが立ち上げた産業に携わるかをしてもらう。
使用人にはクロさん、クロエさん直伝の仕込みが入り、一部にはベルトバッツさんの仕込みまで入ったのでこの屋敷の警護まで任せられるほどにたったのひと月でなってしまった。
そしてイオマに鍛えられた魔法の見込みのある子たちもなかなかの成長をしていた。
そんな事を思っているとすっとあたしの前にメイド姿の二人の女の子が姿を現し膝をつき低頭する。
「主様、未だこの屋敷に侵入しようとした愚か者を捕らえました。いかがいたしましょう?」
「さばいて見せしめにいたしましょうか?」
こらこら、何物騒な事言ってるのよ!
どうもこの辺はベルトバッツさんの仕込みが強すぎるように感じる。
「お姉さま、まだ歯向かう連中がいるのですか?」
「流石に今までの収入源を潰されたのですわ、いくら私と正面切って事を構えなくても裏で動こうとしますわよ」
そう言ってあたしは一週間ほど壁と融合して街中にさらす事にする。
そうそう、元裏社会の奴隷商ドレイドは今現在あたしが立ち上げる真珠の商業会社の為に心身ともに忠誠をさせて働かせている。
もし裏切ったら地の果てまで追いかけて胸を大きくしたうえで壁と再融合して街中にさらすと脅かしたらぎっちりと脂汗を掻きながら首がもげるのではないかと言うほど頷いたものだ。
「それでお姉さまあたしが仕込んだ子たちはどうするのですか? 既にゲートを使えるほどにはなっていますが」
イオマが鍛えた魔道の才能のある子たちには今後海産物の内陸への、具体的にはユーベルトを中心に首都ガルザイルあたりにも品物の運搬をさせようと思っている。
内陸の地では新鮮な海産物はなかなか手に入らないし、塩漬けの保存食ばかりではなかなか買い手もつかない。
しかし新鮮な海産物を食べた事のある人なら分かるように海の幸は川魚や沼魚に比べ臭みも骨も少ない。
料理のしかたでは非常に美味しく頂けるのだ。
「料理についてはそのうち精霊都市ユグリアのイチロウさんを頼って海鮮料理の仕方を学ばせユーベルトやガルザイルにお店を出させるのも良い手ですわね」
「お店まで開くつもりですか?」
「それだけではありませんわ。先日アテンザ様に会いに行き真珠の販売ルートの確保もお願いしましたわ」
ガレント王国が不利になるような事はするつもりはないけど、ミハイン王国だって裏社会の奴隷以外の産業で食べていかなければならない。
だから売り込み先にはアテンザ様のつてを使わせてもらう。
「お姉さまは女神様以上だというのにやたらと世俗的なのですから‥‥‥」
「そうですかかしら? 私は私がしたいようにやっているだけですわ」
「お姉さまらしいです」
イオマはそう言って笑う。
そしてリストをあたしに渡して来る。
「この三名がこの屋敷を任せるのに適しているでしょう」
あたしは受け取ったそれを見る。
そこにはイオマが推薦する三名の名前とその性格、能力、忠誠心などがまとめられて書かれていた。
「アルフェ、ベーダ、デルザですの? しかしまだ皆若いですわよ?」
「ええ、ですから余計に彼女たちなら今後の成長も期待できます」」
そう言ってイオマはお茶を飲む。
あたしは三人の事を思い出す。
みんな確か十四歳の女の子。
それぞれにアルフェは魔道、ベーダは隠密と警護、デルザは使用人として優秀であるのは間違いない。
そしてみんなあたしに忠誠を誓っているのは確かだった。
「わかりましたわ、ではこの三人を呼んでくださいですわ」
あたしがそう言うとイオマは頷き「ベーダ」とだけ囁く。
するとすぐにイオマの後ろにメイド服姿のベーダが現れる。
「お呼びでしょうかイオマ様?」
「お姉さまがお前とアルフェ、デルザに用事が有ります。他の二人も呼んで来てください」
「承知いたしました」
ベーダはそう言ってすっと姿を消す。
「‥‥‥イオマ、ベーダって」
「はい、ベルトバッツさんの直々の仕込みです。ベルトバッツさんも筋が良いと絶賛していました」
ええとぉ。
なんかあたしが想定していた以上になっていない?
