第103話ベイベイの街


 「お嬢様、もう三十人になりますが‥‥‥」


 「あら? 私としては百人は欲しい所ですわ」


  

 あたしにそう言われドレイドは額に汗を浮かべる。

 これで三回目のオークション。

 しかし出展される奴隷はすべてあたしが買いあさっている。


 他の客のあたしに対しての視線がきつい。


 しかしここはオークション。

 落札価格に問題がある訳でもなし、競り落とせない方が悪いのだ。


 「では今回も全部頂きますわ。まだまだ欲しいのでいい子を揃えてくださいですわ」


 あたしはそう言って代金を払い奴隷たちを全て連れ去るのだった。



 * * * * *



 「お母様、これも全てポーチに入れておけばいいのですか?」


 「そうですわね、新鮮そうで良い魚ばかりですわ」


 港で水揚げされた魚はあたしがすべて買いあさっている。

 この街で食べる分以外の商品はこの所すべてあたしが買い上げているので流通には海鮮が一切出回っていない。


 「エルハイミ母さん、またあいつら見てるよ?」


 「放っておきなさいですわ。私たちは正規の手続きですべてを買い上げているのですわ。漁師たちもそれで同意しているのですもの、問題は有りませんわ」


 遠巻きでこちらを睨んでいるのは商業ギルドの連中だろうか?

 それともこの街の元締めの関連者か?

 どちらにせよこちらもだんだんとモノの流れが止まり始めたのだった。



 * * * * *



 「お姉さま、また侵入者のようですがゴーレムに手痛くやられて逃げ帰ったようです」


 「想定通りですわね。そう言えばあの子たちはどうですの?」


 「クロさんとクロエさんが鍛えてますよ。そうそう、お姉さまに言われた魔道の素質のある子もやはり何人かいましたね。やっぱりあのやり方で鍛えるのですか?」


 イオマと午後のお茶を飲みながら状況を聞いていると最後にイオマに頼んでおいた魔道の素質のある子たちについて聞いて来た。


 「ええ、勿論ですわ。その子たちには将来この街の産業を担ってもらうのですからしっかり鍛えないとですわ」


 イオマはため息をついてあたしが準備したリストバンドを見る。



 「初級魔法を教えたばかりだというのにいきなりこのやり方ですか‥‥‥」



 「大丈夫ですわ、師匠譲りの特訓方法ですわ。確実に効果がありますわ」


 あたしはびっと指を立ててそう言う。

 イオマは乾いた笑いをしているが自分自身がそれを経験しているので特に何も言わない。


 イオマはあたしに頼まれてこの子たちの魔道の先生をしている。

 とにかくゲートが使えるくらいには鍛えたい所だ。

 最短で半年でその位には成長しそうな子もいる。


 それにイオマには「鋼鉄の鎧騎士」作成がまだ残っている。

 あっちはあたしが不足材を作り上げたので後は組み上げるだけなんだけど、ルブクさんたちが出来ない魔術回路はイオマがやらなければならない。


 だから師匠譲りの特訓方法しか無い訳だ。

 そんな事を思っていたらショーゴさんがあたしに告げる


 「主よ、どうやら来客のようだぞ?」


 「とうとう来ましたわね? 意外と早かったですわ」


 あたしはそう言いながら窓の外を見る。

 すると玄関先で既にもう一人のあたしがやって来た人物に会っている様だった。



 * * * 

 

 

 「我々は国税局の者だ。この館の主殿に話があってやって来た!」


 使用人になったばかりの女の子がおっかなびっくり彼らを門から館の玄関まで引き連れて来た。

 そして玄関先で開口一番横柄な物言いでそう言ってきたのだった。

 あたしはわざとゆったりと階段を降り玄関先のホールに姿を現す。



 「騒がしいですわね? どなたでしょうかしらですわ?」


 「貴女がこの館の主殿ですか? まさかこの様な可憐な女性とは‥‥‥」



 見た所三十路くらいのおっさんとその取り巻き数人があたしを見て驚く。

 あたしはわざとゆっくりとした動作で玄関ホールまでやって来て彼らに聞く。



 「どちら様でしょうかしら?」



 「はっ!? わ、私たちはミハイン王国の国税局の者です。失礼ですが貴女は?」


 あたしに聞かれるまでぼぅ~っとあたしに見とれていた彼らはあたしに聞かれ慌てて名乗り出てあたしが誰か聞いてくる。


 「私の名前はエルハイミ。今はそう名乗っておきましょうですわ」


 「エルハイミ殿ですか‥‥‥ 失礼、あなたは貴族の方ですよね? どちらのお家の方なのですか?」


 あたしの家の名を知りたいようだがわざと伏せておく。


 「エルハイミだけでは不足でしょうかしらですわ」


 あたしがそう言うと彼は眼鏡のずれを直す。

 そして取り巻きたちが後ろでこそこそ何か話している。



 「お、おい、エルハイミってまさかあのエルハイミか?」


 「まさか『育乳の魔女』の!?」


 「ほ、本物か?」



 ちょっとマテ後ろの。

 なんでここでも「育乳の魔女」が出て来るのよ!


