第100話オークション
「お決まりになられましたか?」
店主は軽食を持ちながらあたしにそっと聞いてくる。
「ええ、興味をそそられるのがいくつか有りますわ。でも、実際に見てみないと決めかねますわ」
すると店主はニヤリと笑いあたしに耳打ちする。
「私共の店を通さずお買い求めになられるならオークションに参加なされたら如何でしょうか?」
「あら、それは良いですわね。では詳しく教えていただけますかしら?」
あたしはそう言ってまたまた数枚の金貨をそっと渡す。
すると店主はにこりと笑いポケットからバッジを取り出す。
「今からお教えいたします場所に明後日の夕刻行かれてこのバッジを見せればオークションに参加できますよ。その際この店の名を出していただければ幸いですが」
この店の上客と言う事か?
それとも店の功績をあげる為か?
まあこれで足掛かりの一つは見つかった。
「ええ、では楽しませてもらう事にいたしますわ」
あたしがそう言うと「よいお買い物を」とだけ言って去っていった。
「エルハイミ、これって」
「ええ、かなりの頻度で公に出来ない奴隷の売買が行われていたのですわね。早速部屋に戻りベルトバッツさんとショーゴさんが戻ったら相談しましょうですわ」
あたしはそのバッジを握りしめるのだった。
* * * * *
「流石はお母様です。もう足掛かりを見つけられましたか」
「うーん、ルームサービスのこのお肉あんまりおいしく無ーい! ね、やっぱり外のレストラン行こうよ!」
部屋にもどりもう一人のあたしとコク、セキと合流する。
「しかしオークションまであったとはですわ」
「そうですわね、それだけ公には出来なくても頻繁に奴隷の売買はされていると言う事ですわね?」
あたしたちは思った事をそれぞれ言う。
複数で口にすることにより自分の考えを整理するのに意外と使えることが最近分かって来た。
「あ~、相変わらずエルハイミどうしが話しているのは慣れないわね」
「そう? エルハイミが沢山いれば話し相手になってくれるしいいじゃん!」
シェルはため息をつきながらマリアとあたしたちを見ている。
そんなに変な事かとあたしたちが同時にシェルを見ると「うっ!」とか言ってシェルは後ずさった。
「お母様、ベルトバッツが戻ったようです」
そう言った途端にコンコンと扉がノックされる。
「入れ」
コクが言うとベルトバッツさんが入室して来た。
「ただいま戻りましたでござる。黒龍様、ご報告させていただきますでござる。ベイベイの街には全部で七つ奴隷商がございますでござる。そのうち四つが裏でジュリ教とつながっているようでござる」
四つも?
ジュメル撃退後もジュリ教は裏では四つも飼育場を保有していると言う事か?
「ジュリ教は色々な理由でその身を奴隷に落とした者たちの一時救済所として稼働しているようでございますでござる」
つまり、教会が正規、非正規の両方に関わっていると言う事か?
あたしたちがそんな事を思っているとショーゴさんも戻って来た。
「主よ、今戻った。しかし面倒だぞ? ジュリ教で子供たちを扱っている場所は孤児院として稼働している様だ」
「孤児院ですの?」
教会で身寄りのない子供を預かるという話は珍しくもない。
大体がそのままその教会で従事して才能のあるものは神官として成長をする者もいる。
そして大体の神官が冒険者やそれに準じるような事をしてお金を稼ぎ自分のいた協会に寄付を行うのも結構いると聞く。
また、子供に恵まれない夫婦に養子として引き取られる事も有るという。
勿論それらは正式な手続きで行われるので慈善行事とされているけど。
「これでジュリ教は確実に『テグの飼育場』を保有している事は分かりましたわ」
「そうするといきなりジュリ教に攻め入るのですの?」
あたしたちはそう口にしてみる。
しかしそれで「テグの飼育場」にいる子供たちを処分や他の場所に移送されたら面倒だ。
「どうするつもりなのエルハイミ?」
シェル以下みんなあたしを見る。
「ふう、経済に混乱が生じますがやるしかないですわね?」
「もっともそれにはこの国自体の大掃除も必要ですわ」
あたしたちはそう言って顔を見合わせそして同時に言う。
「「もう一人の私も呼んで総戦力でこの国の根底から叩き直してあげますわ!」」
そうあたしたちは断言するのであった。
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