イオマのこのリストの能力以上じゃない??
そうあたしが思っていると扉がノックされアルフェ、ベーダ、デルザの三人が入って来る。
そしてみんなあたしの前で跪いて低頭する。
「「「主様におかれましてはご機嫌麗しく」」」
奇麗に声を合わせてそう言いながら
「アルフェ参りました」
「ベーダお呼びにより参上いたしました」
「デルザ主様の御心のままに」
えーと‥‥‥
ちらっとイオマを見るとなんか満足そう。
あたしは三人に立ち上がるよう言いながら今後三人に各方面でのまとめ役を命じる。
すると三人は頬を染め上げ興奮してまたまたその場に低頭して歓喜に満ち溢れる。
「「「主様から言い渡されました役目、見事こなしてご覧に入れます!!」」」
ものすごくやる気を示し退席をして行く。
イオマはやはり満足そうにふふんと鼻息が荒い。
「これで当面はここは大丈夫ですね。お姉さま!」
「いえ、本当に大丈夫か少々不安がありますわ‥‥‥」
なんかものすごく不安になって来た。
本当に大丈夫か?
あの三人張り切り過ぎてやり過ぎないだろうな?
「あ、でもお姉さま。あの子たちが若いからと言って手を出してはダメですからね! 必要なら私がお相手しますから!!」
「いや、手を出すも何もそんな事はしませんわ! ‥‥‥って、イオマ?」
誰もいなくなるとイオマはあたしの横に椅子をずらし寄ってくる。
そしてとても自然にすっとあたしの手を取る。
「これでやっとお姉さまと二人っきりになれましたね!」
「イ、イオマぁですわ?」
うるうると高揚した熱い視線の瞳であたしを見るイオマ。
しっかりとつかまれているてのせいでだんだんと引き寄せられて行くあたし。
「お姉さまぁ~」
「ちょ、イ、イオマぁっ!?」
こらこらこらぁっ!
こんなことしてる場合じゃないでしょうに!!
あたしがそう内心焦っているとイオマは瞳を閉じ顔を更に近づけてくる。
「ちょっと、そこ詰めなさいよ!」
「ああ、イオマ様そのままぐっと主様を押し倒して!!」
「良いですよイオマ様! そこです!」
あたしはイオマを空間事停止させすっと握られた手を抜く。
そして扉越しにこの様子を覗き見ている三人の所まで転移して扉を引っ張って開ける。
途端に三人は支えを失ってこの部屋に倒れ込む。
どさどさどさっ!
「うきゃっ!」
「わっ!」
「ひゃっ!!」
「あなたたち、何をしているのですの?」
「「「あ”っ!」」」
あたしは振り返りイオマの空間停止を解除する。
「むちゅ~っ! お姉さま今晩こそはぁ~! って、あれ? お姉さまはっ!?」
動き出したイオマはあたしがいなくなっている事に気付き慌ててきょろきょろと周りを探しあたしと三人を見つける。
「あ”っ‥‥‥」
その後しっかりとお説教をするも、元々性奴隷だった彼女らはそっちの知識は非常に豊富でイオマが逆にいろいろと教えられていたようだ。
あたしはこめかみを押さえふるふると頭を振ってから正座させている四人に宣言する。
「みんな再教育ですわ!!」
「「「「ひえぇぇぇえエエエえぇぇぇぇぇっ!!!!」」」」
珍しくあたしでない四人の悲鳴を聞きながら、目をきらーんと光らせあたしはこの子らに再教育を始めるのだった。
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