第65話魔人対レイム


 ジュメルの十二使徒ドボルザーク神父によって最悪の「魔人」召喚がされてしまった。

 

 しかもこの「魔人」、師匠たちが戦ったあの「魔人」よりずっと強い。

 レイム様の必殺技「天成断絶破」でも倒せないとなると倒す方法何て有るのだろうか?



 「しかし参りました。僕としてはもう手がないですよ。あとはアレしかないですが‥‥‥」


 「あれって、まだ何か方法があるのですの?」



 あたしは思わずレイム様を見る。

 あ、今はレイム様にもちゃんと服着せてるから大丈夫よ?

 

 「出来れば最後の手段は使いたくないんですよ、僕がいなくなっちゃうから」


 レイム様がいなくなる?

 それってまさか‥‥‥



 「天秤の女神アガシタ様の『裁きの剣』ですの?」



 「流石エルハイミさん、よくご存じで」


 レイム様は楽しそうに言うけど、それってレイム様の命を懸けて使うやつじゃない!?


 遠い昔ライム様が「狂気の巨人」を倒すために自らを犠牲にした絶対の力。

 代価として心臓を裁きの天秤に乗せなければんらないと言われている。


 「しかし相手の出方がわかりました。もう一度あの『魔人』に打って出ます。エルハイミさんにも協力をお願いしたいのですが」


 「ええ、勿論しますわ。あんなのがまた悪魔の軍団を呼び寄せてはこの世界がまた危機にさらされてしまいますわ!」


 そう、師匠たちが戦った「魔人戦争」のようになってしまう。


 この世界より圧倒的にタフで力の強い悪魔たちの軍団なんかが出てきたら人間たちの軍勢では歯が立たないだろう。

 うちのガレント王国が唯一対抗できそうだけど「魔人」本体にはティアナがいない今、初号機が動かせなければどこまで戦えることだか。


 今は魔法騎士が選抜されて零号機や二号機が稼働しているけど陸戦に特化しているし果たして悪魔の瘴気に耐えられるかどうか。



 だからレイム様とあたしでどうにかするしかない。



 「お母様、お供します」


 「エルハイミとは一蓮托生だからね、それにあたしは妻として夫のエルハイミを支えるのは当然よ!」


 「シェルさん! なら私も行きます! お姉さまは私と一緒になるんですから!!」


 「主の行く所、当然俺も付いて行くぞ」


 「まあそうなるわよね? あたしもあいつら嫌いだし!」


 「主様に黒龍様をお任せするわけにはいかないでいやがります」


 「これクロエ、主様に失礼だぞ?」


 「え~、また行くの~? 仕方ないなぁ」



 結局何だかんだ言ってみんなもついて来てくれるようだ。

 しかし今回の相手は普通じゃ無い。


 「レイム様、勝算はあるのですの?」


 「ええ、僕があの『魔人』を引き付けます。その間にエルハイミさんはあのジュメルの神父を倒してください。彼は『盟約により』と言っていました。盟約の主たるあの神父が倒されれば機会があるでしょう」


 レイム様はそう言ってにこりと笑う。



 「わたしゃ残念ながら手伝えないよ。むしろ足手まといになりそうだ」


 「エルハイミ様、申し訳ございません」


 エリッツさんやジーナはそう言ってくれるがむしろ助かる。

 あの悪魔の軍団相手にいくらあたしたちでも誰かを守りながら戦うのは厳しい。


 「エリッツさん、ジーナ。かまいませんわそんな事。ただ、万が一の場合はこの事を学園都市ボヘーミャの学園長夫妻に伝えてくださいですわ。そして世界中にこの事を伝え早急に英雄たちを集めてもらって対処しないと『魔人戦争』の二の舞になってしまいますわですわ!」


 あたしの言葉にエリッツさんもジーナも静かに頷くのだった。



 * * *



 【異空間渡り】で先ほどの場所に戻りあたしは驚いていた。

 既にアークデーモンたちがうじゃうじゃいたのだった。



 「なによこれ!? 悪魔たちがあんなに!?」


 「どう言う事ですお姉さま!?」



 あたしはその様子を見るとどうやら土の壁を壊して出てきた「魔人」とドボルザーク神父がどんどんと何かを贄にアークデーモンたちを召喚している様だった。



 「まずいですね、アークデーモンたちは任せました! 僕は『魔人』に行きます、エルハイミさんはあの神父を!」


 レイム様はそう言ってまたまた体に淡い光をまとって飛び出していく。



 「はぁっ! 天成光弾波っ!!」



 両手を光らせそこから光の玉を沢山発射して目の前のアークデーモンたちを吹き飛ばす。

 流石にこちらに気付いたかアークデーモンたちの軍団がこちらに襲いかかって来た!



