第90話ホリゾン帝国解放
帝都エリモア。
ここはその昔「狂気の巨人」を倒す為にご先祖様が作り上げた城塞都市。
もともと北の大地は寒冷地帯で人が住むには厳しい環境だった。
それを古代魔法王国時代には魔法の力で過しやすい環境に変えたり人々が容易に暮らせるよにとしていった。
ただこの国はもともと戦闘に特化した軍事国家の気があった。
「狂気の巨人」を討伐する為に。
「うっわぁ~、何ここ!?」
セキは街並みを見ながらぼやいた。
それもそのはず、以前来た時以上に雰囲気が悪い。
「どうやらかなり生活にも支障が出ていたようですね?」
コクは露店を見ながらそう言う。
戦争が終わっても人々は生きていかなければならない。
だからこうして生活のために露店も出ているのだが‥‥‥
「ほとんど非常食のようなモノばかりでいやがりますね?」
「心なしか民も痩せているように感じますな?」
そう、帝都の住民はかなり疲弊していたのだった。
あたしは王城を見る。
今頃は城門を開きガレント、連合軍に徴収されている頃だろう。
あたしはガレントの隠れ家に向かってみるのだった。
* * *
「エルハイミ様、これを」
あたしたちは帝都エリモアのガレントの隠れ家であるこの拠点に来ていた。
「ありがとうございますですわ、ハスラーさん」
ここの潜伏員だったハスラーさんがガレント、連合軍からの連絡書を持ってきた。
本来はあたしが直接行けばいいのだろうけど、今行ってしまうといろいろと面倒事を手伝わされそうで遠巻きに様子を見ていたのだけど。
それに今後を考えるとゾナーがここホリゾン帝国での指導権を確保して指導者として頑張ってもらわないといけない。
最初からあたし辺りに頼られても困るもんね。
もともと今回の戦争はホリゾン帝国の宣戦布告から始まった。
そして世界各国はホリゾン帝国と事を構えるのを嫌がった。
それはガレント王国の内部でも同じで防衛にだけ徹していればいいという考えが強かった。
しかしアコード陛下は兵をあげ、大義名分の為に元第三王子ゾナーを指揮官に抜擢してこの戦争を任せた。
そうなれば各国もそこに援助するという形で連合軍に白羽の矢が立った。
ホリゾン帝国はジュリ教を国教とし、それを母体とするジュメルがホリゾン帝国に強力な魔怪人たちを提供しているのは周知だったため連合軍は尚更好都合だった。
こうして本腰を入れない大戦が始まり攻めるに攻めにくい大陸間海峡の問題も有り長引いていたのだった。
「私に王城に来いと? ですわ??」
あたしは渡された連絡書を見て首をかしげる。
せっかくガレント、連合軍として勝利をしたのに今更あたしに王城に来いとか何なのだろう?
しかし連絡書にはそれだけ書かれていた。
「ゾナーがお母様を呼ぶとは一体何なのでしょう?」
「戦勝祝いでもするのかな? お肉出るかなっ!?」
コクやセキがやって来て覗き込んでくる。
まあ落ち着いたら顔見せくらいはしておこうと思ったからちょうどいいか?
「今はまだ慌ただしいでしょうですわ。明日行く事にしましょうですわ」
あたしはそう言って今日はゆっくり休むことにした。
* * * * *
翌朝あたしたちは徴収された王城へと向かって行った。
「郊外で戦闘を行ったおかげでここは無傷のようですわね?」
城は古い作りで何となくガレントの王城に似ている。
まあ、もともとが同じ人が作り上げた訳だから似ているのは当然か。
あたしたちが門まで行くとここを警備していた人が驚いて慌てて膝まづく。
「これは女神エルハイミ様! お待ちしておりました、どうぞ中へお入りください!!」
「はいっ? 女神ですの??」
あたしが間抜けな答えをするとこの青年はキラキラした目で顔をあげあたしを見る。
「はいっ! エルハイミ様のお陰で我ら連合軍は助かりました! あの悪魔の神を目の当たりにして絶望をしていた我らに天秤の女神アガシタ様共々光を見せていただいた。我々の勝利はエルハイミ様のお陰です!」
ええぇとぉ~。
純真なるそのまなざしが痛い。
とても痛い。
そして周りにいる兵士たちが彼と同じように跪きあたしをあがめる‥‥‥
「流石はお母様です!」
コクは嬉しそうにしているけどこれって‥‥‥
「コ、コク、中に入ったら見えない所で転移してすぐに逃げましょうですわ!」
「それは困りますよ。エルハイミ様」
声のした方を見るとアラージュさんがいたぁ!?
