第91話一旦戻ってから


 「おお、我らが女神だ‥‥‥」


 「本物の女神様が降臨されたのだ‥‥‥」



 民衆のざわめきの中あたしは背中に白い羽を生やせ空からゆっくりと存在を強く出し降りてくる。

 そして民衆の集まる中、王城のテラスに待つゾナーのもとへ舞い降りる。



 『よくぞ悪魔の神を退けてくれました。そして親愛なる民を紛いなる悪魔の誘惑より守ってくれました。邪悪なるものたちがいなくなり私は再びこうしてこの地に舞い降りることが出来ました』



 あらかじめゾナーが用意してくれていた台本通りにあたしは声高々にそれを演じる。



 「我らが真なる女神よ! 今この地に巣食う闇は払われた! 我らに今一度救いの手を!!」


 『いいでしょう、再びあなたたちに我が加護を!』



 あたしはそう言いながらあたしから見える範囲全体に回復をする光を放つ。

 これは【回復魔法】と同じような効果がありこの光を受けると体の悪い所が若干回復する。


 しかしこの演出のお陰で今この場所に集まっている人々にはその効果が飛躍的に現れたかのように感じ有れる。



 「ああ、女神様の救いの光だ‥‥‥」


 「体が楽になっていく‥‥‥」


 「おおっ! 戦でのケガが治っていく!」



 ケガのある人や体調不良の人は本来の状態に近づく。

 完璧に治るわけじゃないけどその光のお陰で疲弊していた民衆が回復をする。



 『ゾナー=ホリゾンよ、先代の父ゾルビオンは悪魔の束縛より解き放たれました。彼の者の魂は我が下へきて安らかに眠っています。あなたはこれより父に代わりこの地を納め二度と悪魔の誘惑に惑わされてはいけません。良いですね?』


 「勿論にございます、我が女神よ。我が命に代えまして守り抜いて見せましょう、この地を!」


 『よろしい、あなたとあなたの民に祝福を!』



 あたしはそう言って最後にあたし自身を一瞬強く光らせそしてその場から消える。

 まあ実際には空間移動しながらその存在を消しただけなんだけどその演出効果は抜群だった。


 民衆は大いに騒ぎそしてゾナーを新たな指導者として迎える。




 ぅうぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!




 あらかじめ申し合せた場所にあたしは転移してその様子をうかがう。 

 既に民衆はゾナーを称え口々に喜びの言葉を発している様だ。



 「お母様、お疲れ様です」


 「主様、見事な演技でした」


 「よくもまあこんな三文芝居が通用するでいやがります」


 「え~? そうかな? エルハイミ母さん上手く演じたと思うよ?」



 こちらに控えていたコクたちはあたしが戻るとそう言って出迎えてくれる。



 「とりあえずはこれで良しですわ」



 あたしは手を振って演出用の衣装をいつもの服装に変える。



 はぁ、台本通りとは言えやはり女神様なんかを演じるのは恥ずかしいものだ。



 しかし民衆は目に映る事を真実と思い込む。

 ましてや既にここにだってアガシタ様や悪魔神ヨハネスの戦いについては噂が流れ込んでいる。

 

 そしてガレント、連合軍に征服されたのではなく悪魔たちに洗脳されていた先王を第三王子のゾナーが倒しこのホリゾン帝国を解放したと言う事にしている。


 民衆はそれを聞きそしてあたしの演じる女神に祝福をされたと聞けばゾナーへの信頼も厚くなる。


 こうしてホリゾン帝国をゾナーは近隣の保護国ルド王国共々併合してホリゾン公国を作る予定だ。

 勿論表面上はガレント及び他国と対等と言う事にするが事実上はガレント王国の庇護下に入る事にする。

 そうすれば疲弊したこの公国に援助が送られ北の厳しい大地でもなんとか復興が出来る公算だ。



 「とにかくこれでこっちは終わりましたわね? 他の私もいろいろと終わりそうですし、後は十二使徒からの情報をもとに世界各国の『テグの飼育場』を回りティアナの転生者を探すまでですわ!」


 ぐっとこぶしを握りあたしはそう言う。



 「お母様、それなのですが‥‥‥」


 しかしコクは申し訳なさそうにあたしに話しかけてくる。


 「十二使徒もあのダークエルフも口を割ったのですが、あの者の持つ情報は古く全部で三十の飼育場までしか分かりませんでした」



 コクからのその報告を聞いてあたしは驚く。

 分かっているだけでも三十もの飼育場が有るの!?