 「お母様を神父のもとへまで届けます! クロ、クロエ、ベルトバッツこ奴ら不浄の悪魔どもを蹴散らせ!」


 「よおぉし、やるぞぉ!!」


 「主の前は俺が、シェル、イオマは後ろを頼む!」


 「分かった!」


 「はいっ! 行きましょうお姉さま!!」


 既に飛び出したレイム様に「魔人」も気付いたようで悪魔たちの召喚を止めレイム様に対峙する。



 「なんだ、また戻って来たか! 何度やっても同じだ!! やれ『魔人』よ!!」



 ドボルザーク神父も気付き一番厄介そうなレイム様に「魔人」をけしかける。

 そしてあたしたちにはアークデーモンの軍団を向かわせる。



 「邪魔でいやがります! 喰らえ、ドラゴン百裂掌!!」


 「受けよ我が爪、ドラゴンクロ―!!」


 「よぉしいぃっ! あたしも行くぞぉ!! 煉獄相竜牙!!」



 正面に群がるアークデーモンたちを次々とクロエさんのドラゴン百裂掌が吹き飛ばし、クロさんのドラゴンクロ―が切り刻む。

 そしてまだ体が小さいセキなのに両の手に炎をまといやって来るアークデーモンたちをその爪で引き裂き燃やしていく。



 「黒龍様の邪魔でござる! 久しぶりの見せ場でござる!! 皆の者行くぞ!!」


 「はっ!」



 コクの影からベルトバッツさんたちローグの民が飛び出し次々とアークデーモンたちを仕留める。

 


 「さあ、お母様行きましょう!」


 「ええですわ! ショーゴさん、シェル、イオマ行きますわよ!!」



 ショーゴさんは既に異形の兜の戦士に変身していてなぎなたソードを振り回し漏れ出てくるアークデーモンを薙ぎ払う。

 それをシェルの矢や精霊魔法が援護したり、とび来る魔法をイオマが【防御魔法】で防いだりしている。


 あたしも【炎の矢】や【氷の矢】を連発しながら目指すドボルザーク神父のもとへ向かう。



 「流石に『無慈悲の魔女』たちだ! アークデーモンたちでは歯が立たぬか!? ならば!!」



 ドボルザーク神父は懐から魔晶石を取り出す。


 「さあ来い、巨人よ! 『無慈悲の魔女』を叩き潰せ!!」


 言いながら魔晶石の力を解き放つ。

 途端に地面に魔方陣が浮かび上がりそこからジュメルの「巨人」が出てくる。

 しかし今更「巨人」如きであたしたちを止めることなどできない。


 だが!



 がきぃぃぃいいぃぃんっ!



 「何っ!? これは鎧か!?」


 クロさんが出てきた「巨人」を切り刻む為ドラゴンクロ―を繰り出したがその爪が固い鎧に阻まれた!?



 「はははっ! いくらお前らが強くてもこの『巨人』は簡単には倒せんぞ! やれっ!」



 その「巨人」はなんと今までとは違い所々を鎧で固め、盾を携え剣を持っていた。


 「ちっ! 竜族ならば素手で来やがれでいやがります!!」


 「どけクロエ!!」


 やはりドラゴン百裂掌を繰り出すクロエさんだったが見事に鎧と盾で防がれてしまった。

 そしてそこへ入れ替わるようにショーゴさんが前に出てなぎなたソードを振るう。



 ガキンっ!



 「何っ!?」


 しかし何とショーゴさんの刃は巨大な剣に防がれ狙った足首は無傷のままショーゴさんを蹴り飛ばすために振られた。


 「くっ!」


 しかし寸前の所でショーゴさんは有り得ない跳躍でその場を飛び去る。


 「これならどう!? 風の精霊王よ!」


 シェルの精霊魔法が「巨人」に迫るもその効力が届く前にかき消される。


 「えっ!? なにそれっ!?」


 見ればドボルザーク神父があの指輪の力を使っている。

 これでは魔法が一切通用しない!!



 「お母様こちらへっ! はぁっ! ドラゴン彗星掌!!」


 コクの彗星のような真っ直ぐな一撃がアークデーモンたちをなぎ飛ばし武装した「巨人」に迫る。

 しかし「巨人」はその盾でコクの強力な一撃を受け止めた!!



 「私のドラゴン彗星掌を止めると!?」




 ブンっ!



 「コク、危ないですわ! 下がってですわ!!」


 必殺の技を繰り出したコクは一番前に出てしまった。

 しかしそこへその技を受け止めた「巨人」の刃が迫る。



 「コクっですわっ!!」




 あたしの叫びが響くのだった。

 

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