第四章
第92話ティアナ探索再開
「エルハイミちゃん! これは凄いですよ!!」
あー、予想通りだった。
ボヘーミャにイオマと戻って来ていた。
アンナさんは引っ張り出した魔道具や研究資料、魔導書の山を見て目を輝かせている。
あの後三人に分かれたあたしたちはもとに戻ろうとしたらシェルやイオマ、コクがもの凄く反対して一人に戻れなくなっていた。
そして今次の事が有るので色々な所へと廻らなければならなかった。
なのであたしは三人に分かれたまま行動をする事にした。
一人目のあたしはイオマとここボヘーミャへ。
二人目のあたしはシェルとショーゴさん、マリアを引き連れてテグの飼育場が有ると言われているルド王国へ。
三人目のあたしはコクとセキ、クロさんクロエさんを従え実家経由で首都ガルザイルに行かなければならない。
流石に今回の事をアコード陛下に報告しない訳にはいかないから。
そんな訳で一人目のあたしは今ボヘーミャに来ている。
そして経緯を話してから大量の魔道具や研究資料、魔導書をボヘーミャ学園に寄与した所だった。
「エルハイミちゃん、これは本当にすごいです! 失われた魔道や現存する魔道の更なる探究がなされています!」
「え、ええとぉ、アンナさん少し落ちついてくださいですわ」
やばいなぁ、アンナさんの悪い癖が出始めている。
魔道の事になると没頭して自分の世界に入ってしまうと当面帰ってこなくなるからなぁ。
「師匠! 魔導書を読み漁るのは後にしてください!」
イオマに言われアンナさんは、はっ! として咳払いをする。
「すみません、興奮しました。しかし良いのですかエルハイミちゃん、これほどのモノをいただいても?」
「むしろこんな研究を変な所に野放しにすることの方こそ危険ですわ。ここはやはり学園で管理して役立ててもらう方が良いですわ」
あたしはびっと人差し指を立ててそう言う。
まあ実際これらの内容はやばそうなものは無いので大丈夫だろう。
中には【爆裂核融合魔法】の研究何て危ないものもあったけどそう言った物は全て処分済みにした。
魔力がある人物や補佐の魔晶石でもしあんな危ないものが使われたらどうしようもない。
そしてあたしはアンナさんに更に聞く。
「それでアンナさん、エリリアさんはいますの?」
「エリリア様ならいつもの様に屋根裏部屋で魔導書を読み漁っていますよ」
どうやら大丈夫のようだ。
あたしはアンナさんにエリリアさんに会いに行くと言ってその場を退席するのだった。
* * *
「ふむ、来たようだね?」
「お久しぶりですわ、エリリアさん」
あたしは知識の女神の分身である知識の塔管理者エリリアさんに会いに来ていた。
屋根裏部屋にこもっている彼女は日がな一日ここにある魔導書を読み漁っているらしい。
そんな彼女の前にあたしは来ていた。
そして彼女は本から顔をあげおもむろに大きな眼鏡をはずす。
「だいぶ変わったね? いや、女神様以上か?」
「『あのお方』のこの世界での端末になりましたわ」
あたしがそう言うとエリリアさんは一瞬大きく目を見開く。
そして「そうか」とだけ言った。
「君がここに来ると言う事は当面の問題となっていた『悪魔王ヨハネス』を倒したんだね?」
「ええ、その通りですわ。そして私が来た理由もお分かりですわね?」
エリリアさんはまた眼鏡をかけ直して静かに頷く。
そして上を向いてため息をついてから話し始める。
「具体的には分からない。女神の神託は予想できる未来についての助言だからね。女神だって万能じゃないんだよ」
「それはアガシタ様から聞いていますわ」
エリリアさんはあたしのそれを聞いて満足そうに頷く。
「では『魔王』についてだけど、女神と人間の間に生まれた半神半人のそれは異様な魂の持ち主だ。まだ人間社会が安定しないうちから転生を繰り返し、どう言う訳かエルフを敵視していた。そこまでは君も知っているだろうけど、問題は人間に対してはやたらと友好的だったらしい」
エリリアさんはそう言って読んでいた魔導書を閉じ立ち上がる。
「『魔王』は何が目的かは分からない。でも一つ言える事はその時代その時代に転生した者にかなり引かれているようで転生した人物の影響がかなり強いらしい」
そう言って世界地図を引っ張り出す。
「ライムから聞いたよ、君の探し求める転生者はジュメルの奴隷階層『テグ』に転生しているらしいね?」
「ライム様が来たのですの?」
エリリアさんは頷く。
そして世界地図を指さしこう言う。
「僕の知る限り『魔王』は主にイージム大陸かサージム大陸に転生している。過去その地に何度も転生しているからね。しかしまだ覚醒していないんだろう。その気配は全く感じられない。でも女神様の神託は君がその転生者を見つける障壁になると言う事だ。いや、最後には障壁になると言う事かな?」
「それはどう言う意味ですの?」
「今だ覚醒していないから『魔王』はこの世界にいないも同然なんだ。だけど君がその転生者に近づくと覚醒をするかもしれない‥‥‥」
ずいぶんとあいまいな情報だな?
