第93話王城への招集
「エルハイミ、話がある。そこに座りなさい」
パパンはそう言ってこの書斎にあたしを呼び机の前に置かれた椅子をすすめる。
コクやセキはママンと一緒にお茶をしている。
しかしあたしだけは重要な話が有ると言われてこの書斎に呼ばれた。
「エルハイミ、ここは親子として腹を割って話そうじゃないか?」
「一体どうしたと言うのですのお父様?」
珍しくまじめな表情でパパンは静かに自分の椅子に腰を下ろす。
そして机に手を組んで口元を隠しあたしを見ながら確認するように話し始める。
「エルハイミ、私はお前の父親として娘の幸せを願っていると言うのは理解してもらいたい」
「ですから何なのですの?」
パパンは静かにそしてはっきりとあたしに聞く。
「お前、人間やめたんだってな?」
「はい?」
唐突にそう言われたあたしは一瞬何を言われたか理解できなかった。
「『はい?』じゃないだろう!? エルハイミ、お前人間やめて女神様やってるって聞いたぞ!? しかも連絡入ったがホリゾン帝国で女神演じたりあっちこっちで女神の御業を披露しまくりただでさえこのユーベルト近郊ではお前が女神の転生者だと言われファーナ神殿でさえ『エルハイミ神殿』などと改名して大騒ぎだと言うのに!」
「あっ」
あたしは色々な所で思い当たる節があった。
「今お前、『あっ』って言ったよな? 言ったよなぁっ!?」
なんかパパンの威厳も何もなく口調ももうやめてくれと言わんばかりだった。
しかしこれらは何だかんだ言ってティアナの転生者を見つけるために必要な事だったり、その時々で必要な事でもあった。
特に悪魔神ヨハネスと天秤の女神アガシタ様の戦いでは最後の時点であたしが手を出さなければアガシタ様が危なかったし、ティアナの仇を打つ事も出来た。
あたしは慌てず騒がずびっと人差し指を立ててパパンに話す。
「人のうわさも七十五日と言いますわ、そのうち忘れ去られますわ!」
「いや、忘れんだろうにっ!? お前これだけ噂になってんだよ? ここにお前に王城に来るように手紙まで来てんだよ!?」
パパンはそう言って机の中から一通の手紙を出す。
あたしはそれを受け取り封印の蝋印を見る。
「アコード陛下ですの?」
「どーすんだよ、エルハイミ!? このままじゃいくら何でもただでは済まんぞ!? 前にも言ったがどう言う訳かここ最近ユーベルトだけではなくガルザイルもユエナもそして最近は南のドーバスにまで『エルハイミ教』なんてのが浸透し始めてんだよ?」
南の衛星都市ドーバス?
と言う事はバティックやカルロス、そしてファルさんは今その辺にいると言う事か?
むう、着実に宣教が進んでしまっている。
あたしは騒ぐパパンをそのままに手紙の封を切る。
そして中身を読み始める。
そこには要約すると説明に一度王城に戻って来いと言う事だった。
まあ流石にそろそろ行かないとやばいかなとは思っていたけど、先に招聘されるとは思わなかった。
「とにかくエルハイミ、私も一緒に行く。だから何があったか話してくれ」
パパンは真剣にそう言うのだった。
* * * * *
「コク、コクはいますの?」
「お母様、お呼びでしょうか?」
多分今の時間はママンと一緒に中庭の東屋にでもいるだろうと思ってやって来ると案の定コクたちはママンと一緒にいた。
「コク、お母様。私はお父様と一緒に王城に行かなければなりませんわ。今日中には帰ってこれると思いますがコクたちはここで待っていて欲しいのですわ」
「お母様! 何故です? 何故私がここで待たねばなりませんのですか!?」
「あらあらあらあら~、どうしたのエルハイミ? そんなに急ぐことなの?」
あたしは正直厄介ごとを減らしたかった。
王城へコクたちを連れて行って暴走でもされたら余計に面倒だし、もしクロさんやクロエさんが黒龍の姿になんてなったらそれこそ大騒ぎだ。
それに手紙にはなるべく目立たず来てもらいたい旨が書かれていた。
なのでコクたちにはここで待ってもらってあたしとパパンだけですぐに行って早い所問題を片付けて戻って来たいのだ。
あたしはコクを見る。
「コクには私がどのように悪魔王ヨハネスと戦ったかをお婆様に話してもらいたいのですが?」
「お母様のお話をですか?」
よし、食いついて来た!
「そうですわ。王城へはすぐに行って戻る程度の事、わざわざコクたちが来る必要もありませんわ。それより私の娘であるコクからお婆様に私がどのように活躍したかちゃんと教えてあげてくださいですわ」
「む、娘! お母様の活躍!!」
コクはそれを聞くとものすごく嬉しそうになってママンに如何にあたしが凄かったかを語りだした。
ふっ、ちょろいわね?
もともとコクはこう言ったお話をするのは嫌いではない。
「エルハイミ母さん、ちょっと露骨なんじゃ‥‥‥」
「とにかくすぐに戻るようにしますわ。セキも待っていて下しですわ!」
「まあ、あたしはばーちゃんが美味しいソーセージ食べさせてくれるからいいけど」
セキはそう言って山盛りのソーセージを フォークで取ってパキっと音を鳴らせながら食べている。
うん、この子もチョロゴン。
とにかくしばらくはこれで大丈夫そうだ。
あたしはその様子を見ていそいそとパパンのもとへと戻るのだった。
* * *
「エルハイミ、本当にすぐ着くのかい?」
馬車を準備させあたしとパパンは乗り込んで座る。
そしてあたしがぱちんと指を鳴らせたら馬車は既にガルザイルの街郊外にいた。
「なにっ!?」
「だ、旦那様!」
パパンも馭者も一瞬でいきなり別の場所に移動したので驚いている。
「大丈夫ですわ、私が空間転移をさせたのですわ。さあ、お城に行きましょうですわ!」
「エ、エルハイミお嬢様の魔道でしたか。驚きましたよ」
馭者はそう言って馬車を走らせ始める。
しかしパパンは納得いっていないようだった。
小声であたしに聞いてくる。
「エルハイミ、今のは何だ? 魔術じゃないだろう? いくら私でもそれくらいは気づくぞ?」
「これが私がお父様に話した『あのお方』のお力の片鱗ですわ」
パパンには今までの事を包み隠さず話してありあたしがこの世界での「あのお方」の端末である事も話した。
しかしその力を目の当たりにしてようやく実感が湧いたのだろう。
驚き半分不満半分と言ったような顔をしている。
―― どんなに変わってもお前は私の娘だからな! ――
ふと実家で出発前にパパンが言った言葉を思い出す。
不機嫌なパパンの横顔を見て思わず笑ってしまうあたしだったのだ。
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