第106話新たな産業
「結局ティアナさんはいなかったのですね?」
イオマは屋敷で見込みのある子たちに魔法を教えていた。
「ひゃうんっ!」
「うひゃぁっ!」
あたしと話しながらも鍛えるために容赦なく攻撃魔法を仕掛けている。
うーん、この辺は既にアンナさんより上だなぁ。
イオマの魔力総量はかなりのものになっている。
多分ティアナに近いのではないだろうか?
そして無詠唱に近い所まで来ている。
魔法を使うときはほとんど最後の力ある言葉を発するだけで発動が出来るようになっている。
「さてと、それじゃあみんな今日はここまでです。【回復魔法】! 【浄化魔法】!」
立て続けに教え子たちに魔法をかけてやっている。
うーん、イオマももう立派な魔導士の先生だなぁ。
あたしは感心してその様子を見ている。
「そこっ! お盆は微動だにしてはいけないでいやがります!!」
「よいか、下等なお前たち人間には黒龍様や主様に失礼無い様に言葉遣い、作法を必ず覚えるのだ。良いか?」
あっちもあっちでビシバシ使用人たちを鍛えているクロエさんとクロさん。
屋敷に残っていたけどかなり気合入れてやっている様だ。
「それで、お姉さますぐにでも次へ行くのですか?」
「いいえですわ。まだこの国でやらなければならない事がありますわ」
イオマはこちらへ来てお茶を飲んでいるあたしの横に座る。
すぐに最年長の奴隷の女の子がお茶を入れて差し出してくれる。
イオマはそれを受け取って一口飲む。
結局残りの教会も調べてもティアナはいなかった。
あたしたちが対処した「色欲の神」はあたしが処理して天界へと返した。
そしてジュリ教の非合法の奴隷たちはあたしの保護下この屋敷に住まわせている。
ジュリ教も抵抗したけどあたしが存在を開放して更に天秤の女神アガシタ様の代行であると宣言すると大人しくなった。
勿論裏社会も動揺が走ったがあたしとコク、セキとベルトバッツさんが動いて締めまくって牛耳った。
おかげで裏社会でのそっち系の奴隷売買が出来なくなりここ半月でベイベイの街のオークションは閉鎖。
ドレイドがあたしに泣きついて来たけどあたしがエルハイミであることを明かしたら腰を抜かして土下座して「胸を大きくするのだけはご勘弁をっ!!」なんて言うから思わずその場で壁と融合してやった。
しばらくあのまま反省する方が良いだろう。
「そうそう、マキシが先日やって来て私が買い占めた港と沖合の無人島を何にするのか聞いて来ましたわ」
シェルとショーゴさんを連れてもう一人のあたしがこちらに来ながらそう言う。
「お姉さま、また何かするのですか?」
「ええ、どうやらここでは貝の養殖も出来そうなのですの」
この辺の海は水の流れが穏やかでそして無人の孤島が数多く点在している。
もともと魚影も濃く豊かな場所ではあるがその資源を乱獲しては流石に先が無くなってしまう。
なので水産物の養殖をして資源の保持と新たな産業を目指そうとしたのだった。
「大々的に貝の養殖が出来れば今後の財源になりますわ」
「そうそう、副産物で養殖真珠も作れるらしいですわね?」
あたしたちはそう言って異空間から貝と真珠を取り出す。
「エルハイミ、本当にこんな奇麗なモノがその貝の中から出て来るの?」
シェルは真珠と貝を見比べている。
この世界ではまだまだ養殖真珠が行き渡ってはいなかった様だけどここベイベイの漁師の中にはいち早くそれに気づき少量だけど養殖真珠を作っていた者がいたのだった。
本来この世界での真珠は天然ものしか流通していない。
なのであたしがスポンサーになり大々的にその産業を発展させるつもりだった。
「お姉さま、真珠なんて高価なモノが養殖できるのですか?」
「ええ、真珠はもともと貝殻などの破片が貝の中に入り込みそこへ貝殻を成長させる成分が蓄積されあの奇麗な真珠になるのですわ。大体このくらいの小さなものであれば二年くらいで取れるそうですわ」
ピアスやブローチに使えそうな位の小さめなものだがちゃんとした真珠だ。
乾燥大豆くらいのそれをあたしは取り上げみんなに見せる。
条件のいい場所でもっと長く育てればもっと大きな真珠が取れる。
そして海の宝石と呼ばれるこれは高価な価格で売買されている。
「お姉さま、ジルの村でもそうでしたがこれで世の中の流通する宝石がまた増えますね‥‥‥」