あたしがティアナを探すと覚醒するっての?
「まあ、それでも今の君なら問題無いだろう? 『あのお方』のこの世界での端末となれば事実上アガシタ様より力を持っている。今の君は女神以上の存在なんだから」
そう言いながらメガネをずらしあたしを見る。
その裸眼はまるで面白いものを見つけた子供のように輝いていた。
「非常に興味深い」
エリリアさんはそう言ってあたしに近づいてくる。
そしてそっとあたしの頬に手をあてる。
「僕は君が知りたい‥‥‥」
「ちょっと待ってください! エリリア様、お姉さまは私のモノです!」
顔を近づけていたエリリアさんに待ったをかけるイオマ。
ずかずかと歩いてきてあたしを引っ張って抱きしめる。
既にあたしよりお姉さんになっているイオマはその大きな胸にあたしの顔を引き寄せがっしりと抱きしめる。
「駄目です! いくら女神様の分身でもお姉さまは渡せませんからね!!」
「ちょ、イオマ、そんなに引き寄せられたら‥‥‥むぐぅっ!?」
あれ?
イオマったらまた胸が大きくなった??
押さえつけられたあたしはイオマの胸で呼吸が出来なくなる。
「むぐむぐぅ‥‥‥ ぷはっ!? 窒息死してしまいますわ!!」
「ああ、ごめんなさいお姉さま! でもだめですからね、いくらエリリアさんが可愛いからってこれ以上他の女の人に手を出しちゃだめです! 手を出すなら私に出してください!!」
ぷんぷん怒りながらいまだにあたしを抱きしめているイオマ。
そんなあたしたちを見てエリリアさんは笑う。
「ごめん、ごめん。別に君からエルハイミ君を取り上げるつもりじゃなかったんだよ。ただ『あのお方』についてもっと知りたかったんだけどね」
「エリリアさん、それはよしておいた方が良いですわ。知らなかった事の方が良い事もありますわよ?」
あたしの中のあたしがいきなり表面に出てきてそう警告をする。
「お姉さま?」
どうやらあたしの存在が漏れ出ている様だ。
自分でもわかる、瞳の色が金色に変わっているのだろう。
「うっ、これ程とはね‥‥‥ 分かった、分かった。余計な真似はしないようにするよ。だからそのおっかない雰囲気はやめてもらえないかな? 僕は平和主義なんだから」
それを聞いたあたしは奥へを引っ込んだ様だ。
うーん、同意はしてくれているけどこういう時は出て来るのだな、あたしって。
「ふう、『あのお方』ってのはこんなにおっかない存在だったか。くわばらくわばら」
そう言ってエリリアさんはまた元いた椅子に座る。
話は終わったとでもいうかのように。
「そうだ、最後に歴代の『魔王』は全て女性に転生していたらしいよ。もし調べるなら彼女たちの裸を見て魔王の印が有るか無いか調べるのが一番早いみたいだよ」
なっ!?
それじゃぁその都度怪しい人を引っぺがさなきゃならないの!?
驚くあたしに隣にいたイオマはわなわなと震える。
そしてまたまたあたしを抱きしめ叫ぶ。
「だめですぅっ! お姉さま、また他の女の人に手を出しちゃ駄目ですぅっ!!」
「ちょ、イオマ、うぶっ!!」
またまた大きくなったイオマの胸に顔を押さえられもがくあたし。
それを見ていてくすくす笑うエリリアさん。
ティアナ探索再開だっていうのにしょっぱなからあたしの苦悩は始まるようだ。
イオマの胸に顔をうずめながらあたしは窒息死しそうになりながらそう思うのだった。
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