 

 「エルハイミ殿としか名を出せませぬか‥‥‥ 分かりました。ではエルハイミ殿、少々貴女について取り調べが有ります。よろしいか?」


 「取り調べですの? 良いですわ。ではこちらに」


 あたしはそう言って彼らを応接室に呼ぶのだった。



 * * * 



 「貴女はこのベイベイで漁師たちから直接海産物を購入しているとの話ですが、間違いないでしょうか?」


 「ええ、間違いありませんわ」


 あたしはお茶をすすりながら答える。

 今この応接間には国税局のマキシ=アビューと名乗る国税員とその取り巻き数人が来ている。

 彼らはメモを見ながら一つ一つあたしに質問をしている。


 「では貴女はこのベイベイに新規に流通ルートを作ろうとしていると言う事ですね?」


 「ええ、私の故郷には海産物が乏しく新鮮な海産物はとても喜ばれますの」


 あたしはそう言ってにっこりと笑う。

 将来的には本当にその販売ルートは作るつもりだけどね。 

   

 「我が国の海産物が商売として流通するのは良いのですが、あなたはこの国の貿易ギルドに登録していませんね?」


 「ええ、私たちの販路では貿易ギルドが不要なのですわ」


 あたしは涼しい顔でそう言い切る。

 すると彼はむっとした表情になり話し始める。


 「この国の規定では物流で国外に輸出する場合には税を納めてもらわなければなりません。通常は貿易ギルド経由で有れば貿易ギルドが売買の取引の中でその分を代わりに処理するのですが、エルハイミ殿の場合貿易ギルドに登録されていない。つまり税の支払いをせずに輸出をしている事になります」


 ふむ、やはり表の産業でも問題になり始め早速この街の元締めが動き出したか。

 国に泣きついてあたしの販売ルートをつぶそうという腹積もりか?

 あたしは慌てず騒がず核心の部分を言う。


 「それではいくら税を納めればよろしいのですの?」


 「貿易ギルドに登録されないのであれば買値の三割を納めていただきます」


 ずいぶんと凄い金額を言い出してきたものだ。

 通常は高くても一割。

 それを三倍とは確実にあたしのルートをつぶしにかかっている。


 

 しかし‥‥‥



 「シェル、納税分をここへ」


 あたしがそう言うと一緒に控えていたシェルはポーチから金貨の入った袋を出しマキシ=アビューの前に置く。


 

 どさっ!

 

 ざわっ



 マキシの取り巻きたちに動揺が走る。

 それもそのはず要求される税の軽く十倍はあるだろうからだ。


 「エルハイミ殿、これは?」


 「私もこの国の事には疎いのですわ。今後私の商売に色々とご教授いただけるものとして少々多めに納税をさせていただきますわ」


 しれっとそう言うあたし。

 それを頬に一筋の汗を流しながらあたしを見るマキシ。


 「わかりました。ではエルハイミ殿のベイベイでの商売を認めます」


 「ええ、今後ともによしなに」


 話は終わったとばかりにあたしは席を立ちあがる。

 それを受けてマキシ=アビューも立ち上がる。



 「しかし、とんでもない方が来られたものだ。エルハイミ殿の屋敷にはずいぶんと若い使用人が多いようで」


 「ええ、私の趣味ですわ。かわいい子が多くてとても楽しめていますわ」



 皮肉のつもりだったのだろうけどあたしにそう言われマキシは苦笑する。

 

 「ではいずれまた」


 「ええ、それではごきげんよう」


 あたしに見送られてマキシたちは去っていくのだった。



 「エルハイミ、あいつらって」


 「ええ、国も動き出しましたわね。さあ忙しくなりますわよ!」


 シェルはマキシたちが出て行った扉を見つめながらそう言う。

 


 ここまでは予定通りだ。

 あたしたちは次の行動に移るのだった。  

 

 

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