第87話皇帝ゾルビオン


 「ただいま戻りましたでござる、黒龍様」


 「ふむ、丁度良い所で戻った、ベルトバッツよ」



 あたしは髪の毛が乱れた状態でぴくぴくとしながら服装を整えよろよろと起き上がる。


 コクは既に口元をナプキンで拭いてお肌つやつやで戻って来たベルトバッツさんと話を始めていた。



 「ごちそう様~。お腹がふくれる訳じゃないけど魔力が体中にみなぎって気持ちいい!」


 「そ、それはよかったですわね‥‥‥ 所でセキ、最近セキもコクと似たような魔力の吸い方なのですが、ですわ‥‥‥」



 五歳ちょっとに見えるセキは闘龍と言われこんなに小さいのに簡単に魔怪人や融合魔怪人を倒せる。

 人間で言えばまだまだ母親に甘えるくらいの年頃なのだけど。


 「う~ん、あたしにそっちの気は無いけど魔力をもらうのなら美味しい方がいいもの! コクのやり方は欲望半分、美味しい魔力欲しさ半分なんだよ~」



 「欲望が半分ですの!?」



 いや、何となく分かってはいた。

 なんだかんだ言いながらティアナのような手つきであたしの胸をまさぐっている時点で。

 吸い方だってそれはそれは疼くような吸い方して来るし!



 はぁ、早くティアナを見つけなきゃ‥‥‥



 あたしがそんな事を思っているとコクがあたしを呼ぶ。



 「お母様、動きがあったそうです。皇帝ゾルビオンは明朝残りの聖騎士団を引き連れ最後の戦いに赴くようです。そしてその隙に帝都にいる十二使徒が脱出する段取りの様です」



 いよいよ皇帝ゾルビオンが出て来るのか。

 あの演説をして国民を奮い立たせたあの皇帝。


 しかし実際には秘密結社ジュメルに操られ傀儡の皇帝であった。


 「これはゾナーに知らせてやった方が良いですわね?」


 「ではベルトバッツよ使いとしてゾナーに知らせてやれ。そしてその後帝都エリモアにて『テグの飼育場』を探れ!」


 「御意!」


 コクにそう言われてベルトバッツさんはすぐさま姿を消す。


 これでガレント、連合軍には情報が届くだろう。

 そしてあたしたちもいよいよ帝都エリモアに巣食うジュメルの殲滅が出来そうだ。



 「やっと少しは体が動かせそうでいやがりますね!」


 ぱしっ!


 手のひらにもう片方の拳をぶつけながらクロエさんは笑う。

 この人、メイドのはずなんだけどなぁ。


 突っ込みを入れたくてもそれが当たり前のようにクロさんも肩で笑っている。

 黒龍も知竜じゃなくて闘竜なんじゃないかと思うんですけど。



 「お母様、それではご指示を」


 「そうですわね、護衛にいると思う魔怪人や融合魔怪人は任せますわ。そして十二使徒には転移魔法等使えなくなるように私が空間を固定しますわ」


 十二使徒も後わずかしかいない。

 ここで逃すようなことはしない様に確実に仕留める。


 以前のように転移魔法や帰還魔法の魔晶石による逃亡は一旦発動されればどうしようもなかったが今のあたしならたとえ発動されても空間自体を固定できるからそこからは逃げられない。




 あたしは帝都エリモアを見るのだった。 

 

   

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