イオマは真珠をつまみながら呆れている。
しかしこれを産業へと発展させこの国の根底を叩き直さなければまた性奴隷などいう許しがたいものが横行してしまう。
「そう言えばコクたちは?」
シェルがお茶の席に着きながら周りを見渡す。
「コクたちはずっと別のエルハイミと出かけているよ~」
こっちへ来てずっと屋敷でお菓子をむさぼっているマリアがテーブルの上のビスケットを食べながら先に答えた。
シェルはそれを聞き一緒に戻って来たあたしに聞く。
「どう言う事?」
「コクたちはベルトバッツさんを使って仕上げを始めてますの」
お茶の席に座りながらあたしはそう言う。
既にお茶を飲んでいるイオマと一緒にいたあたしもにっこりと笑う。
そう、裏はあたしたちが牛耳った。
後は表の連中を何とかすればいい訳だ。
* * * * *
「貴殿がガレント王国の『雷龍の魔女』か?」
「ええ、エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントと申しますわ、陛下」
あたしは謁見の間でこの国、ミハイン王国の国王ドルモン=カシス・ミハインと面会をしていた。
そして頭を下げた状態のあたしはドルモン陛下の許し無くすくっと立ち上がり存在を開放する。
どんっ!
遠慮も何も無しにいきなり女神以上の存在を放ち瞳を金色に、体を薄っすらと光らせ周りに光の粒子をばらまく。
そして背中から真っ白な羽を広げる。
「そして今は天秤の女神アガシタ様の代行を仰せつかっていますわ」
上座に座る国王陛下はいきなりのあたしのそれに思わず腰を抜かす。
勿論周りにいる連中も驚き中には国王同様腰を抜かす者もちらほらと。
あたしはわざと上座の国王より高い位置まで浮遊する。
「既にこの国にはびこっていた悪なる所業は私が滅しましたわ。国王よ、その眼を目の前の物だけ見るのではなく遠くを見なさいですわ。そして下々の者に正しき道を示しなさいですわ。でなければ私は何度でもここへやって来て天の意を示しますわ!」
そう言って手を振りかざすとここにいる者全てをこの国の上空二千メートル付近に連れ出す。
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
「うわぁっ! 落ちるぅっ!!」
「し、死ぬぅぅぅっ!!」
とたんにわめき叫び大騒ぎする人々。
勿論国王も同じだ。
自由落下を始めた人たちの中あたしも同じく一緒に落ちていき皆に聞こえるように直接頭の中に声を届ける。
『見なさい、あなたたちの国はこんなに美しい。それを不名誉な名で世界に知れ渡らせてどうしますのですの?』
「わ、分かった、なんでもする! だから助けてくれぇっ!!」
『約束ですわよ?』
涙でぐしゃぐしゃになった国王は思わずそう叫ぶ。
言質は取った。
あたしはにっこりと笑ってから指をパチンと鳴らす。
すると途端に大騒ぎしていた連中はもとの謁見の間に戻って来る。
「はーはー。い、今のは一体‥‥‥?」
「国王ドルモン、約束ですわよ? もう非合法の奴隷などで国を潤すのはやめなさいですわ」
あたしは上から国王にそう言う。
そして他の連中も見ると「ひっ!」とか言って顔を背ける。
ゆっくりとまた床にまで戻って来て存在をまた押しとどめいつものあたしに戻る。
「では国王陛下、ゆめゆめお忘れなく」
そう言って一礼してから踵を返して謁見の間を退席する。
退席する中、出口付近の後ろに控えていた国税局のマキシを見つける。
あたしは彼ににっこりと笑ってウィンクをすると青ざめて冷や汗を流していた。
うん、お役目ご苦労様。
彼のお陰で意外と簡単に国王までたどり着けたし、裏社会に繋がっていた大臣たち、貴族たちもここへ引っ張り出せた。
これで表の方も今後変な事は出来ないだろう。
だってこの街には当分あたしたちが滞在するのだから。
さあ、これから奴隷たちの処遇や教育、魔道を教え込んだ子たちによる海産物のユーベルトへのゲート転送。
そして新たな産業である養殖真珠の販売などやる事はまだまだいっぱいある。
あたしはそんな事を思いながら屋敷へとコクたちを連れて転移するのであった。
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