第88話父と子と


 早朝の朝もやの中ガチャガチャと金属音を鳴らせ城門が開き聖騎士団が動き出した。



 「お母様、動き出したようです」


 「予定どおりと言う訳ですわね」



 コクからの報告を聞いてあたしは立ち上がり丘の上からその様子を見る。


 「ほほう、確かに聖騎士団だけですな」


 「なにあれ? ただの人間だけじゃん、これじゃぁもう勝敗は決まったも同然じゃん!」


 クロさんやセキの言う通り見ればきらびやかな鎧に身を包んだ騎士団が城門から出てきてその隊列を乱すことなく整列を始めていた。


 そしてひと際豪華な鎧に身を包んだ集団が出て来る。

 どうやら近衛兵たちのようだ。


 「あれが皇帝ゾルビオンですの‥‥‥」


 あたしは誰とに無くそう言う。



 皇帝ゾルビオン。


 このホリゾン帝国の皇帝にして今次大戦の首謀者。

 しかしその実態は秘密結社ジュメルに操られている傀儡の皇帝。

 この世界を滅亡に導くために操られている哀れな皇帝。


 そしてその皇帝に対峙するはその息子である元第三王子ゾナー。


 運命はこの親子どうしに刃を持って対峙をさせようとしていた。


 

 「コク、私は戦の様子を見に行きますわ。帝都からジュメルが逃げ出して来るようであればすぐに念話で連絡をですわ」


 「わかりました、お母様」


 「エルハイミ母さん、あたしも付いて行こうか?」


 セキの申し出にあたしは首を振って断る。


 「セキはこちらの方をお願いですわ。ジュメルは何をするか分からないですわ」


 ジュメルの十二使徒の一人が帝都エリモアにいるそうだ。

 しかし既にホリゾン帝国の負けは決まっている。

 皇帝ゾルビオンを戦に駆り起たせ十二使徒は帝都を逃げ出すだろう。  


 あたしは「行ってきますわ」とだけ言って空間転移をするのだった。



 * * *


 

 あたしは空中でその様子を見る。



 既に帝都付近にまでホリゾン帝国の前線を突破したガレント、連合軍が進軍をしていた。


 主戦力であったホリゾン帝国の魔怪人たちの前線を突破した時点でガレント、連合軍の勝ちは決まったも同然だった。

 しかし敗北を認めないホリゾン帝国は結果この帝都付近まで戦線を後退させこうして最後の勝ち目の無い戦いをする事となってしまった。


 本来なら政治的駆け引きでこうなることを避けるべきだが操られている皇帝は破滅の道しか選ばなかった。


 

 そして戦いは始まってしまった。



 ホリゾン軍が戦闘開始合図の角笛を鳴らす。

 途端に聖騎士団が雄たけびを上げてガレント、連合軍に攻め込み始める。


 ガレント、連合軍もそれを迎え撃つために魔法攻撃や弓矢で攻撃を始める。

 しかしジュリ教の聖騎士団の鎧には対魔法処置がされていて魔法が効かない。


 だが物理的な攻撃は有効の為、矢や投石の攻撃に聖騎士団はどんどんとその数を減らしていく。

 


 そして前線どうしがいよいよとぶつかり合って混戦が始まる。


 こうなってくると援護の攻撃は出来ない。

 只々兵士同士が戦いその混戦が収まるまで殺し合うだけだ。


 あたしはその様子を黙ってみている。


 そして願う。

 この流される血が最後の戦いになる事を。


  

 * * *



 混戦が始まってどのくらいが経っただろう?

 次第にあちらこちらで戦っていたそれは終焉を迎えようとしていた。


 ガレント、連合軍がホリゾン軍を圧倒し始め聖騎士団の数を減らしていく。

 既に負けは決まっているが聖騎士団は退かない。

 