 「ここエリモアには地下飼育場が無かったからとりあえずその三十をしらみつぶしかぁ~。お母さんちゃんと転生しているかなぁ?」


 セキは両手を頭の後ろに組みながら天井を見る。

 しかしこれで当面の目処は立った。


 「それではこれが終わったらゾナーたちに話をして一旦戻りましょうですわ!」


 あたしはそう言って一旦シナモナ一族の研究所に戻ることにしたのだった。



 * * * * *



 「ただいま戻りましたですわ」


 「お疲れ様ですわ」


 「帝都では大変でしたですわね?」



 あたしはシナモナ一族の研究施設に戻って待っていた残りの二人のあたしに挨拶する。

 まあ、同じ自分なのでこんな事しなくても良いのだが何となく気分的にね。



 「やっぱりエルハイミたちが集まると変な感じよね‥‥‥」


 「ええ? でもそのうちのお姉さま一人を自由にできるのは良い事じゃないですか!」


 「やはりイオマ辺りがお母様にちょっかい出していたのですね? まあ、私の取り分のお母様がいるのなら大目に見ますが」



 なんかシェルやイオマにコクがあっちでひそひそ話をしている?



 「さてと、全部のエルハイミさんが戻って来たからいよいよこのガラクタをどうするか決めてもらわないとね」


 エリッツさんはあたしたちの顔を見るや否やそう言う。

 既にあたしたちは分かっているのだけどこの大広間がほとんど埋め尽くされている魔道具や研究書。

 内容的には系列に分かれているので非常に貴重な資料となる。



 「エリッツさんはこの中で欲しいものは無いのですの?」


 「あいにくあたしは引退した身でね。一族の悲願は遠の昔に叶ってしまったからね」

 

 そう言ってニヤリと笑う。

 まあ、「亡者の王リッチ」をあたしが倒した時点で目的達成だからそれで良いのだろう。



 「師匠、ではこの後どうするつもりですか?」


 「なに、余生をゆっくりと好きな事をして過ごすよ。イオマ、もしお前さんがその気があればシナモナ一族のこの研究施設はお前さんにあげるよ。ここには召喚魔法や空間転移などの研究資料もたくさんあるからね。召喚士としての腕をあげたいのなら自由に使うがいい」


 そう言って初めて優しそうな笑顔を見せる。


 「師匠‥‥‥」


 「最も、召喚士としての研究成果は既にお前さんに渡しているがね。あの魔法の杖に封じられている召喚の魔法陣はあたしたちの研究成果さ」


 そう言えば魔法陣も無しにイオマは召喚獣を呼び出していた。

 イオマは師匠からもらったその杖のお陰だと言っていたけどそれはそれで凄いことだよね?


 召喚士として既に最上級に達しているはず。

 もっともあの時はイオマの魔術師としての錬度が低いせいで弱いモンスターしか呼び出せなかったけど。


 「今のお前さんなら相当な魔獣たちを呼び出せるだろうよ」


 そう言われイオマはいつも使っている自分の杖をもう一度見てから大事そうに抱きしめる。


 「はいっ、師匠! でも私はやっぱりお姉さまについて行きます!」


 「ああ、分かったよ。でも何時でも戻ってきていいんだからね」


 そう言うエリッツさんにイオマは嬉しそうに頷いた。



 「さて、そうするとこの魔道具と資料ですが魔法学園ボヘーミャに寄贈しますがよろしいですの?」


 「ああ、かまわないよ」


 あたしの提案にエリッツさんは頷く。

 アンナさん大喜びするだろうなぁ。



 あたしはそう思いながらこれらの魔道具と研究資料を異空間にしまい込むのだった。

  

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