第71話ちょっと一仕事のはずが


 あたしは頭を抱えていた。



 「一体どれだけ在ると言うのですわ!」


 「レイムの置き土産よねぇ~。まだ半分も終わってないわよ?」



 本当は一刻も早くティアナを探しにテグの飼育場に乗り込みたいのだけど、いくつかの研究施設を確認していたらまたまたジュメルが悪魔召喚してしまった。


 まあアークデーモンクラスに憑依させた普通の軍隊では対処できないレベルだったけどあたしが乗り込んで瞬殺しておいた。



 ただでさえ忙しいってのに手を煩わせることして!



 なので余計に先にこのイザンカにある研究施設をしらみつぶしに見て回らなければならないのだけど‥‥‥



 「お姉さま、フィルモさんから追加の調査結果です」

 


 簡易のゲートをブルーゲイルと此処に作った。

 それとユーベルトとボヘーミャ、そしてティナの町にも。

 これで有る程度の魔力を持つ者はあたしがいなくても行き来できる。


 ゲートから出てきたイオマが調査結果の書かれた書類を渡して来てくれる。

 数枚あるそれはびっしりと文献から見つけ出したそれらしい研究施設が書かれている。

 

 「一体幾つあるってのよ‥‥‥」


 そのうちの一枚をシェルはひょいっと引っ張り出しあたしに言う。


 「ねえ、この迷宮の中に有る数か所の隠し部屋の研究施設面倒だから埋めていい?」


 「そうしたいのはやまやまですわ。でも一応その内容を確認しないと『魔人融合』なんて研究だった場合確実に処理しておかないとですわ」


 そう、個人研究のくせに中には凄い内容のモノも数百に一つくらいあった。

 それらの研究は確実に回収して滅さないと万が一にでも今後それを見つけた狂人やジュメルが利用した場合厄介になる。


 だからこうして一つ一つしらみつぶしに回っているのだが。



 「もう数か月たちますね、お母様」



 そうなのだ。

 一つ一つ回っているのでイザンカに来てから既に数ヵ月が経ってしまった。



 今はエリッツさんのこの研究施設を拠点に活動をさせてもらっている。



 この迷宮もあたしが怪物たちを一掃してちゃんとした施設に作り替えた。


 ミスリルゴーレムの門番付きシナモナ一族研究施設。

 門にもしっかりと「御用の方はゴーレム横の通話機能付き呼び出しベルを鳴らしてください」とか書いているので変な冒険者が挑んでくることはたまにしかない。


 もっとも、普通の冒険者ではミスリルゴーレムの門番に敵わないし、無理やり入ろうとでもしない限りゴーレムたちは襲う事は無い。


 中に入ってもいろいろとお呼びで無い人たちにはお帰り頂くトラップも仕掛けてあるので最深部のここへはまずこれない。


 作っている時にはダンジョンマスターの気分が分かってしまいそうになり、経験者のコクの指導のもと楽しくなってきてしまっていた。

 シェルやイオマに言われ止められなかったらやばかったかもしれない。



 「しかし、快適になったはいいがどうするんだい、こんなにガラクタ集めてきて?」


 エリッツさんにそう言われあたしは大広間に持ち帰った面白そうな研究資料を見る。


 「確かにこれほどの研究成果、中にはいろいろと役に立ちそうなものも在りそうですけど今のお姉さまに必要なんですか?」


 「私は『あのお方』のこの世界での端末ですわ。『破壊と創造』は出来ても女神様同様万能ではありませんわ。だからこう言った魔道の研究はいずれ役に立つかもしれませんわ」


 「びっ!」っと指を立てて力説する。


 決してこの中にホムンクルスの技術があってもふり放大のティアナのケモミミクローン作って内緒で楽しもうとか思って無いわよ?



 「まあ、その辺はエルハイミのままね? お母さん安心したわ」


 そう言いながらライム様はお酒を飲んでいる。

 まあ休憩中だからいいのだけど、この人あたしが際限なくお酒を作り出せるからってずっと飲んでいる。



 「ところでお母様、明日はお婆様の所へ行くのでしょうか?」


 「あ、あたしまたソーセージ食べたい!」

 

 「あたしもチョコぉ~!!」


 既に恒例になりつつある「七日目の休日」には実家に戻ってコクたちの顔をママンに見せている。

 勿論あたしも行くのだけどパパンにつかまって「エルハイミ教」について問いただされた時には仕方なく今のあたしの状態を話し、気配を開放したらすぐにササミーとヨバスティンがやって来て大騒ぎになった。


 あの時はそのまま近くの元ファーナ神殿にまで連れられて行って生き神様として祀られそうになったけど、「世界平和のためですわ! 私にはまだまだやらなければならない事がありますわ! それとこの事は内密にですわ!! 私が『悪魔王』を倒すまで私の存在は気付かれてはなりませんわ!!」とか言うとみんな土下座して言う事を聞いてくれた。


 勿論パパンは頭を抱えている。



 「ユーベルトですか。懐かしい」


 ジーナがお茶を入れて持って来てくれた。

 この辺で採れるハーブティーだがこれがまたなかなか美味しい。


 「そう言えばジーナはその後ユーベルトには行っていないのですの?」


 「私はエルハイミ様に感化されもう一度自分を鍛えようと冒険者に戻りボヘーミャより南の方へ行っていました。その後イージムに渡り昔の冒険者仲間としばらく冒険者家業をしていたのですが流石に年にはかないません。なのでエリッツの所でお世話になりながら引退して余生を子供たちの教育に使おうかと思いまして」


 そう言って優しく笑う。

 うん、あたしの知っているジーナに比べだいぶ丸くなった。


 「では明日はユーベルトのハミルトン家に一緒に行きませんかですわ?」


 「良いのですか、エルハイミ様?」

 

 「勿論ですわ! 少しは気晴らししないとやってれませんわ!!」




 あたしはそう言いながら人差し指をびっと立てるのだった。

    

  

  

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