第67話変化


 あたしはこの世界でのあたしの体を作り替える。



 それはあたしにとっては当たり前の事だけどこの世界のあたしにとっては大きな変化。


 この世界であたしが力を存分に振るえる為の端末。 


 しかし本流をこの世界に流し込むわけにはいかない。

 そんな事をしたらせっかく作ったこの世界がはじけ飛んでしまう。


 あたしとはそう言う存在。


 だからこの娘の体をこの世界で使える程度の端末として作り替える。

 それはとても造作もない事だけどこの世界のあたしにとっては大きな変化。

 

 そう、人では無い存在となる。

 それでもあたしはそれを望んだ。


 誰にも負けない体。

 誰にも負けない力。

 誰にも奪われたくない者たちの為に‥‥‥



 すでに体の構成は作り替えた。

 あたしはゆっくりと瞳を開く。



 「エルハイミ!」

 

 「お姉さま!」


 「お母様!?」


 「なにこれっ!? エルハイミ母さん!!」


 「主よ!」


 「主様どう言う事でいやがります!?」


 「ぬおっ、これは!? 主様!!」


 「うわっ! エルハイミがっ!!」


 

 気付けば力があふれ出しあたしは宙にその身を浮かせていた。


 体がもの凄く軽い。

 そして力があふれかえっている。


 周りを見ればみんなが、そして「魔人」があたしを見ている。


 ああ、そうだ。

 あたしはあのお方の力を取り入れこの体を作り替えたんだった。


 だからかな?

 意思はこっちの世界のあたしの方が強いみたい。


 うん、何をしなきゃいけないか思い出した。

 目の前の「魔人」で遊ばなきゃいけないんだった!


 あたしは手を振るう。


 すると「魔人」があたしの起こした衝撃波を受け止めようとするけど簡単に吹き飛ばされた。


 でもこの程度で壊れる玩具じゃないはず。

 だってあの「狂気の巨人」よりしぶといはずだ。

 

 こいつはこの世界の女神の一部を取り込みそしてあちらの世界のモノがこちらで融合してこちらの世界のモノだけを壊してもダメな状態になっている。

 

 多分この世界の女神たちでもそうそう滅するのは難しいだろう。


 でもあたしは違う。

 この世界のモノとあの世界のモノ同時に滅せる。


 でもせっかくこの世界で遊べるのだ。

 少しは楽しませてもらわないと。


 立ち上がる「魔人」をあたしは近くまで行って殴り飛ばす。

 それはとても容易で今の一撃で防御した片腕を吹き飛ばした。


 「魔人」は慌てて瘴気を吐き出すけどこのあたしの体にそんなものは効かない。

 まとわりつく瘴気を片手で払い魔人を蹴り飛ばす。


 まるでサッカーボールのように転がる「魔人」。

 その様がとてもおかしくて笑いがこみあげてくる。


 「くぅふふふふふっ、面白いですわぁ」


 ぼろぼろになりながら立ち上がる「魔人」そこへまたまた近づいて拳を叩き込む。

 「魔人」は必死になって防御しているけど一発一発が入るたびにその体を破壊していく。



 もろい!

 あまりにももろいぞ!!

 それで「魔人」を名乗るか!?


 それでも師匠たちが命を削って戦った「魔人」なのか!?



 「魔人」とはこの程度の物だったのか?

 つまらない。

 「魔人」よりずっと小さなあたしは片手で魔人の首を掴み空中に吊るしあげる。


 「これが『魔人』ですの? あのレイム様が命をかけた相手ですの? 呆れますわね、弱すぎますわ」


 もう興味もなくなった。

 今までのあたしはこんなものに苦労していたのか?


 全く、あたしというモノであるくせに情けない。

 

 いや、今までのこの世界のあたしでは仕方ないか?

 

 しかし今は違う。

 もう今までのあたしとは違うのだから!


 「終わりですわ。消えなさいですわ!」


 あたしはそう言ってこの魔人を高く振り投げ空間ごとこいつを小さくしていき潰す。

 どうやら最後の叫びをしている様だが聞いてて不快な声だ。

 あたしは完全に興味を無くしこいつを握りつぶす。



 ぎゅうううううぅぅぅぅ‥‥‥

 

    

 きゅっ!


 

 何時しか不快な叫び声もなくなり「魔人」は完全にこの世界から消え去った。

 


 ふう、終わったか。

 あたしは手と手をぱんぱんとはたいて埃を払い地上へと降りていく。



 「エ、エルハイミよね?」

 

 「お姉さま??」


 「お母様のはずですが‥‥‥」



 シェルもイオマもコクもあたしの周りに近づいてくる。


 「終わりましたわ。思っていたほどではありませんわね?」


 あたしがそう言うが尚もこの三人は不安そうにあたしを見ている。


 「どうかしましたの?」


 シェルもイオマもコクもそれでもあたしを見て怯えている?

 どうしたのだろう?

