第70話ティアナの居場所


 「まずはティアナの状況から話すわね」


 そう言ってライム様は話を始めた。


 

 * * *



 ティアナは「狂気の巨人」との戦いの後、「悪魔王ヨハネス」を撃退する為に最後の力を使ってしまい魂と肉体のつながりが完全に切れてしまい光の粒子になって消えて行ってしまった。


 しかし天秤の女神アガシタ様の約束によりあたしと末永く過ごす為に「転生」を繰り返し傍に居られる事となっていた。


 だけどあのポンコツ女神とろくでなしのご先祖様のせいで冥界の女神セミリア様がへそを曲げ、約束として「転生」はさせてくれるけど何時、何処で、誰に転生させてくれるかまだは保証してくれていない。

 更に生前の記憶もちゃんと蘇るか怪しいと言う訳なのであたしは大いに焦っている。


 

 万が一ティアナの記憶が蘇らず他の誰かと一緒になんてなったら‥‥‥



 そう思うと居ても立っても居られない! 

 何度転生してもティアナはあたしのだ!

 絶対に他の誰かになんか渡さない!!



 そう思うのだけど‥‥‥



 「つまり、転生はしているけど未だティアナの意思が感じられないと言うのですわね?」



 「そう、転生してすぐに生前の記憶が戻るかどうかは分からない所へ来て更に厄介な場所に転生していると思われるからそうそう簡単に見つけられないのよ」


 厄介な場所。

 それは秘密結社ジュメルの奴隷層である「テグ」の中に生まれたと言う事らしい。



 「転生」はこの世界に戻る時にその器たる肉体が魂に合うものでなければ転生出来ないらしい。

 なので特定の場所に転生させる場合はその肉体確保が出来る条件が必要となる。


 そして「テグ」はジュメルの奴隷たち。

 ライム様の話では家畜同様の扱いでいろいろと人体実験やあの黒づくめのような下級戦闘員の素体として使われる事が多いそうだ。

 勿論中には魔力が大きい人物もいるのでそれはそれでいろいろと使いようが有るとか。



 「テグ」には大きく分けて二種類あるそうだ。


 一つ目がセレやミアムのように奴隷へとその身を落とされる者。

 大抵が没落貴族や入信して失敗を繰り返したものの末路となり生贄や慰み者、ビエムのように魔怪人の素体にされたりするらしい。


 二つ目が奴隷同士の中で家畜のように増えていく者。

 これは色々な場所にある地下飼育場で増やされている者たち。

 そして問題なのが生まれた時から自我が芽生えない様に魔法で心を凍結させられると言う。

  


 「だから多分ティアナは奴隷同士の間から生れたと思われるのよ。そしてレイムが調べたところによると今そのテグの管理は『悪魔王ヨハネス』がしているらしいの」


 「『悪魔王ヨハネス』がですの? 何故ですの?」


 「あいつらの糧になるモノは何か知っているでしょう?」


 つまり奴隷の魂を糧にしていると言う事か。

 それは自我を持たせない家畜を喰らうには大変便利な事となる。


 それと同時にあたしには脅威である。



 「ならば一刻も早くその飼育場に行ってティアナを助け出さなければティアナの魂も危ないのではないのですの!?」


 「そうなんだけど、大小合わせてどれほどの飼育場がある事やら」



 ライム様はそう言ってため息をつく。


 「今わかっているのはその飼育所と言うのが世界各国に点在すると言う事よ」


 「だったらそれを全部しらみつぶしにしていきますわ!」


 あたしは居ても立っても居られなくなりライム様にその場所を教えてもらう為立ち上がる。

 しかしライム様は冷静にあたしをなだめる。


 「落ち着きなさい。ただ単にテグの飼育場をしらみつぶしにしてもだめよ。大元である『悪魔王ヨハネス』こいつを倒さなければどんどん他の場所へ飼育場を増やされ、移転させられるわ」


 「しかしですわ!」


 自分でもどうしたら良いか分からない程狼狽する。

 今この瞬間にもティアナの魂が食べられてしまったら。

 もう二度と彼女には会えなくなってしまう。


 そんなの、そんなの!



 「嫌ですわっ!!」



 ぼんっ!



 今まで抑えていた気配が思わず漏れ出す。

 途端に部屋中にキラキラした光が現れあたし自身もうっすらと光る。

 瞳も金色に変わりこの世界の端末であるあたしの本来の姿になる。



 「すごいわね。これが今のエルハイミ!? これほどまでとは!」


 ライム様は感心している。



 「ライム様、知っている飼育場全て教えてくださいですわ!!」



 「その前に今の貴女なら簡単よね? これ以上異界の者をこの世界に呼び出す為の召喚魔法の回収を先にするわよ! それが全部終わればあたしも付き合ってテグの飼育場教えてあげるから。今はこれ以上ジュメルの連中に異界の者、悪魔たちを呼び出させることをやめさせないと本当にこの世界のバランスが崩れてしまうわ!」



 ぐっ。

 分かってはいる。


 ティアナがとても大事だけどこの世界がバランスを崩したらその後のティアナとの静かな生活だってできなくなる。



 あたしは大きく息を吐く。

 そして自分の気配を消す。



 途端に今までのあたしに戻る。

 光も瞳も元に戻る。



 「だったらすぐにでもそれらを回収しましょうですわ!!」




 あたしは召喚魔法の回収をさっさと終わらせるつもりだったのだ。


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