第89話十二使徒ラニオン


 あたしはガレント、連合軍とホリゾン帝国の戦争の結果を見届けてからコクたちが待つこの丘の上に戻って来ていた。


 

 「お戻りになられましたか、お母様」


 「ただいまですわ、コク。どうですのその後は?」


 帝都を見てみるも今のところ動きは無い様だ。

 でも聖騎士団が負けた事はもう王都にも伝わっているだろう。


 となると、そろそろかな?


 あたしがそう思っていると予想通りのようだ。



 「動いたようですな?」


 クロさんがそう言って指さす。

 見ればこちら側の城門横の小さな扉が開いた。

 

 そしてそこに見るからに貴族風の数人の人物たちがこそこそと出てきた。

 さて、この中にジュメルの十二使徒たちがいるかどうかだけど‥‥‥



 「面倒だよね? とりあえず全部ぶっ飛ばしておく?」


 セキが腕をぶんぶん回している。

 

 「身ぐるみはがせば持ち物でわかりそうでいやがります。セキがぶっ飛ばしてどんどんこっちに放り投げるでいやがります」


 クロエさんもなんだか楽しそうにそう言う。


 いや、それじゃあ盗賊か何かじゃない?

 マジそれじゃ駄目でしょうに!



 あたしは仕方なく逃げ出してきたそいつらを空間ごと拘束する。

 まあこの中にもし十二使徒がいればこれで済むのだけど。


 突然動けなくなったそいつらは慌てている様だけどとりあえずこの丘にまで空間転移させる。



 「うわっ!? な、何だここっ!?」


 「だ、誰だお前ら!?」


 「儂らは一体!?」



 全部で七、八人くらい。年齢も性別もばらばらの連中だ。

 あたしはこいつらを見渡してから言う。 



 「私はエルハイミ、あなたたちは帝都エリモアを逃げ出そうとしたのですわね?」



 「エ、エルハイミだとっ!?」


 「『無慈悲の魔女』っ!?」


 「ひえぇぇぇぇっ! 胸を大きくされるぅっ!」



 おいコラ、最後のは何だ?

 あたしがジト目でそいつを見ると腰を抜かし漏らしながら涙目で懇願してくる。



 「た、頼む、助けてくれ! 助けてくれれば金はいくらでも出す!」

 


 「ふむ、俗物ですね? お母様こいつらはとてもでは無いですが十二使徒には見えませんが?」


 「とりあえず身ぐるみはがしてみればジュメルかどうかはわかるでいやがります」


 「めんどくさいなぁ」


 クロエさんは指をぽきぽき鳴らしながらコクは頭の後ろをポリポリと掻きながらこいつらに近づく。

 よほど怖いのかこいつ以外の他の連中もガクガクブルブルと震えている。  



 「主様、どうやら本命が出て来たようですぞ」


 クロさんはそう言ってあたしを呼ぶ。

 見れば今度はちゃんと城門が開きそこから馬車が出てきた。

 そしてそれにはちゃんと護衛がついている。

 しかも神官服を着た護衛だ。


 「素直に出て来るとは思いませんでしたわ。ジュメルの事だから何か企んでいるかもしれませんわね?」


 そう言ってあたしはまた空間ごと拘束する。


 さっきの貴族同様護衛を含むすべての連中が驚き何か騒いでいる。

 あたしはパチンと指を鳴らし今度はあたしたちをそいつらの前に空間転送する。



 「なっ!?」


 「誰だ貴様ら!?」



 護衛たちは途端に声を張り上げるけど身動きできないで固まっている。

 

 「私はエルハイミ。そちらの馬車にいるのはジュメルの十二使徒ですわね?」


 言いながらもう一度ぱちんと指を鳴らす。

 すると途端に拘束が解けて神官服姿の護衛たちが動き出す。



 「くっ!!」


 「エルハイミだと!? 『無慈悲の魔女』か!!」


 「お、おのれぇっ!!」



 護衛たちはそう言いながら魔怪人に変身する。

 そしてあたしに襲いかかろうとするも一瞬でクロエさん、セキ、クロさんに蹴散らされる。



 どかっ!

 ばきっ!

 どしゃぁっ!



 『ぐぅぉおおおおぉぉ!!』


 『なんだとぉ‥‥‥』


 『ぐっ、こいつら強い!』



 地面に這いつくばりあたしたちを見上げる魔怪人たち。

 すると馬車の扉が開く。

 そして一人の神父服の男が下りて来た。

 見た感じ三十路くらいの優男っぽい感じの人物。

 彼はあたしを見ると話しかけて来た。


 「まさかこんな所でお会いするとはですね? あなたがエルハイミさんですか?」


 「あら、お初にお目にかかりますわ。私はエルハイミ=ルド・シーナ・ガレント。ごきげんようですわ、ジュメルの十二使徒さん、ですわ」


 あたしは宮廷式の挨拶をする。

 するとこの神父も同じく挨拶を返して来る。


 「私はジュメルが十二使徒ラニオンと申します。できればあなたにはお会いしたくはなかったですな? これほど美しく可憐な少女があのヨハネスを倒したとは。全く、あなたは一体何者なのです?」


 「私はただのエルハイミ。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」


 「お戯れを‥‥‥ この化け物の魔女めがっ!!」


 ラニオンはそう言って手を挙げるとあたしの後ろからダークエルフの女が襲いかかる。



 きんっ!