「やっぱり逃げようとしますよね? でも今の私たちにはエルハイミ様が必要なんです。来てもらいますからね」
さらにカーミラさんまで出てきたぁ!?
あたしは逃げるに逃げられなくなり二人に付き添われゾナーのもとへと向かうのだった。
* * *
「よく来てくれた。助かる、エルハイミ殿」
「ゾナー、いったいこれはどう言う事ですの?」
アラージュさんとカーミラさんがあたしをゾナーのもとへ連れて行く間、出会う兵たちは全て跪きあたしを拝む。
まるで本当に女神と出会ったかの如く。
「この戦い、まだ終わってないのだよ。最後の問題となるジュリ様への信仰、こいつをどうにかしない限りこの国の住民も納得しないのさ」
「それで私に何をしろと?」
既に逃げられなくなっているあたしは出されたお茶を飲みながら嫌々聞いてみる。
するとゾナーは楽しそうにこう言う。
「なに、女神様をやってもらえばいいんだ」
「ぶっ!」
思わずお茶をこぼしてしまった。
いや、なんとなく予想はしていたけど本当にあたしに女神様をやらせる気?
「既にガレント、連合軍の兵やサボの港町の住人はお前さんの事を女神として認識している。それに実際にあの悪魔の神を最後に倒したのはお前さんだって聞いている」
ゾナーは涼しい顔をしてお茶を飲んでいる。
「ここでは今現在いない女神様より目に見える女神様の方が人々は安心できるだろう? ジュメルはこの帝都エリモアから手を引いた。そしてジュリ様の加護が無くなったと人々は落胆している」
ゾナーは立ち上がり窓の近くまで行き外を眺める。
そしてぼそりと一言「酷いもんだ‥‥‥」とつぶやく。
ううっ、今のこの帝都の現状は知らない訳じゃない。
戦争に負け、女神の加護が無くなりこの極寒の地で取り残された民たちの気持ちが分からない訳では無い。
しかし、何もあたしを女神様に祭り上げなくたって!
「私は『無慈悲の魔女』としてこの国では忌み嫌われているのではないのですの?」
「いや、逆にそこが狙いだ。既に知名度はある。あとはあの時と同じ演出で今までの行いが皆に対する試練であったと言えばこの国の連中は納得してくれるのさ」
おいこら。
良いのかそんなのでっ!?
確かに神様ってのは何か辛い事が有ると「試練です」で済ます所があるけど、そもそもそれは信仰があっての話じゃ無いの!?
「そう上手く行くかしらですわ?」
「大丈夫だ、既にガレント本国と連合会議からホリゾン帝国解放の暁には支援物資の提供を約束している。あとは民の気持ちを救ってやればこの戦、完全に我々の勝ちだよ」
こいつわぁ~っ!
既にそこまで水面下で準備が進んでいたと言う訳か?
あたしはゾナーを睨む。
「そう睨むなよ、もともとは我が主にこの大役してもらうつもりだったんだからな。天秤の女神アガシタ様に祝福されしガレントの姫として」
「ティアナを?」
ゾナーはそう言ってあたしに向き直る。
そして膝を落として頭を下げる。
「我が主は皆の光だった。それはティナの町だけではなくこの北の大地でも同じになると思っていた。だが我が主は‥‥‥」
そこまで言われるとあたしにはもう断る事は出来ない。
ティアナの名まで出されそしてこうして頭を下げられればどうしようもない。
あたしは心底大きなため息をついてから応える。
「仕方ありませんわ。その役引き受けますわ。その代わりノージム大陸の『テグの飼育場』については協力してもらいますわよ? それと筋書きはそちらで用意してくださいですわ」
「ああ、勿論だ」
ゾナーはそう答えながら立ち上がり「感謝する」と言う。
あたしはもう一度大きなため息をつくのだった。
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