 が、いよいよそれも終わりだろう。

 どうやらこの混戦の中でもその指揮官どうしが最後の一騎打ちを始める様だ。


 戦いの中に一か所だけぽっかりと場所が開き周りの戦闘も止まり始める。

 そして両軍とも静まり返りその開かれた戦場に二人の代表が現れる。


 ガレント、連合軍側は黒い鎧を身にまとった大柄の者、そう元第三王子ゾナーその人だ。

 対してホリゾン側は見た目は豪華な鎧だが着込んでいるその人物はかなりの歳をとった人物。

 まず間違い無くあれが皇帝ゾルビオンなのだろう。

 そしてその後ろにはやはり豪華な黒い鎧を身に着けた屈強な体格をした二人の人物が控えていた。



 「久しいなおやじ殿」


 「汝裏切り者よ、今この場で神の裁きを受けるがいい」



 ゾナーは剣を肩に担いだ状態でよろよろと腰から剣を引き抜く老人を見ている。

 誰が見てもこの一騎打ち皇帝ゾルビオンの負けだ。

 あの老人がゾナーに勝てるとは思えない。



 「悲しいかな、これって戦争なんだよな‥‥‥ おやじ殿、その命もらい受ける!」



 言うが一閃ゾナーはその剣を振るう。


 その一連の動きに皇帝ゾルビオンは剣を抜いて構えたまま身動き一つ出来ずにその首をはねられる。



 ざわっ!



 周りもその一瞬にざわめくが誰もが予想をしていた通りであった。


 これは儀式だ。

 この戦いのを終わらせるための。


 だがその儀式をぶち壊す存在がいた。



 「まだである! 皇帝は神の力をその身に受け今一度立ち上がるのである!」


 「是、我ら偉大なる父は死してもその身を神にささげ異教徒どもを、裏切り者を滅ぼすであろう!!」



 後ろに控えていた二人の豪華な黒い鎧を着こんだ者たちがそう宣言して懐から魔晶石を取り出す。


 そしてその魔力を開放すると首をはねられた皇帝の体に変化が起こった。


 そのひ弱そうな体がはじけどんどんと大きくなる。

 そしてそれは魔怪人のそれに変わりはねられた首を自分で拾い上げ大きく開かれた口に放り込む。



 どよっ!



 流石にこれには周りで事の成り行きを見ていた兵士たちも動揺が走る。



 「兄者! 死したるおやじ殿の尊厳を冒涜するか!!」



 しかしその二人の人物は笑いながら言う。



 「皇帝ゾルビオンは神のお力にて蘇った!」


 「異教徒どもを打ち滅ぼすのだ!!」



 ゾナーは懐から魔晶石を取り出し自分の剣に装着させる。

 途端に刀身に炎が噴き出し魔剣へとその姿を変える。



 「おやじ殿、今その呪いから解き放ってやる。もう二度と誰かに操られる事無いようにな!」



 「ぐろろろろろろぉぉおおおぉぉっ!」


 魔怪人に変わり果てた皇帝はその太い腕を振り上げソナーに襲いかかる。

 しかしゾナーはその腕を簡単にくぐり抜けその魔剣に力を込め魔怪人になり果てた皇帝の腹に突き刺す!



 「【炎のいかづち】ファイアーボルトぉっ!!」



 ゾナーは力ある言葉でその力を開放する。

 途端に突き刺さった剣先が爆裂するかのように化け物に変わった皇帝のを内から膨れさせ爆発するかのように燃え上がらせる。


 ソナーはすぐさま剣を引き抜き懐からまたまた魔晶石を取り出し駆けながらそれを取り換える。

 そして後ろに控えていた黒い鎧の一人にそのままその剣を突き刺す。


 「【炎のいかづち】ファイアーボルト!」


 「ぐおっ!」


 突き刺された黒い鎧の男もすぐさま破裂するかのように燃え上がる。



 「貴様ぁっ!!」



 残った黒鎧は叫びながら何と自ら魔怪人に変身する。

 そしてゾナーに襲いかかろうとするがまたしてもゾナーは剣を引き抜き魔晶石を取り換え襲いかかる魔怪人にその剣を突き立てる。



 「安らかに眠れ兄者! 【炎のいかづち】ファイアーボルトぉっ!!!!」



 ボンっ!!



 魔怪人になったその者はソナーの魔剣を受け破裂するかの如く燃え上がる。

 ゾナーは剣を引き抜きその場を離れる。




 うぉおおおおおぉぉおぉぉぉっ!!!!



  

 途端にガレント、連合軍から歓声が上がる。

 

 終わった。

 

 長かったこの戦いに終止符が打たれた。

 あたしはその一部始終を見ていた。


 ふとゾナーは自軍に戻りながら上空高くにいるあたしに目配せをする。

 あたしが見ていたことに気付いていたか。



 

 あたしは無言でうなずきそしてコクたちの所に戻る為また空間転移をするのだった。   

 


 

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