第三章

第63話緊急事態


 「駄目ですこれは! エルハイミさん、すぐに来てください!!」



 レイム様はそう言って立ち上がり虚空にいきなり異空間の割れ目を発生させる。

 そしてあたしの返事を待たずその中へ入って行く。

 

 あたしは一瞬躊躇したけがどう見てもただ事ではない。


 「エルハイミさんや、私も付いて行くよ」


 エリッツさんはそう言って先にその割れ目に入って行った。

 こうなるとあたしも入るしかない。


 一体どこへ連れて行くつもりなのだろう?


 あたしたちはレイム様が作った異空間へと入って行くのだった。



 * * *



 そこはどこかの森の中だった。

 周りはうっそうとした木々に覆われこの場所からでは空もよく見えない。


 「こっちです!」


 レイム様はそう言って先に走り出す。

 あたしたちもそれに付いて走り出すが程無く岩山が見え始めそこからあたしでもわかる程の瘴気が漂っていた。



 「何て波動だい! これは確実に悪魔の類、しかもかなりの上級の気配だよ!!」



 エリッツさんがそう叫び警戒を促す。



 「これは間違いなく『魔人』です! この波動、忘れもしない!」



 レイム様がそう言った瞬間だった。


 

 ごばっ!!

 ドンっ!!



 岩山がはじけ飛ぶ。

 それほど大きなものでは無かったがここから見えていた岩山は上部が奇麗に吹き飛びそこにぽっかりとした空洞が見える。



 「レイム様、『魔人』ですのっ!?」


 「ええ、間違いありません。ユカたちと戦ったあの時の波動そのものです。間違いなく無く『魔人』が召喚されたんです!!」



 その昔、悪魔召喚から禁断の上位悪魔である「魔人」を召喚したその小国はそれを制御できず滅ぼされた。

 そして「魔人」は更なる悪魔たちを呼び寄せ国々を滅ぼしていき人類に大きな災いをもたらした。


 当時英雄として異世界召喚された師匠事ユカ・コバヤシたちのおかげでこれを何とか撃退、世界に平和をもたらしたが代償も大きく特にエルフの村にはついぞ最近までその影響があった。


 その「魔人」が召喚されたと言うのだ。




 「出て来ます! ああ、もう、アガシタ様緊急事態です! 僕が対処しますよ!!」



 そう言うや否やレイム様は体に淡い光をまとって飛び出していく。

 すると先ほどのぽっかりと開いた穴から異形の大きな姿が現れた。


 頭に角を携え瞳は赤く燃え牙が口元から覗いている。

 全身も紫色がかっていて所々黒い血管がうっすらと見える。

 伸ばし放題の髪を振るって巨人族かと思うようなその巨体を陽の光にさらけ出し天に向かって吠えるその姿は正しく「魔人」と呼ぶにふさわしい。



 「天成断絶破っ!!」


 レイム様はそう言いながら頭上に光る大きな刃を発生させ一気に「魔人」に切り掛かる。

 しかし魔人はその光の刃を片手で受け止めてしまった。



 「なんです!? 僕の『天成断絶破』を受け止めるのですか!?」



 振り下ろされた光の刃は「魔人」の手のひらで簡単に握られそして潰されてしまった!

 そして「魔人」はレイム様に向かって拳を振るう。



 どがっ!



 体格差があまりにもあるその拳は見事にレイム様を捕らえ彼を吹き飛ばす。


 「ぐっ!」


 吹き飛ばされたレイム様は木々をなぎ倒しながら向こうへと消えて行った。



 「お母様、お下がりください! クロ、クロエ本気でやりなさい!!」


 「エルハイミ母さん退いて! こいつ本気でやらないとやばい!!」



 コクやセキは本能的にその危険度を察したのか最初から全力で「魔人」に襲いかかる。



 「あれが『魔人』ですか‥‥‥ エルハイミ様、ここは危険です! エリッツ援護を!!」


 ジーナはそう言って懐から杖を出し詠唱を始める。


 「バカお言いっ! 私らのレベルでどうこうなる相手じゃないよ! 下がるのは私らの方さ! イオマ、お前も下がるんだ!!」


 言いながらエリッツさんは召喚魔法を発動させ沢山の魔獣たちを呼び出す。

 

 「気休めにしかならないけどこの子らが少しでも気を引くからその間に逃げるんだよ!!」


 「お姉さまっ!」


 今や完全に岩山から出てきた「魔人」は周りを見渡しあたしたちを探し当てる。

 そしてまたもや吠える。



 「主よ、ここは俺たちが喰いとめる!」


 「エルハイミ、精霊王を呼ぶわ!!」



 コクたちに引き続きショーゴさんが異形の兜の戦士になり「魔人」の前に立ちふさがる。

 シェルが精霊王と呼び寄せる。



 「はぁぁああぁぁっ! ドラゴン百裂掌!!」


 「ひょぉぉぉぉぉっ! ドラゴンクロ―!!」


 「こんのぉぉおおおぉぉっ! すううぅぅぅ、ぼぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」



 クロエさんのドラゴン百裂掌が、クロさんのドラゴンクローが、そしてセキのドラゴンブレスが「魔人」を襲う。



 どががががががっ!


 ざしゅっ!!


 しょぼぼぼぼぼぼぼぉっ!!



 だがそれらはことごとく弾かれ肌を焦がす事さえできなかった。



 「なんだと言うのでいやがります!? 私のドラゴン百裂掌が!!!?」


 「ドラゴンクロ―が効かぬ!? 我が爪が割れただと!?」


 「うっそぉっ! 全く焦げないのっ!?」



 一旦距離をとったそこへエリッツさんが召喚した魔獣たちが突っ込む。

 しかし結果は見るまでもなく「魔人」に瞬殺される魔獣たち。


 引き裂いた魔獣の死体を「魔人」は掲げ地面に魔方陣を発生させる。

 淡く光った魔法陣にその肢体を放り込むとその死体がもぞもぞとうごきアークデーモンの姿に変わった!?


 「魔人」は魔獣たちの死体を使って次々にアークデーモンを呼び出す。


 

 「これは悪魔の軍団の召喚ですの!? エリッツさん!!」


 「まずいね、あの『魔人戦争』の再来だよ。まさか魔獣たちを依り代にアークデーモンたちを呼び寄せるなんてね」


 「なら倒すまで! 風の王よあいつらを切り刻んで!!」



 アークデーモンの軍団が次々と湧き出るそこへシェルが呼び出した風の精霊王が襲い掛かる。


 しかしそれに真っ先に反応した者がいる。

 それは「魔人」だった。


 「魔人」は精霊王の風の刃を何とその体を盾にはじき返したのだ!



 「うそっ! あれが効かないの!?」



 「違います、あの『魔人』はユカたちと戦った『魔人』より強い。一体どう言う事です?」


 シェルが驚いているとレイム様が体のあちこちに葉っぱや枝、泥を張り付かせ戻って来た。




 あたしはもう一度「魔人」を見るのだった。

    


  

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