第66話エルハイミの力


 「やらせんでござる!!」


 「巨人」の振るう大剣をすんでのところでベルトバッツさんがコクをかばってギリギリかわす。


 「コクッ!」


 叫びながらコクを見ると半身をつぶされながらもベルトバッツさんのおかげでコクは無事だった。


 「ベルトバッツよっ!」


 「大丈夫でござります、黒龍様。すぐにお逃げくだされ!」


 ミスリル水銀の体のおかげであれだけのダメージでもベルトバッツさんは再生してく。

 コクは頷き「大儀であった!」と言いながらその場を離れ、あたしたちのもとまで下がる。


 「すみませんお母様、油断をしました」


 「コクが無事で何よりですわ。しかし魔法が使えないとなるとですわ」


 あたしはすぐに魔導士のライトプロテクターを装着する。

 それを見たシェルやショーゴさん、イオマは気づいたようだ。


 「時間を稼ぐ、主よ!」


 「矢なら使えるわ、エルハイミ!」


 「お姉さまは私が守ります!!」


 それを聞いてあたしはすぐに両肩から二枚の板を外し腰から発射台を取り出す。

 そしてそれを組み立て懐から超高圧圧縮金属ミスリルの弾を取り出す。


 襲い来るアークデーモンや「巨人」をみんなが引き離している間にあたしの準備は出来た!



 「何をするつもりか知らんが『無慈悲の魔女』の魔法など通用せんぞ!!」



 「なら魔法以外だとどうでしょうかしらですわ!」



 高笑いをしているドボルザーク神父に対してあたしもにこやかな笑みを見せそれを「巨人」に向ける。



 「みんな下がってですわ! 行きますわよ、【超電導雷撃】!!」



 あたしはそう言って溜めておいた莫大な電気エネルギーを一気に発射台の二枚の板に流す。


 それはプラズマの光を放って超高速であの超高圧圧縮金属ミスリルの弾丸を飛ばす!

 

 爆発するかの如く二本のレールにプラズマの火花を散らせながら光の矢となって「巨人」に吸い込まれていく。



 カッ!   



 どがぁぁあああああぁぁぁぁんんっ!!


 

 「なにっ!?」


 それは見事に「巨人」に吸い込まれていきその半身を吹き飛ばす。


 どんなに丈夫なミスリルだったとしても超高圧圧縮金属ミスリル弾の前では歯が立たない。

 しかもプラズマをまとい超高熱となったその弾丸は簡単にその鎧を突き破り「巨人」を捕らえ中から大爆発を起こす。

 結果「巨人」はその場で膝をつき倒れて動かなくなった。



 「馬鹿なっ! 貴様何をした!? 『魔法無効の指輪』は機能していたはずだ!!」


 「ええ、ですから魔法以外の技を使ったまでですわ」



 あたしはにっこりと笑う。

 ドボルザーク神父は歯ぎしりしながら「魔人」に指示する。



 「おのれっ魔女めっ!! 『魔人』よ盟約に従いその魔女を殺せぇっ!!」



 レイム様と戦っていた「魔人」はドボルザーク神父のその命令に反応してレイム様を吹き飛ばしこちらに向かってきた!


 「くっ! お母様下がってください!! クロ、クロエ、合わせなさい!!」


 コクはそう言って自ら「魔人」に向かって技を放つ。



 「ドラゴン彗星掌!」

 

 「ドラゴン百裂掌!!」


 「ドラゴンクロ―!」

 

 「あたしもっ! 煉獄相竜牙!!」



 竜族たちが一斉にその技を放つ。

 それは光る閃光となり「魔人」に迫る。



 カッ!



 どががががっがっ!!!!



 山をも破壊するほどの攻撃力であったが何とその攻撃を「魔人」は受け止めそしてコクたちを薙ぎ払う。



 「くわっっ! しまった、お母様!!」


 「うぐっ! なによこれぇっ!」


 「ぐはぁっでいやがります!!」


 「ぐっ!」



 弾き飛ばされたコクたちは散り散りちりぢりに吹き飛ばされていく。


 

 「主よ! アサルトモード!! 全弾発射!!」


 「風の精霊王よ、手伝って!!」


 「お姉さまっ! 【絶対防壁】!!」



 ショーゴさんが魔光弾を放ちシェルが風の王の力を振るいイオマが防壁を展開する。


 しかしそれらはやはり「魔人」には通じずその突進は止まらない。



 「このぉっですわっ! 【爆裂核融合魔法】!!」



 あたしはとっさにご先祖様の使った最大最強の極大魔法を放つ。

 しかし本来そのプラズマを発し超超高熱を発するその魔法は寸での所で止まってしまった!?


 

 「させんぞ、魔女めっ!」



 見れば「魔人」の直ぐ近くまでドボルザーク神父が来ていてあの指輪の力を使っている。

 当然魔法に関する攻撃は全てかき消され、イオマの張った【絶対防壁】までもが解除される。



 やばい、このままだとやられる!