 「なにっ!?」


 あたしを毒の付いた短剣で刺そうとしたがそれをベルトバッツさんの刀が受け止める。



 「ダークエルフらしいでござるな。しかし拙者がいる限り姉御に手は出させんでござるよ!」


 「くっ!」



 ダークエルフの女性はベルトバッツさんから大きく離れるが既にコクがその後ろについていて手刀を首に入れる。


 「ぐっ!?」


 呻いたダークエルフの女性はそのまま地面に転がる。


 「まだ殺しはしません。聞きたい事もありますからね」


 そう言ってコクはベルトバッツさんを呼ぶ。


 

 「ベルトバッツよ、この者たちを捕らえ『テグの飼育場』について口を割らせよ! 『至高の拷問』をフルで使う事を許す!」


 「御意っ!」



 あ~、本気モードのベルトバッツさんの拷問かぁ。

 まあジュメルだし、十二使徒だし、どうせろくでもない連中だし良いかっ!



 「パメラっ! おのれ魔女めっ! こうなればっ!!」


 ラニオンは懐から魔晶石を取り出し魔怪人たちを呼びつける。



 「融合だ! お前たち魔女を始末しろっ!」



 ラニオンは魔力を開放してセキたちに転がされた魔怪人たちを呼び寄せ融合させる。


 びきびきびきっ!


 それは三体の魔怪人を引き寄せ溶けるかのように重なりそして一つの大きな化け物に変わる。


 「見よっ! 我らジュメルの開発したトリプル融合魔怪人だ! 通常の融合魔怪人の数倍の威力を発揮できる新型融合魔怪人だ!」



 ん~と、確かに威力は上がっている様だけど、これじゃあセキにだってワンパンでふっ飛ばされるだろう。



 高笑いをするラニオン神父と融合によってその体を大きくしたトリプル融合魔怪人。

 ラニオン神父はあたしに向かって手をかざし「ゆけっ!」と一言命令を下す。


 すぐさまトリプル融合魔怪人はあたしに襲ってくるけどすぐに間に入ったセキにそのカギ爪の腕を弾かれる。

 そして更に懐へ入ったクロエさんのパンチが決まり上空高くにふっ飛ばされる。



 「へっ!?」



 間抜けな声を上がるラニオン神父。



 「ひょぉぉぉおおおぉぉぉぉっ!」



 ずばずばずばっ!



 上空に飛ばされたトリプル魔怪人はクロさんによって肉塊へとなり果てる。



 「なんだとっ!? トリプル魔怪人が!!」



 「観念なさいな、ラニオン神父ですわ」


 びしっ! とあたしに指さされラニオン神父は数歩たじろぐ。


 「くっ! この化け物どもめ!!」


 言いながら懐からまた魔晶石を取り出しその魔力を解き放つが‥‥‥



 きんっ!



 「なにっ!? どう言う事だ? 何故帰還魔法が発動しない!?」


 「この空間を固定しましたわ。今この中に居る者はどんなことをしても他の場所へは移動できませんわ」


 驚き何度も魔晶石に封じられている帰還魔法を発動させようとしているラニオン神父だがあたしに指摘され青ざめてこちらを見る。



 「この化け物がぁっ! 【火球】ファイアーボール!!」



 苦し紛れに攻撃魔法を繰り出すけどすべてあたしにぶつかる前に魔力還元して吸収する。


 

 うーん、ジュメルの十二使徒ってこんなもんだったっけ?



 あたしは指先にちょっと空間を弾かせ、ぴんっ! とするとラニオン神父が吹っ飛ぶ。

 盛大に吹っ飛んだラニオン神父は地面に転がるが最初に弾いた衝撃が強すぎたか転がったそれは白目をむいていた。



 「お母さま、始末したのですか?」


 「いえ、ちょっと空間事弾いただけですから死んではいないはずですわ」


 多分気絶してるだけだと思うけど‥‥‥

 いや、あたしってそんなに残酷じゃないよ?

 十分手加減しているはずだし。


 ちょっと心配になって近くまで行くとどうやら息はしている様だった。

 でもちょっと不安なので回復をさせておく。


 よし、とりあえずこれで一安心。

 こんなに簡単に死なれては困る。

 あたしはコクに向き直って言う。


 「それではコク、この十二使徒も捕らえてベルトバッツさんにお任せして『テグの飼育場』について聞き出してくださいですわ」


 「わかりました、お任せをお母様。ベルトバッツよ!」


 「はっ! ここに!」


 「この者も『至高の拷問』にて口を割らせよ! 手加減無用、すべてを吐かせろ!」


 「御意っ!」



 なんかうれしそうなベルトバッツさん。



 

 あたしはちょっとこのラニオン神父に同情するのだった。


  

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