第98話ミハイン王国へ


 「はぁ~、暇ねぇ~」


 「バカエルフは何を呑気な事言っていやがるです?」



 あたしたちは馬車に揺られながらミハイン王国を目指している。

 正直馬車に乗っての長旅は久しぶりだ。


 あたしはユーベルトで合流したあたしを一人に戻していた。


 コクとシェルはものすごく反対したけど馬車に乗るとなれば一人分減らさないといけないと説得、寝る時にまた別れるとの約束で移動中は一人に戻っている。



 ‥‥‥寝る時。


 そう言えばいつの間にかコク以外もあたしと一緒に寝るようになっていたな?

 どうも別れたあたしが同時に眠気を感じると思考能力が落ちる様でいつもコクと一緒に寝ていたのがシェルもイオマも一緒に寝るという風になってしまっていた。



 今気付いた。



 これは是正しないとティアナを見つけた時に何を言われる事やら。


 あ、でも今のティアナはちっちゃいから分からないかな?

 まだ赤ん坊だから一緒に寝てあげて、抱っこして、可愛がってあげて‥‥‥



 「お母様どうしたのですか? ずいぶんと嬉しそうですが?」


 「はっ!? い、いえ、ティアナを見つけたらまだ赤ちゃんだからコク同様ティアナにもおっぱいあげなきゃならないなんて全然思ってなんかいませんわ!」


 「欲望が駄々洩れでいやがります」


 クロエさんに突っ込まれながらコクにも抱き着かれる。


 「お母様! 私の分はちゃんと残してください! 私の唯一の楽しみなのですから!!」


 「あ~、魔力は欲しいけど今はそんなに急いで摂取しな‥‥‥ぐぎぎぎぎぎぃ、コ、コクぅぅっ!」


 「セキ余計な事を言わなくていいのですよ?」


 コクがセキに強制力を発動している様だ。

 まったく、この姉妹ときたら。



 あたしはコクとシェルに挟まれながら窓の外を見る。

 まだまだミハイン王国は遠い。


 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「主よ、関所が見えて来たぞ」


 馭者をしていたショーゴさんが馬車の中のあたしたちに知らせてくれる。

 なんだかんだ言ってユーベルトから馬車だと十日以上かかった。

 


 「止まれ! ここより先はミハイン王国の領土となる。入るには入国税をもらう。一人銀貨一枚だ!」



 衛兵らしい人がそう言いショーゴさんに馬車を止めるように言う。

 そして馬車の中を確認する為に扉を開く。



 「どこぞの貴族の令嬢か? 随分と変わった組み合わせだな、しかしエルフまで同行とは。七人いるから銀貨七枚支払ってもらいますぞ?」


 「ええ、これでどうぞ。おつりは要りませんわ」


 あたしはそう言って金貨一枚を渡す。

 金貨一枚は大体銀貨十枚分の価値がある。

 

 「随分と気前のいいご令嬢だな。失礼、どのような目的でミハイン王国へ?」


 「そうですわね、観光と言う事にしておきますわ。その方がよろしいでしょう? 私は新しい従者が欲しいのですの」


 あたしはにっこりとそう言う。

 するとこの衛兵はふっと笑って「よいお買い物を」とだけ言って馬車から離れた。


 あたしたちはそのまま馬車を走らせる。



 「なによあれ? 『よいお買い物』って何よ?」


 「結局それがこの国を陰で支える産業である事には変わり無いと言う事ですわ。特殊な奴隷の売買ですわよ」


 あたしにそう言われてシェルは嫌そうな顔をする。


 どうやら公では無いようだがあたしのようにここへ来る貴族は少なく無い様だ。

 そしてそれは関所にいる衛兵にまで周知されている。


 全く、奴隷制度を否定はしないけどこうもあからさまにされると気分が悪くなる。


 あたしはミハイン王国の城壁を見ながらそう思うのだった。

 


 * * * * *



 「さて、まずはどこかの宿を取らなければですわ」



 ミハイン王国首都ベイベイ。


 特に大きな国では無いもののウェージム大陸最西端の王国。

 一応連合に参加はしているものの後口参加の為ジュメルに対しても対応は消極的だった。


 街並みはいたって普通。

 街の住人も見た限りでは特に変わった所は見受けられない。



 「このような街にセレとミアムはいたのですね、お母様?」


 「ええ、見た目はこんなに平和な所ですがここでティアナとジュメルは戦ったのですわ」



 見ればジュリ教の神殿があちらこちらにある。


 そしてこの街には冒険者も多い様だ。



 「そう言えばファムたちはここで冒険者やっていたんだっけ?」


 シェルはふと思い出したようにそうつぶやく。

 そう言えば今はティナの町で活躍している「風の剣」と言う冒険者のパーティーは元々ティナの町にシルクの下着を買い付けに来てそのままティナの町を拠点にしていたんだっけ?


 当時まだシルクの下着はアテンザ様経由でしか夜会に出回っていなかったからここミハイン王国で欲しがる人がいたなんてね。


 

 いや、待てよ?

 

 ここに買い物に来る貴族はそう言う事に使う為にシルクの下着を欲していたのか?

 確かに夜用の下着は当時も爆発的に売れていた。

 あのデザインは女性を美しく見せるだけでなくそれまでの下着の一線を越えていた。


 あたしは色々繋がって来たので更にうんざりとする。


 売った先の使い方なんて知りたくもなかったけどまさかこんな所でそんな使われ方をしていたとはね。

 そしてよくよく見れば裏路地の入り口には目立たない様に色物看板がひっそりと立っている。

 しかもジュリ教の神殿の横とか。



 「はぁ、分かっていても気分のいいものではありませんわね」


 「ん? 何が?」


 シェルは分かっていないようだけど自分のデザインした下着がそう言った使われかたしていると知ったらどんな顔するのだろうか?

 

 「シェルは知らなくても良いのですわ」


 「??」


 首をかしげるシェルだけど知らない方が良い事だってある。

 あたしはショーゴさんに頼んでよさそうな宿を探してもらう。



 「とにかく宿屋を見つけてからですわ!」




 あたしはそう言って表の顔の街並みをもう一度見るのだった。

 



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