 あたしがそう思った瞬間だった。



 「天成断絶破!!」



 その光る大剣はまるで天から振り下ろされたのではないかと言うほど大きく強大なモノだった。

 だがその脅威を本能で察したのか「魔人」は振り向きその攻撃を両の手で受け止める。


 「くうううぅぅっ! やっぱり全力でも効きませんかぁっ!」


 レイム様が渾身の力を振り絞り攻撃した光の剣も受け止められしばらくしたら消えてしまった。


 だが流石にレイム様の渾身の攻撃。

 いかに「魔人」とは言えその場に足を止めた。


 「おのれ女神の分身! 邪魔だてしおって!!」


 叫ぶドボルザーク神父のその視線の先には力を使い切ったレイム様が両の手をだらりとして何とか立っている。



 「‥‥‥駄目ですね。仕方ない。あとは任せましたよエルハイミさん」


 「はい?」



 ややも内股で何とか立っていたレイム様はすっと空に向いて何かをつぶやく。

 その瞬間レイム様の体が光の柱になり天空へと吸い込まれ消える。



 まさかっ!?



 あたしがそう思った瞬間だった。

 天空から光る巨大な一本の剣がものすごいスピードで落ちてきて「魔人」を貫く。



 ドっ!



 それは見事に魔人に突き刺さり立ったまま大地に縫い留める。


 「なんだとっ!? まさか『裁きの剣』か!?」


 流石にドボルザーク神父も気付いたようだ。

 「裁きの剣」に貫かれた「魔人」は次の瞬間体から業火を放ち燃え出した。



 「流石に『裁きの剣』を受ければいくら『女神の杖』を核にしていてもひとたまりも無いでしょうですわ!」


 燃え盛る「魔人」を背景にしかしドボルザーク神父は吠える。


 「まだだっ! 古の魔術師の秘術、今ここに!! 『我、盟約に従いわが身を糧とせよ』!!」


 ドボルザーク神父はそう言って何やらペンダントのようなモノと魔晶石を引っ張り出す。

 そして呪文を唱えるとそのペンダントがドボルザーク神父の胸に張り付き魔晶石の魔力を使ってその魔法を発動させる。


 と、燃え盛る「魔人」が無理やり「裁きの剣」を引き抜きドボルザーク神父の所まで来る。

 そして次の瞬間ドボルザーク神父を掴まえて喰った。



 「なんですのっ!?」


 「喰った!?」


 「お姉さま!!」



 「エルハイミ、コクたちが戻って来た!!」


 驚くあたしやシェル、イオマ。

 目の前の光景に驚いているとマリアがコクたちが戻って来た事を告げる。



 「お母様、ご無事で!?」


 「なんででいやがります!?」


 「うわぁっ、食べてる‥‥‥」



 目の前のその光景は目を覆いたくなるようなものだったが程無く「魔人」はドボルザーク神父を食べ終わる。

 そして食べ終わった瞬間天を仰ぎ咆哮をあげる。



 「ぐぅぉおおおおおおおぉぉぉぉっッ!!!!」



 叫び終わった次の瞬間には体を燃やしていた炎を弾き飛ばし全身に所々硬そうな金属部を張り付かせた姿に変わっていた。



 その瞬間あたしは悟った。

 だめだあれは普通では倒せない。



 「みんな下がってですわ! 同調フルバースト!! 我が魂の奥底に眠る力よ今ここに!!」


 あたしは魂の奥底にあるあのお方の力へとつなげる。

 そしてあたしの魂にあのお方の力を呼び寄せる。





 ‥‥‥ふう、呼び出されればこれか?

 なんだあれは?


 あたしは目の前にいる奇怪なモノに興味を示した。

 

 面白いのはこの世界の女神と別の世界の物と、そして沢山の魂が宿っているでは無いか?


 だがこれはすごい。

 この世界の力が及ばないあちらの世界の力とこちらの世界の力が融合している。

 

 前に来た時の大きなやつより面白い。


 だが面倒だな。


 こいつを葬り去るには今のあたしの力だけでは足りないかもしれない。

 こちらとあちらの力を同時に潰さなければいけない。


 となると今のこの体では事足りぬ。

 さてどうしたモノか?



 あたしはあたしに問う。


 もしこいつを葬り去るのであればこの世界のあたしの体を差し出してもらわなければならない。

 そう、今のこの世界のままの体ではもうあたしの力をこれ以上引っ張ってこれないのだ。


 どうする?

 あたしが同意するならこの世界のあたしの体を作り替えるが?



 ‥‥‥分かった。

 では始めよう。

 あたしの体を作り替えるとしよう!


 さあ始めよう、この世界のあたし!



 あたしは自分の体の構成を変え始めるのだった。

  

    

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