 いつもみたいにあたしに抱き着いて来ればいいのに。


 そう言えばイオマは良い体になった。

 シェルは相変わらずだけど一刻はその胸を大きくしてやろうかと思った。

 コクは夜伽をしてくれるとか言っていた。


 ふふっ、ティアナとは違うけどこの三人も美味しそう‥‥‥

 遊んで壊したらさぞかし面白いだろうかな?

 ティアナはあたしが壊す前に死んじゃったもんな。


 そう考えるとあたしはこの三人が欲しくて欲しくてたまらなく成って来た。

 散々もてあそんで壊してしまいたい‥‥‥



 「エルハイミ! ねえ、エルハイミ!!」


 「お姉さま! 正気に戻ってください!!」


 「お母様っ! だめです気をしっかり持ってください!!」



 どうしたのよ?

 あたしは正気よ??


 あたしはあたし、だって女神でも悪魔でもあたしにはかなわない、あたしはあたしなのよ!



 ―― 違いますわっ!! ――



 「うっ? なんなのですの? あたしはあたしですわ‥‥‥」




 ―― 違いますわっ! 私はエルハイミ!! 私はあたしではありませんわっ!! ――



 「なんなのですの!? 私はあたし‥‥‥ い、いや、あたしは、あたしはエ、エルハイミ‥‥‥」



 ずきっ!



 「いたっ! な。何なのですの!? あたしは、あたしはぁっ!!」



 ―― 私はエルハイミ! あなたではありませんわっ!! ――



 「くっ、くわぁぁあああぁああぁぁぁぁぁっ!!!!」



 その瞬間あたしは全てを取り戻す。

 あのお方の力も何も、一緒になっていたあたしも全て「エルハイミ」になる!!



 「はぁはぁはぁ‥‥‥ わ、私はエルハイミですわ。あなたではありませんわ‥‥‥」



 やっと自分でそう言って実感する。

 あの混ざったあたしは完全にあたしの支配下になった。


 もう、あのあたしでは無い。



 「エルハイミっ!」


 「お姉さまっ!」


 「お母様っ!!」



 シェルが、イオマが、コクがあたしに抱き着いてくる。


 「ごめんなさいですわ。もう大丈夫ですわ。私です、エルハイミですわ!」


 抱き着いてくる三人を受け止め優しく抱きしめる。


 

 「もう、心配させないでよ! エルハイミのバカっ!」


 「そうですよ、お姉さまはお姉さまじゃなきゃ嫌です!!」


 「お母様、これはおっぱい二回じゃ足りませんよ! もっとたくさんもらいますよ!!」



 口々にそんな事を言っている。

 でもよかった、みんな無事で。



 「全く、主様には毎度毎度驚かさせられますが今回は特に驚かされたでいやがります」


 「いやはやまさしくクロエの言う通り。主様は一体どこまで変わられるのか?」


 「我が主が何に成ろうとも俺には関係ない。主に従うまでだ」


 「エルハイミはエルハイミだよぉ~。やだよエルハイミ以外になっちゃ!」



 クロエさんもクロさんもショーゴさんもそう言いながらあたしたちを見ている。

 そしてマリアはあたしの頭の近くまで飛んできてまじまじとあたしを見る。


 「でもエルハイミ、あたしと同じキラキラした光が出てるよね? 空飛ぶの??」


 「へっ? ですわ‥‥‥」



 えーと、そう言えば何とか自分を取り戻してみたけど今のあたしって‥‥‥



 「そうよ、エルハイミったら一体どうなったのよ? 念話しても通じないし!」


 「お姉さまですよね?」


 「お母様、今のお母様の雰囲気はデイメルモ様と同じ‥‥‥いえ、それ以上に感じます!」



 言われたあたしは慌てて自分の存在を体の中に押しとどめる。

 すると途端にあたしの周りにキラキラと取り付いていた光の粒子は消え、どうやらあたしの瞳の色も碧眼に戻った様だ。



 「あ、何時ものエルハイミだ!」


 「お姉さまに戻った!?」


 「本当です。いつものお母様です!」



 あー、やっぱりそうだ。

 今のあたしは自分の気配を消さないと力が漏れ出てしまうようだ。



 そう、もうあたしは今までのあたしではなくなってしまっている。


 

 「魔人」をどうにかしたい一心で、みんなにこれ以上被害を及ぼしたく無い一心で「あのお方」の力を引き入れる為にこの体を変える事を承諾した。

 そしてあたしはこの世界であのお方の端末としての力を得た。


 今のエルハイミと言うあたしもあのお方の一部。

 ただ今まで混ざったあたしがエルハイミと言うあたしによって全権を把握した状態。

 深層の意識の中にはあのお方であるあたしがちゃんといる。

 いろいろと不満は有るようだけど今は全てをあたしにゆだねる事に承諾してくれている。

  

  

 それでも‥‥‥



 「私は私、エルハイミですわ!」



 そうもう一度自分に言い聞かせるのだった。

  

  

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