第68話撤収


 「これで良しですわ」



 あたしはみんなの傷や体力を回復してあげる。


 まあ、そのなんだ、もう分かってはいるのだけど今のあたしには無限に魔力があり、魔法を使う必要が無くなってしまった。


 どう言う事かと言うとこの世界の構成している物をあたしの意思だけで自在に操れる状態、つまり破壊と創造が十分に出来てしまうのだ。



 「ねえエルハイミ、本当にあなたよね?」


 「ええ、それは間違いありませんわ」



 シェルはあたしを覗き込み真剣なまなざしで見ている。



 ‥‥‥おい。


 口には出していないが念話で何てこと口走っているのよ!

 もう欲望丸出しの事言っている。

 思わず聞いているこっちが赤くなってしまうほどに。



 「ん、どうやら念話も通じるようね? 今言ったのは本気だからね?」


 「シェル、周りに聞こえないからと言って少しは慎みを持ちなさいですわ」


 「いいのっ! もう、エルハイミったらっ!!」



 そう言っていきなり押し倒して来て唇を奪う。



 「あ”-っ!! シェルさん駄目ですっ!!」


 「こらっ! バカエルフいきなりお母様になんてことを!!」



 慌ててイオマとコクがシェルを引き離す。


 「離せぇ! あたしがどれほど心配したかエルハイミに体で教えてやるんだから!!」


 「駄目ですシェルさん! そう言う事ならあたしがします!!」


 「イオマどさくさに紛れて何を言っているのです! お母様には私がいます!」

 


 あー。


 いきなり唇を奪われたけどこう言った感覚はそのままなんだ。

 ちゃんと心臓もドキドキするし、顔も熱くなっている。

 そしてティアナに謝罪する気持ちもちゃんとある。



 うん、やっぱりあたしはあたしなんだ。



 なんだか少しほっとする。

 だって、あたしはもう今までのあたしでは無いのだから。



 「シェル、約束を破りましたわね? 私の同意がなければ口づけはダメですわよ?」


 「うるさい! これは心配させた代償よ! 最後まで襲わなかっただけでもありがたく思いなさい!」


 そう言ってあたしの手を握る。



 「ほんとに心配したんだから‥‥‥」



 長い付き合いのシェルだけど今回は本気で心配したようだ。



 「私だってそうですよお姉さま!」


 「お母様だから大事は無いとは思いますがそれでもやはり心配にはなります」



 イオマもコクもシェル同様あたしの手を取る。



 「ごめんなさいですわ。でも、もう大丈夫ですわ。私がいる限りもうみんなを傷つけさせませんわ!」



 「ますますとんでもない存在になりやがりますね、主様は」


 「確かに。主様はすでに我々黒龍を凌駕されておいでだ」


 「はぁ~、ただでさえエルハイミ母さんたちに負けてこんな姿になっていると言うのに更にすごくなっちゃうんだもん。あたし古竜としての自信無くすわ」


 「それでも俺は主に付いて行くぞ? 主よこの命尽きるまでお供する」



 あたしやシェル、イオマやコクを取り囲むようにみんながそう言う。

 うれしいやら悲しいやら。


 「ねぇねぇ、それでここってどこなの?」


 マリアが高く飛び上がりきょろきょろと周りを見ている。


 「ここはイザンカですわ。だいぶ東ではありますがブルーゲイルやレッドゲイルの街が近いですわね。 あ、そうそうですわ。とりあえずあの遺跡の資料は処分しないとですわ」


 あたしは崩れ去った岩山を見る。

 多分あそこにはまだ魔人を召喚した魔法陣やその資料が残っているだろう。

 本来はレイム様が回収するはずなんだけどいなくなってしまったからあたしがやるしかない。


 あたしはパチンと指を鳴らしみんなをその場に移動させる。



 「なっ!?」


 「えっ?」


 「こ、これは!?」



 シェルもイオマもコクも驚いている。

 勿論クロさんやクロエさん、ショーゴさんも驚いている。



 「なになに! どうしてあたしここいるの!!!?」



 あたしの手のひらの上でマリアが驚き慌てふためく。


 「取りあえずここの資料と魔法陣を処分する為に移動をしましたわ。ちょっと待っていてくださいですわ」


 そう言ってあたしはこの部屋を見渡す。


 隣の召喚魔法陣の広間は天井を吹き飛ばされ青空がのぞいている。

 この部屋は隣の広間の横にある資料置き場。

 たくさんの研究を記された本があるけど、この研究をしていた古代の魔術師は確かに気が狂っていた。

 けど真実に近い事を見出していた。

 前のあたしならそれは大いに驚く内容だけど今のあたしにしてみればギリギリ及第点の研究としか言いようがない。



 「でもこの世界には確かに不要ですわ」



 あたしはそう言って手を振りそれらを塵と化す。

 決して他の誰かの目に触れぬように。



 「さてと、これで終わりですわ。一旦エリッツさんの所へ戻りましょうですわ」


 言うと同時にあたしはまた指をパチンと鳴らす。

 するとまたまたみんなを一気にシナモナ一族の研究施設まで運ぶ。



 「流石に何度もやられると驚くのを通り過ぎて呆れますよ、お姉さま」


 「しかしこれほどとは。流石ですお母様!」


 「はぁ、もう何でもありね。 ほんとエルハイミだからが当たり前になっちゃった」


 口々にみんなそう言っている。


 

 「驚いたよ、レイム様かと思ったらエルハミさんかい! 魔法陣も発生させずいきなりとは一体どうやったんだい?」


 後ろから驚きの声をあげるエリッツさん。


 「ただいまですわ、エリッツさん。『魔人』は始末しましたわ」


 「エルハイミ様!? それは本当ですか!!!?」


 ジーナもエリッツさんも驚いている。


 「あの化け物をかい!? ん? そう言えばレイム様はどうしたんだい?」


 流石に気づいたようであたしは順を追って話すのだった。



 * * *



 「そうだったのかい、レイム様がねえ」


 「そうするとエルハイミ様はその『あの方』という者のこの世界での端末となっていると言うのですか? その、エルハイミ様なのですよね?」


 まあ驚くのは当然であたしに対して不信がるのも当然だ。

 しかしそれらは全て事実。

 

 そして融合しているけどあたしはあたし、エルハイミで間違いない。



 「ええ、間違いなく私ですわ。レイム様に‥‥‥ あ”-っ!!!! ですわっ!!」


 レイム様の事を言おうとして突如として思いだす。


 レイム様は遺跡の調査にあたしを手伝わせていたけど代価としてティアナの転生場所を教えてくれるはずだった!!


 しかし自らを「裁きの剣」にして「魔人」を倒そうとした為肝心なティアナの転生場所を聞く前にいなくなってしまった!!



 「そんな、せっかくティアナの居場所がわかりそうだと言うのにですわ!!」


 「まあ、そんなに慌てないで。代わりに私が来てあげたから」




 突如聞こえたその声にあたしは驚きふり返るのだった。

  

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