第69話ライム


 「元気そうで何よりね?」



 あたしは大いに驚く。

 声のした方を見ればそこにはピンク色の長い髪の毛で秋葉原辺りにいそうなメイド服姿の女性がいたからだ。



 「ライム様!」


 「まさかレイムが『裁きの剣』を発動させるとは思いもしなかったわよ? そんなに厄介な相手だったの?」



 ライム様はそう言いながらその辺の椅子を自分で引っ張って座り足を組む。


 

 「今度は一体誰なんだい? エルハイミさん、この雰囲気レイム様によく似ているんだがね‥‥‥」


 「あら、そちらは初めてだったわね? 私はライム。レイムの姉よ」


 姉とは言うけどこの人もしっかりと天秤の女神アガシタ様の分身。

 まあ先に分身したから姉と言う訳なんだろうけど。


 「そうするとこの方もレイム様同様女神様の分身と言う訳ですか?」


 ジーナがそう言いやっと警戒心を解く。

 レイム様よりはあたしたちに対して扱いはましな方なんだけど、それでも普通いきなり現れれば誰だって警戒するよね?


 「そうよ」


 ライム様は相変わらず軽いノリでそう答える。


 「でもライム様がいきなり現れるとはどう言う事ですの?」


 「まあ、アガシタ様の言いつけも有るんだけどね。今回レイムが『裁きの剣』になるほどの力が地上にあるとは流石に見過ごせないからね。レイムがいなくなったから代わりにあたしが向かわされたのよ。で、現場に行ってみれば既に終わった後。そしてその波長をたどったらエルハイミ、貴女のもとにたどり着いたって訳」


 そう言ってライム様は今まで見た事が無いほどの殺気を一気に膨らます。



 どんっ!



 「エルハイミ、あなた誰?」



 「ふう、落ち着いてくださいですわライム様。私は間違いなくエルハイミですわ」



 うーん、ライム様クラスの本気の殺気でもこんなもんか?

 今のあたしにとってはそよ風なんだけど。


 

 「うっくっ、お、お姉さま!」


 「なんなのよライムってばっ!」


 「やる気ですか女神の分身よっ!?」



 イオマがその圧力にたじろぎシェルは驚く。

 コクはすぐにあたしの前に出てきてこちらも殺気を膨らます。



 ライム様はそんなあたしを見て殺気を押さえた。



 「‥‥‥どうやら本当にエルハイミの様ね? で、一体何が有ったの? レイムの意思が届く前にいなくなっちゃったからアガシタ様でさえ状況が理解できていないわ」


 ライム様が殺気を押さえると同時にあたしはコクの肩に手をつき首を横に振る。

 するとコクは何も言わずに殺気を押さえその場を退く。


 「説明しますわ」


 あたしはそう言って今までの事を話し始めるのだった。



 * * *



 「うーん、そうなるとエルハイミ、貴女ってばお母さんたちよりずっと強大になっちゃったわね? うれしいやら悲しいやら。娘の成長はうれしいんだけど、これじゃあ今後私なんか手伝いする必要なくなっちゃうわね?」


 あたしの作り出したお酒をちびちびしながらライム様はため息をつく。


 今のあたしは破壊と創造が自由自在にできる。

 その場に物質さえあればそれをお酒や食べ物に変えることはたやすい。



 と言うか、ライム様って今までになんか役に立った?


 あたしの記憶が正しければこっちの人間界に来て飲んで食って騒いでいるだけのような気がするのだけど。




 「しかし、まさか『あのお方』なんてのがエルハイミと一緒になってるとはね。今の貴女ならこの世界の誰にも負けないんじゃない?」


 「だからと言って万能ではありませんわ。知らない事は知らないし、分からない事は分かりませんもの」


 「あら? 『あのお方』と融合していると言うのに知識だってその気になれば得放題じゃ無いの?」


 まあ確かにそうなのだけど、はっきり言ってそんな何千年もかかりそうなことに付き合う気はない。

 この世界の万物の知識を得ようとするのは人間をベースにしていればそれくらいかかると言う事。

 とてもじゃないけど今のあたしの意思が持たない。



 「それよりライム様、レイム様が言っていたティアナの転生場所について教えてくださいですわ」


 「ああ、それなんだけどね‥‥‥」



 ライム様は残ったお酒を一気にあおってタンっと音を鳴らせてコップをテーブルに置く。



 「『悪魔王ヨハネス』、こいつをどうにかしないとだめなのよ」



 何となく忌々しげにそう言う。


 

 ジュメルの十二使徒ヨハネス神父。

 いち早く異界の悪魔の王と融合して当時のあたしやアイミの力を使ったティアナでさえ倒せなかった相手。

 

 今なら分かる。


 あれもまたこの世界とあちらの世界の双方の力を持っているのでこちら側だけを倒してもダメだと言う事を。

 そして「悪魔王ヨハネス」はその意思のほとんどをあちらの世界の悪魔王に取られていると言う事を。



 「もうわかっていると思うけど、あいつらはこの世界で育った魂を糧にしているわ。そしてジュメルはその糧にするに十分な施設と階級を持っている」


 ライム様はそこまで行って忌々し気にコップを握りつぶす。



 ぐにゃっ!



 金属製のそのコップはライム様の手の中で簡単にひしゃげる。



 「秘密結社ジュメルの奴隷層、テグですわね?」


 「そう、ティアナが転生した場所よ‥‥‥」




 「!?」

 

   


 それはあたしにとっても衝撃な事だった。

 ティアナはそんな所に転生していると言うのだ!!



 「ライム様! すぐにその場所を教えてくださいですわ!! ティアナっ!」



 「落ち着きなさいって。そこへ行くにも何も先ずは『悪魔王ヨハネス』を何とかしないといけないのよ。でなければティアナの意思は永遠に戻らなくなってしまうの」


 またまた衝撃的な事を言うライム様。

 あたしは息を呑む。



 「どう言う事か教えてくださいですわ‥‥‥」





 あたしのその質問にライム様は静かに頷くのだった。 

  


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