第97話ユーベルトから出発
帝都エリモアにいたあたしたちはユーベルトの実家に転移して来た。
「そう言えばここにはコクたちがいるのよね?」
「ええ、そうですわよ。これからミハイン王国に向かう為に準備をしていますわよ。私たちが準備出来ればすぐにでも出発できますわよ?」
シェルに聞かれあたしは答える。
実家にいるあたしたちは既にミハイン王国へ行く準備を整えていた。
今ここへ来たあたしたちはシェルとショーゴさんが準備を整えれば出発できる。
「え~っ! せっかくエルハイミの家に来たんだからチョコ食べさせてよ~!!」
シェルの懐に潜り込んでいたアリアが飛び出してきた。
「お戻りになられましたか、お母様」
その様子をコクが出迎えてくれる。
「戻りましたわね? こちらの準備は整いましたわ」
コクの後ろからあたしがやって来る。
まあ、あたしたちには分かっているのだけど二人して顔を合わせると思わずおかしくなってしまう。
あたしたちは思わず顔を合わせて笑ってしまった。
「なによエルハイミ? 自分を見て何がおかしいのよ?」
「「いえ、これだけのことが出来ても行った事の無い場所へは転移できないのだから私も万能では無いのだなと思いましてですわ」」
シェルの質問に思わずあたしたちは同時に答えてしまった。
そして二人して顔を見合わせまた笑ってしまった。
そう、これから向かうミハイン王国には行った事が無いのだ。
だからこうして馬車を準備して普通の長旅の準備をしている。
もう一人のあたしはティナの町に残ってイオマと「鋼鉄の鎧騎士」作成を始めた。
ホリゾン帝国との戦いで勝利したガレント、連合軍ではあってもまだまだジュメル自体が壊滅した訳では無い。
なのでガレント王国としては守りを固める「ガーディアン計画」は継続している。
そしてあたしがいるので不足の部材は作り出せる。
その話をした時にはエスティマ様がどれだけ喜んだことか。
常々台所事情が厳しい話をしていたからだ。
まあそれでもジルの村から採れる宝石で何とか運営を続けられたのは僥倖なのだけどね。
そんな訳で今回は行った事の無いミハイン王国へあたしたちは行く事となった。
「しかし主よ、こうしてコクたちと合流したが主は二人のままでいるつもりか?」
「そうですわね、このままお父様やお母様に見つかると厄介ですわ」
あたしがそう言った時だった。
「おおおおおぉぉぉっ!! エ、エルハイミ様がお二人もおられる!!」
遅かった。
ヨバスティンに見つかってしまった。
ずざぁざあああぁぁぁぁっ!!
スライディング土下座と言う新しい技をきれいに披露するヨバスティン。
「エルハイミ様! これはどう言う事でしょうか!? エルハイミ様がお二人もおられる!? これは奇跡かはまた夢か!? いや、我が女神エルハイミ様なら造作もない事でしたね!!」
あー、面倒になって来た。
一番見つかりたくないのに見つかっちゃった。
「あらあらあら~、エルハイミが二人もいるわねぇ~?」
しまった、またまた面倒な人が!
「あれ? ばーちゃんには言ってなかったっけ? エルハイミ母さん三人いるよ?」
「三人!? それは本当にございましょうかエルハイミ様ぁっ!!」
ママンにくっついて来たセキが余計な事を言うからヨバスティンが更に反応する。
そして恍惚とした表情であたしを拝む。
「ああぁ、エルハイミ様が三人もおられる‥‥‥ これはもう一家にお一人のエルハイミ様も夢ではない!!」
いや、あたしをそんなに増産してどうするの!?
無理だから、三人以上に分かれるの無理だからっ!
そもそも三人に分かれたのだっていろいろとやらなければならない事が多かったからで今のあたしの認識ではこれ以上別れたらとてもじゃないけど収拾がつかなくなる。
これでも思考速度と反応を速めているのだからこれ以上別れるなら完全に別人格の分身にでもしなきゃやっていられない。
もっとも今のあたしには分身を作るほどの経験も何も無いからできないけど。
だって同時で三画面以上の事を処理すること考えてみてよ?
これが四画面、五画面になった日には‥‥‥
見るだけならできるかもしれないけどリアルタイムで入ってくる情報をそんなに的確に処理なんて出来ないってば!
フリーズするあたし続出じゃあ使い物になんてならない。
「ヨバスティン、それは勘弁してくださいですわ。それに私は三人以上には分かれる事は出来ませんわよ?」
「おおぉぉっ、それでも流石エルハイミ様です! そうだ、この感動をみんなに伝えなければっ!」
「待ちなさいですわっ! いいから、余計な事はしないでくださいですわ!!」
あたしはヨバスティンを魔法のロープで縛り上げる。
こいつを説得しておかないとまた変な噂が流されてしまう!
「ああっ! ご褒美だぁッ!!」
カメさんの様な縄の網目で木魚のポーズに縛り上げて動きを封じる。
「ふむ、流石はお母様。しかし『至高の拷問』をするのであればこの状態から吊るしあげ蝋燭と鞭が‥‥‥」
こらこらこら、コク何処でそんなこと覚えるのよ!?
しないから、そんな拷問あたしはしないからっ!
「コク、拷問ではありませんわ、説得ですわ」
あたしは びっ!と人差し指を立ててヨバスティンの目の前で力説する。
「良いですの、ヨバスティン。今は私が複数に別れられることが世に知られてしまえばこの世を混乱に導こうとしているジュメルに気取られ更警戒されてしまいますわ。よいですの、この事は他言無用ですわ。私はこの世の天秤のバランスを崩さぬようにしなければならないのですわ!」
「おおっエルハイミ様と私めの秘密‥‥‥ わっかりましたぁっ! このヨバスティン、決してこの事は他言いたしませぬぅっ!」
ヨバスティンが歓喜に震えているとママンが後ろを向いて誰かに話しかける。
「あらあらあら~、ササミー、ササミー。エルハイミが三人もいるのよぉ~」
おいこらママンっ!
だから内密にってばっ!
「ぅうぇエルハイミ様ぁっ!! 何と言う事でしょう!! エルハイミ様がお二人もぃいるぅうぅぅっ! 」
ずぅざぁざざざざざざぁぁッ!!
そしてササミーも見事なスライディング土下座をかます。
あー、もうこの夫婦はぁっ!!
あたしはササミーも魔法のロープで縛り上げてから話をする羽目になった。
「お母様、ここはやはり鞭と蝋燭では?」
「そんなものいりませんわぁっ!!」
あたしの声がこだまする中慌ただしいここユーベルトの出発準備は進むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます