第86話ホリゾン帝国巡視のあたし
19-25ホリゾン帝国巡視のあたし
「お母様、やはり残るは聖騎士団のみの様です」
帝都エリモアが見渡せるこの丘にあたしたちはいる。
そしてガレント、連合軍は帝都をはさんだ向こう側でジュメルの魔怪人たちを主力とする軍勢と戦っている。
「コク、ベルトバッツさんたちにジュメルの動きを見張ってもらってくださいですわ。皇帝ゾルビオンはこの後、最後の戦力を引き連れて帝都の外で決戦を行うでしょうですわ」
既に勝敗は見えていた。
いくら魔怪人や巨人がいても今のガレント、連合軍には魔装具や「鋼鉄の鎧騎士」が配備されていて人外の力を持つ者たちにも十二分に対応できている。
もしこれに以前のあたしたちやティアナの駆る初号機がいれば既に帝都は陥落していただろう。
でも今のあたしにはそれは出来ない。
あたしも既に人外の力を持つ者。
ここでガレント、連合軍に手を貸せば単なる虐殺になってしまうし下手にあたしを目撃した人々は更にあたしを女神あつかいするだろう。
でもあたしを女神にするのだけは何とか阻止しないとただでさえ「エルハイミ教」なんてのが広まっているのだからティアナを見つけて静かに暮らすあたしの野望が邪魔されてしまう!
それだけでなく「育乳の女神」なんて不名誉な名前まで拡散しているって言うのだからたまったものでは無い!
「しかしつまらないでいやがりますね? 私たちはここでずっと高みの見物でいやがりますか?」
腕を組んでいるクロエさんは短いスカートを風に翻しながら時折黒い下着をチラ見せしている。
うん、思わず目線が行っちゃうんだよねぇ~。
「クロエよ、主様と黒龍様の御前だぞ。ひかえんか」
クロさんはそう言ってあたしたちに一礼する。
「ご命令が有れば帝都に巣食うジュメルどもを血祭りにあげますが?」
「クロ、それはお母様の意に反する。我々は逃げ出してきたジュメルだけを殲滅すれば良い。こちらから動き帝都の住民に被害を及ぼすでない」
コクはそう言うとクロさんは更に頭を下げ詫びる。
「これは出過ぎた真似を。どうかお許しください黒龍様」
コクは一言「よい」とだけ言ってあたしに聞いてくる。
「お母様、ベルトバッツが戻りましたら帝都の『テグ飼育場』も?」
「そうですわね、そちらも調べてくださいですわ。ただ、噂では帝都には『テグの飼育場』は無いと聞いていますわ」
ティアナが転生したとされるジュメルの奴隷階層「テグ」。
もともと奴隷である者を増やす為にジュメルは世界各国に「テグの飼育場」というモノを持っている。
そしてそこで人体実験に使ったり、慰みモノに使ったり、戦士にするために使ったりとおおよそ表沙汰に出来ないような事にこの奴隷たちを使っている。
既にコクと一つ目の「テグの飼育場」を襲撃したあたしたちはその惨状を目の当たりにして大いに気分が悪くなった。
あれは人として扱われていなかったのだ。
地下の牢獄に首に鎖を繋がれうずくまっていた人々。
中には誰が父親だか分からないような子供もたくさんいてそんな子供たちまでも最初から首を鎖につながれていた。
鎖が無いのはせいぜい乳飲み子の赤ん坊くらい。
全く人間はどこまで残酷になれるのだろうか!
思い出しただけでも吐き気がしてくる。
「秘密結社ジュメル‥‥‥ ヨハネス神父がいなくなり『テグの飼育場』自体はそのままになっていますわ。だから一つ一つ潰していけばティアナを‥‥‥」
あれだけ酷い扱いをされている「テグ」たちだけど誰も騒ぎもしない。
それもそのはず、今彼らは感情を制御されているからだ。
ヨハネス神父は悪魔王と融合してこの世界で人間の魂を糧にしてきた。
そしてそれは安定供給されるテグの魂だった。
それを聞いたあたしはあの時どれだけ肝を冷やしたことか。
しかし噂では成人のテグの魂だけを喰らっていたらしく、生後まだ一年くらいのティアナは多分無事だろう。
だけど天秤のアガシタ様の分身であるレイム様とライム様でさえ正確なティアナの場所は分かっていなかったようだ。
それは感情を制御され自我がはっきりとしていないからだった。
もし意識があり自我が芽生えれば生前の記憶も戻る可能性が高くなる。
しかしその兆候が全く見られなかったらしい。
なのでその気配が全くと言っていいほど察知できないのだ。
となると後はしらみつぶしに「テグの飼育場」を潰しながらあたしがティアナの魂を持つ子供を探さなければならない。
「エルハイミ母さん、お腹すいたから狩りしてくるね」
「セキ! 今はガレント、連合軍とホリゾン帝国が戦争中です。目立つ行動をしてはいけません」
動物を狩って来て肉を食べたがるセキ。
赤竜の時代から本能的に肉を食べたがるようだけど流石に今勝手に動かれるとジュメルが帝都から逃げ出してきた時に気付かれてしまう。
「セキ、今は少し我慢してくださいですわ。この戦いそれほど長引かないでしょうですわ」
「そうです、セキ。そこまで空腹であればお母様の魔力をいただけばいいではないですか? おっと、お母様そろそろ私の魔力供給の時間です」
そう言ってコクは嬉しそうに目を細める。
なんか最近のコクはやたらと魔力を欲しがるのだけど、その、供給するときの吸いかたとか、あたしの胸を触る手の動きがちょっと‥‥‥
「むぅぐぅぅぅぅううううぅっ!!」
「どうなされましたかお母様?」
いきなり別のあたしが問題となっていた。
思わずこっちのあたしが反応してしまったが、まさか今別のあたしがイオマに押し倒されてキスされているなんて決して言えない。
もしそんな事をコクに知られてしまったら魔力供給だけでは済まなくなってしまう!!
「お母様、お顔が赤いですよ?」
「い、いえ、なんでもありませんわ!」
「どうせ別のエルハイミ母さんにシェルあたりが襲いかかったんじゃない? あー、お肉食べたい!」
セキがあっけらかんと遠からずな事を言っているとコクが目を光らせこちらを見る。
「お母様ぁ~それは本当ですかぁ~? まさかイオマやバカシェルといちゃいちゃしているのではありませんかぁ~?」
「な、無いですわ! 多分‥‥‥ い、いや、きっとないですわぁっ!!」
「問答無用です! いただきます!!」
そう言ってコクはあたしに抱き着き服を脱がせ胸を引っ張り出して魔力を吸い始めるのだった。
あたしの苦悩はここでも続くのだった‥‥‥
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