第104話色欲の神


 「くそっ! あの女は一体何者だ!? これでは奴隷たちがすぐに底をついてしまうぞ!!」



 ドレイドは忌々しそうに酒杯をテーブルにたたきつける。


 「まぁまぁ、ドレイド殿。我々の飼育場にはまだまだ在庫もおりますし、種付も順調ですよ」


 そう言って神官服の男は嫌らしい笑みをする。

 あたしたちはその様子をじっと物陰から見ている。


 「しかし本当にあの女は何者なんだ? 噂の『育乳の魔女』とは本当か?」


 「どうでしょうね? ジュメルの方々がこの地を去り何かと後ろ盾が弱くなってやっとそれも回復を始めたというのに」



 くっ!

 誰が「育乳の魔女」よ!!

 イラっと来る気持ちを押さえてあたしは様子を見る。



 「我々の飼育場では現在これほど保有をしています。このほかに腹がふくれたのが五つ、半年もすれば生まれるでしょう」


 神官服の男はそう言いながら一枚の紙を引っ張り出す。

 ドレイドは受け取った紙を見る。


 「売り物になる五歳以上が男十三人、女が三十人か‥‥‥ 表の方からは回せんのか?」


 「表は流石に厳しいですね。連合のあの女将軍のせいで孤児院や没落貴族の子女はその数を国が管理する事となってしまい行方不明にするには教会の立場が危うくなってしまいます」


 神官服の男の回答を聞きドレイドは舌打ちをする。


 「ちっ、あのティアナとか言うガレントの姫のお陰でジュメルの後釜に俺たちがこの闇市場を牛耳れたのは幸いだが国が連合に参加したせいで王宮の連中も好き勝手出来なくなってきたからな‥‥‥ 全く、忌々しい」


 「ですがその女将軍は戦死したと聞き及んでおりますよ。それよりいかがいたします?」


 ドレイドはリストを見ながらうなる。


 「残りはまだ幼過ぎるか‥‥‥ 赤子が十五人、四歳以下が十八人か。流石にこいつらでは売り物にならんからな。だが数年後を考えるともっと数が必要だな」


 「そうなりますとやはりあの神を呼び寄せ飼育場以外でも子作りさせませんとな」


 神官がそう言うといやらしい笑いを二人同時にする。


 「本当に上手く行くのか? ジュメルはその儀式に失敗をしたのだろう?」


 「なに、ジュメルの方々がそれをしようとした時にあの忌々しい連合の女将軍が邪魔をしましたが今はそれが無い。色欲の神を処女に降臨させこの街を淫欲なモノに変えればさらに不要な子供は生まれます。そしてここへ買い付けに来た連中も色欲の神の力により更に欲求が進むでしょう」



 げっへっへっへっへっ。



 聞いてて不快な笑い方だ。

 しかし「淫欲の神」とは?

 あたしは一緒に隠れているコクを見る。

 そして念話をする。



 『コク、色欲の神とは一体何なのですの? 女神様以外にも【神】となる存在がいるのですの?』


 『お母様、多分それは女神様の血を引く者か何かと思われます。女神様たちは時折戯れでこの世界の者との間に子をもうけることが有ります。私とディメルモ様のように』



 うーん、そうするとあの呪いも合点が行く。

 しかし女神程力は無いと言う事になるのか。

 だけどそんなのが降臨されたら面倒極まりない。


 

 『コク、引き続きこの神官の後をつけますわよ!』



 あたしはそう言ってコクたちとその神官の後をつけるのだった。



 * * * * *


 

 「ここにティアナがいるかもしれないのですわね?」


 「まだ確定ではありませんがですわ」



 あたしたち二人のエルハイミは合流して物陰からジュリ教の教会を見ている。

 ここにはコクとセキ、それにシェルとショーゴさんがついてきている。

 他のみんなは屋敷でメイドたちの教育や魔道の教育をしてもらっている。


 ベルトバッツさんの調べでは孤児院を運営しているジュリ教はどこもかしこも「テグの飼育場」が無かった。

 やはり表の慈善事業としてやっている様だ。


 そしてそれ以外のジュリ教の教会を調べてもらったが地下牢獄が何処にも在ってそこには誰もいなかったらしい。

 だがこのひと際大きなジュリ教の教会に先程の神官は入って行った。



 「コク、ここもベルトバッツさんは調査済みですの?」


 「はい、ベルトバッツの報告ではここにも地下牢獄は有るものの中には誰もいなかったようです」


 「めんどいなぁ、エルハイミ母さんさっきの神官捕まえてコクに『至高の拷問』させれば口を割るんじゃない?」


 セキはビーフジャーキーをかじりながら面倒そうに言っている。

 

 「だが万が一捕らわれている子供たちに危害が加わるようでは無理矢理に強襲するのは得策ではないぞ、セキ」


 子供好きのショーゴさんはセキにそう言いながら頭をなでる。

 最近セキはショーゴさんに頭をなでられても何も言わなくなった。


 

 「じゃあどうするの?」


 「ここはまずはあの神官の様子を窺いますわ」


 あたしはそう言ってシェルに姿隠しと音消しの魔法をかけてもらう。

 そして教会の中へと入って行くのだった。


 

 * * * * *



 「なるほど、そう言う事でしたのですわね」



 あたしたちはその神官の後をつけると一つの牢獄に入って行った。

 そして牢獄の壁に手をつけ呪文を唱えると床にぽっかりと下へと続く階段が現れる。

 神官はその階段を下りて行った。


 あたしたちは神官のその後をつける。

 そして驚かされる。


 長々と続くトンネルには所々魔法の明かりが掲げられ歩いたその先には大きな地下鍾乳洞の場所へたどり着いた。


 神官はそのまま更に奥に進む。

 すると鍾乳洞の中に人工の建物が現れた。


 神官はその建物の中を一瞥してから更に奥に進む。

 そして行き着いた先には何かの祭壇の様な物があった。



 「状況はどうなんだ?」



 「はい、順調です。それと飼育場の中でもこの者が適性かと思われます」


 見ればその祭壇では神官服の男どもが女の子の上に乗っている。

 あたしは思わずコクとセキの目を二人のあたしで隠す。



 「「コクとセキにはまだ早いですわ!!」」



 「うわぁ~、凄い事になってるわね‥‥‥」


 「まだ幼い者もいるというのに!」



 シェルは思わず目を逸らす。

 ショーゴさんは既に刀を持ち出し殺気が滲み始めていた。


 まあ、あんなの見せられれば誰だって絶句してしまうだろう。

 ここは間違いなく「テグの飼育場」であり色欲の神を降臨させるための祭壇なのだろう。



 生贄となる少女はうつろな瞳をしていた。

 どうやら意識が封じられている様だ。


 「よろしい、この娘は生娘でしょうね? それではこの娘を贄にいよいよ『色欲の神』降臨の儀式を始めましょう! お前たち、もっと乱れなさい! そして『色欲の神』の魂を呼び寄せるのです!!」




 その神官はそう言って声高々に笑うのであった。

  

  

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