第78話天秤の女神アガシタ

 

 「全くやってくれるよ。まさか異界の神を呼び出すなんてね。ライム、お前ちゃんと仕事しろよ?」


 「何言ってるんですか、アガシタ様! 私ちゃんとエルハイミと召喚の阻止しようとしたんですよ!!」


 いきなり現れた天秤の女神アガシタ様とその分身であるライム様。



 いや、緊張した場面なんだから何内輪もめしてんのよ!!



 思い切り突っ込みを入れたいけど流石に今はそれ所じゃ無い。  

 何せ出てきたのは異界の神なのだから。

 それも以前呼び出したあの竜のような神様では無く異界の悪魔たちの神。


 とにかく何とかしないとこの世界が壊れてしまう。



 「アガシタ様、どうするつもりですの?」


 「なに、平和的に話し合うつもりさ。僕は平和主義だからね」


 そう言ってウィンク一つ、すぐにこの場を飛び去ってしまった。


 大丈夫なのだろうか?


 今はあたしは気配を押さえているけどいつでも対処できるように準備だけはしなきゃ。



 そう思っているとアガシタ様はヨハネス神父の前まで飛び上がり話し始める。



 「やってくれるね? まさか異界の神を召喚するとか、僕に対する宣戦布告と受け取るよ?」


 「何者です? エルハイミさんの知り合いのようですが貴女からただならぬ力を感じます」


 「知らないか? 僕は天秤の女神アガシタだ! この世界の主神だよ!」



 そう言うが否やアガシタ様はペンライトを取り出し頭上高く掲げる。 

 そしてボタンを押すと光があふれ出しその光の中から美しい胸の大きな大人の女性で銀髪を振りかざし戦の為のオリハルコンの鎧を身にまとった身の丈五十七メートルの女神が飛び出してきた!




 「なんですとぉ!?」



 流石にこれにはヨハネス神父も驚き大きく悪魔の神の横まで下がる。



 どぉおおおぉぉんっ!



 巨大戦乙女姿のアガシタ様は足場が無いはずなのに海峡の上に自分で足場を作って大きな音を立ててそびえ立つ。


 『へぁっ! ぢゃなかった、我はこの世界の女神、天秤の女神アガシタ!』



 いや、さっき冒頭で何か間違ったよね?

 光の国の巨人さんみたいな掛け声したよね?

 アガシタ様、ちゃんとやる気あるの!?



 あたしが思い切り不安になっているとライム様がプルプル震えてあたしに言う。


 「エルハイミ、急いで周りの人間を転送させるのよ。出来るだけ遠くに!!」


 「はい? でもアガシタ様が出てきたのですわ、もう大丈夫なのでは無いのですの?」


 「あの姿、本来のお姿になられしかも戦の恰好をされている。あのアガシタ様は本気よ! もうボケと突っ込みが効かないわ!!」



 いや、ボケと突っ込みって‥‥‥

 しかしあのアガシタ様が本気と言うのは分かった。


 

 「わかりましたわ、ティナの町までみんなを飛ばしますわ!」


 あたしはそう言って存在を開放し、背中に白い羽を生やせて飛び上がる。

 そしてゾナーたちの上まで行って声高々と宣言する。



 「我らが女神天秤のアガシタ様が降臨なされた! これより異界の悪魔をアガシタ様が滅する! 皆の者は危険故ティナの町まで私が送り届ける!!」



 「エルハイミ殿!」



 ゾナーが声を張り上がる。


 「ゾナー、これよりアガシタ様が戦いに入りますわ。ここは人の身では危険すぎますわ。この近くにいるみんなをティナの町に送り届けますわ。後は頼みましたわよ?」


 「‥‥‥分かった」


 ゾナーはそれだけ言うと兵たちに指示を出す。



 「これよりティナの町に帰還する! 我らが女神様が町まで送り届ける。皆の者、戻り次第体勢を整えよ! サボの町の住民も難民として受け入れよ!」



 ゾナーが指示したのを聞いてからあたしはみんなを一気にティナの町に転送する。

 多分「巨人戦争」の戦場跡に出ているだろうから統制を取るのはやりやすくなるだろう。



 一瞬であれだけいた人々がいなくなってこの場も静かになる。



 「ご苦労様、エルハイミ。でも始まるわよ」


 ライム様は飛び上がってあたしの横まで来る。



 「エルハイミ!」


 「お姉さま!!」


 「お母様!」



 見ればあたしたちの近くまでみんなが集まっている。


 「あら、あの子たちは送り返さなかったの?」


 「いつもの癖で残してしまいましたわ。でもみんななら大丈夫ですわ。私がいる限り必ず守りますわ!」


 あたしがそう言うとライム様はふっと微笑んだ。


 「まあ、今の貴女ならどうにでも出来そうだものね。でも、あの呼び出された異界の神、アガシタ様が敵う相手なの?」


 そう、一番心配している事だ。

 この世界のモノならまずアガシタ様が負けることは無いだろう。

 相手が女神やコクたち古の魔竜でもない限り。


 しかし今の相手は異界の神。


 あたしが見てもその内部に抱える力は測り切れない。



 「始まるわ!」


 ライム様のその声にあたしはみんなのもとに慌てて行くのだった。



 *



 『汝、異界の神よ。ここは我が世界。早々に立ち去られよ!』



 アガシタ様はそう言って大きな盾をずぅううううんんっ! と音を立てて目の前に置く。



 『グルルルルルルルルルルルゥ‥‥‥』



 しかし異界の神は唸るだけだ。



 「はははははっ! 女神が直々においでとは! このヨハネス、光栄ですぞ!! しかし、我らが神とてもう引けませぬ! あの世界にはもう魂が枯渇している! 我らが神がこの世界の魂を喰らいもう一度あの世界を繁栄に導くのです! さあ、天秤の女神アガシタ様! あなたの魂も我らが世界の糧にしてあげましょう!!」



 ヨハネス神父はそう言って異界の悪魔の神の額に輝く宝石のような場所近くまで行く。



 「フェ〇ドイン!」



 途端にヨハネス神父の体が光りその宝石のような所へ埋まっていき完全に中に入ってしまった。


 すると異界の神に異変が起こる。

 剛毛の下から部分的な鎧がせり出し、右手にはラウンドシールドにショートソードがくっついた武器、左手には弓矢が折りたたまれた状態になりそしてあの顔が真ん中から割れてそこから何とヨハネス神父の顔が出てきたぁ!?



 『ははははははぁっ!! ついに手に入れたぞ究極の力を! 女神にも負けないこの力! 我が野望、この世界を破壊し全ての魂を喰らってあげましょう!!』





 声高々に「悪魔神ヨハネス」は言うのだった。


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