第99話救えない者たち


 あたしたちはとりあえずここベイベイの街で高級そうな宿をとる。



 「エルハイミはあたしと一緒だからね!」


 「何を言うのですかこのバカエルフは! お母様は私と一緒です!」



 部屋割りでシェルとコクがもめている。

 流石にこの人数なので三部屋取る事になったのだけど既にもめている。


 「主様がまた二人に分かれればいいではないでいやがりますか?」


 クロエさんは飽きれながら簡単に言ってくれるけどベッドが一人分足らなくなってしまう。

 あたしは仕方なしに余分に一人分多く宿代を支払って部屋を取ったのだった。



 * * *



 ベイベイの街は表面上は何処にでも有るような普通の街だった。

 ただ、やたらと歓楽街が多い街で裏路地には如何にもそれっぽいお店も立ち並ぶ。


 セレやミアムの話ではこの国では公に奴隷制度で奴隷が見受けられるとの話だった。

 しかし街中では奴隷自体が見受けられない。


 ジュメルの「テグ飼育場」もこの国ではかなり特別でテグの飼育方法も高級志向と言っては変だが、貴族や有力者向けに飼育しているとの話だった。



 「さて、何処から手を付けたものやらですわ」


 「情報を集めるのであれば冒険者ギルドか酒場を回った方が良いだろう、主よ」


 あたしが何処から手をつけるか考えていたらショーゴさんがそう言って冒険者ギルドへ行く事を提案してくる。

 まあ妥当な方法だろうけど、ここは正攻法で行っても普通の奴隷についてしか話は出てこないだろう。

 だからあたしはコクを見る。


 「コク、ベルトバッツさんにお願いしてジュメルの『テグの飼育場』を調べてくださいですわ。ショーゴさんは正攻法で酒場や冒険者ギルドをですわ」


 「わかりました。ベルトバッツよ!」



 「はっ! お呼びでありますか黒龍様」



 コクはさっそくベルトバッツさんを呼び出し「テグの飼育場」について調べる様に命令をする。

 命令を受けベルトバッツさんはすぐに姿を消す。

 ショーゴさんも「行って来る」とだけ言ってこの場を離れる。


 そして別れた一人目のあたしもクロエさんとクロさん、そしてシェルを連れてこの宿屋の食堂に行く事にする。



 「ちょっと待ってエルハイミ、これって何よ!?」


 食堂に行く前にあたしはシェルに首輪を作ってはめる。

 あまり目立たない様にしているけど高級そうな奴隷の首輪。


 「私もいろいろと動いた方が良いと思うのですわ。だからシェルにも協力してもらいますわ」


 「協力するのは良いけどなんであたしだけこんな首輪されるのよ? はっ!? まさかエルハイミとうとうあたしをエルハイミのモノにしてくれるの!? でもいきなりこんな高等プレイなんてっ/////」


 

 いや、一体どんなプレイよっ!?

 あたしはノーマルよ!?



 「流石主様! 普通じゃ無いプレイをさせたら右に出る者がいないでいやがります!」


 

 おいこらそこっ!

 クロエさんまでまるであたしが変態のような事言っているんじゃないわよっ!!



 「ふう、お母様もその道に目覚められましたか? 必要であれば私を使って『至高の拷問』の練習をしてくださってもかまいませんが?」


 「うっわぁ~っ、エルハイミ母さん本当なの?」


 うっとりとするコクにドン引きするセキ。

 

 「ん? エルハイミ何するの??」


 シェルの肩にとまっていたマリアは首を傾げ頬を染めているシェルのゆるい顔を覗き込んでいる。


 

 「私はそのような事はしませんわぁっ!」



 軽くあたしの叫び声が響いたのだった。


 

 * * *



 「すみませんわ、軽い食事をお願いしますわ」


 あたしは宿の食堂に立ち寄って店主にそう言う。

 この宿は馬小屋にいくつか貴族らしい馬車が停まっていたのでそう言う客が多いのだろう。

 そしてわざわざミハイン王国へ来ると言う事は「買い物」に来ているのだろう。


 「何にしましょうか?」


 店主は直々にあたしにオーダーを取りに来る。

 しかしその眼は既にシェルを見ている。


 そう、シェルの首輪を。



 「私、噂でわざわざベイベイの街まで特産物を買いに来ましたの。しかし初めてなので何を買ったらよいか分かりませんわ。おススメをお聞きしたいのですわ」


 そう言ってそっと店主に金貨を見えない様に渡す。


 店主は少し驚いたようだったがあたしがシェルを引っ張り抱き寄せるのを見てニヤリと笑う。

  

 「では少々お待ち下さい、特別メニューをお持ちします」


 そう言って一旦厨房に引っ込み硬い表紙カバーに包まれた「特別なメニュー表」を持ってくる。

 それをそっと差し出し「お食事は?」と聞いてくる。

 あたしは「適当にお願いしますわ。私は特産物を吟味させていただきますわ」とだけ言う。


 店主はすぐに厨房に戻って行った。

 そしてあたしはそのメニューを開く。



 「いきなり当たりですわね」


 「なによ、どう言う事よエルハイミ?」



 抱き寄せられて頬を染め瞳をウルウルさせているシェル。

 そんな事はどうでも良いから的な雰囲気で何かを期待している。



 『シェル、あなたのお陰でいきなりヒットですわ。やはり貴族や有力者に対しては街ぐるみで動いていたようですわね』


 『はぁ? そんな事はどうでも良いわよ! ね、「チュー」してよ! なんならそのままベッドに連れて行ってもらってもかまわないのよ!!』



 おいこらシェル、目的忘れて欲情してるんじゃないわよ!!



 『シェル、これを見なさいですわ』


 念話で会話しながらあたしはそのメニュー表を見せる。

 途端にシェルの表情が変わった。



 「なるほど、流石主様です」


 「まあバカエルフに首輪付けた時点で何か考えていたとは思いましたでいやがりますけど」



 ずっとあたしの後ろに控えて立っていたクロさんとクロエさんも周りに聞こえない様にそう言う。



 そうこれは奴隷の在庫と要望に対するリストであった。



 これが公には売られていない奴隷であれば未だジュリ教が関わっている「テグの飼育場」の可能性が高い。


 あたしは部屋に待機しているもう一人のあたし経由でコク、セキにも今の情報を話す。

 そしてそのメニューを見ながら少しイラついていた。


 メニューの中には五歳くらいからの女の子中心に二十歳くらいまでの奴隷たちの内容が書かれていた。

 在庫もかなりいる。


 通常の奴隷では無いのは一目瞭然だった。



 『全く、これじゃティアナだって危ないんじゃない?』


 『流石に赤子を売ることは無いと思いますわ。でも予想以上に腐っていますわね』




 シェルの念話にあたしはこの救われない者たちに同情だけはするのであった。



 

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