第61話異界人召喚封印
にこにことほほ笑む美少女のメイドさん。
青い髪がショートだけどそのかわいらしさは抜群だ。
短いスカート丈のアキバ系のフリフリが沢山ついたメイド服。
年の頃十二、三歳にしか見えないそれは見る者に一刻の癒しを与えてくれるはずなのだけど‥‥‥
「しかし解せませんでいやがります。なんで男のお前がメイド服を着ていやがりますか? それはメイドに対しての侮辱でいやがります」
「僕も好きでこんな格好している訳じゃないんだけどね? アガシタ様の命令でこれを着ているんですよ」
クロエさんが突っ込むとレイム様は涼しい顔で答える。
そう、「彼女」ではなく「彼」なのだ。
「それでなぜレイム様がこんな所に? そしてエリッツさん、あなた方シナモナ一族は一体、ですわ?」
あたしの質問にエリッツさんはレイム様を見るとレイム様は片手をあげて軽く頷く。
「その質問は僕から応えましょう、エルハイミさん」
にっこりとほほ笑むその笑顔にあたしは心底うんざりするのだった。
* * * * *
「つまりすべては『死者の門』が始まりと言う訳ですの?」
「そう言う事になるね。まさか人間風情がそこまで女神様のお力を理解するとは思いませんでしたよ」
レイム様の話は魔術師が聞いたら大騒ぎになるモノだった。
そもそも冥界の女神セミリア様は「始祖なる巨人」が死んでしまいその魂を何とかする為に姉となる女神たちが「始祖なる巨人」の亡骸から生み出した特殊な女神様でその最大の能力は霧散を恐れた「始祖なる巨人」の魂の確保であった。
あまりにもでかい魂の持ち主たる「始祖なる巨人」や女神様たちは肉体が滅んでも魂はそうそう消えて無くならない。
しかし流石に長い時間放置されるとやばいのでその魂の依り代となるモノが必要である。
だが「始祖なる巨人」の依り代なんて冥界の女神様の体を使っても足りなかった。
そこでその魂を確保する空間、つまり「冥界」を作りだし「始祖なる巨人」の魂が霧散するのを防いだという訳だ。
冥界の女神セミリア様は天界にある青と赤の月を利用して冥界の扉を作り上げそこに「始祖なる巨人」の魂を入れた訳だ。
もうここまで聞いてお分かりのように神話クラスの面倒事しか感じない。
そして女神戦争が勃発して女神様たち十二神の内十人の女神様たちが肉体を失った。
たまたま「始祖なる巨人」から送られた星々を生前に女神様たちは自分の星座を作っていたので各々の女神様は失った肉体の代わりに星座を依り代としたわけだ。
それはまるで父なる「始祖なる巨人」がいる冥界の月に並ぶかのように。
そして女神様たちはアガシタ様に自分たちが愛したこの世界を安定させてもらうために全権を託したわけだが‥‥‥
アガシタ様は面倒くさがって人間を主にして押し付けたと!
代わりに魔法を教えると言ったり、あんまり人間が問題起こすとレイム様やライム様を差し向けたりはしていたけど基本まかせっきり!
そんな事をやっているうちにこの世界には優秀な「魂」が増えて来た。
しかし魂成形には魔素がその器に集まり良い魂が出来ても死んでしまえばまた霧散してしまう。
「魔王」のようによほど特殊な例でもない限りそうそう自力で転生は出来なかった。
「魂」は例え女神様でもその代価として使えばいろいろと便利なものになるし何度も輪廻転生して熟した魂は非常に貴重となる。
だから冥界の女神セミリア様はその魂を管理して冥界に導き浄化をして転生をさせる事を繰り返しゆくゆくは成熟した魂を使ってあることをもくろんだ。
それが会った事の無い父なる「始祖なる巨人」の復活だった。
それは父に会った事の無い娘、セミリア様の我がままであり望みでもあった。
うちのぼんくらご先祖様に出会うまでは‥‥‥
ぼんくらご先祖様に出会ったセミリア様はぼんくらご先祖様にコマされて女の喜びを知ってしまい当初の目的がどうでもよくなってしまった。
おかげでこの二千年以上の時を天界でうちのご先祖様といちゃいちゃと‥‥‥
元々古代魔法王国でも「異界」や「異空間」となる「冥界」こと「死者の門」について研究はされていた。
しかしご先祖様のせいで古代魔法王国はあっさりと一晩で崩壊した。
魔法王国崩壊後もねちねちと研究を進めていた魔術師シナモナは死しても魂と自我を魔結晶石核に保持しながらもしつこく研究していた。
そして魔術師シナモナはとうとう「死者の門」の謎を解き明かしたわけだけど‥‥‥
「ご先祖様は生前イケメンでモテたらいいんだよ。だが同時に魔導士としてのプライドも高くてね、『死者の門』の研究をやめたくてもやめられなくなってね。そして辿り着いたんだよ、究極の不死身の体に。そう、『亡者の王リッチ』になれたんだがね‥‥‥」
あたしはいやな予感がして頭痛がしてきた。
「あの、まさかと思いますが『死者の門』を研究して永遠の不死身の体を目指していたのですわよね?」
「元はそうだけど、イケメンのままの姿でそうありたかったらしいよ。永遠にかわいい女の子にもてまくる為にね‥‥‥」
そう言ったエリッツさんは最後の方は声が小さくなっていってあたしから視線を外した。
「まさか、そうするとコクちゃんを捕らえたのは‥‥‥ お姉さま!」
「イオマ、お願いですわそれ以上は‥‥‥」
「そう、黒龍の肉体には人型になった時に若い女性の姿のままという特徴を知りシナモナはその秘密を知りたがっていたんですよ! ついでに黒龍も自分のモノにしてはびこらせるために!!」
トドメとばかりレイム様は真実を語る。
途端に真っ赤になって耳を塞ぎうずくまるエリッツさん。
真っ白になって驚くコク。
その場の空気が何とも言えないものになってしまったのは言うまでもない。
あたしは思い切り痛む頭を振ってレイム様に聞く。
「シ、シナモナ一族が、いえ、魔術師シナモナが目指したことはとりあえず横に置いてですわ。でもなぜエリッツさんたちはそれほどの研究を続けないのですの? それは究極の不死身と言う事ですわよ?」
「あ、あんな恥ずかしいご先祖様を見ていれば一族みんな嫌になって他の事を研究始めちまうよ! そう、こんな恥ずかしいご先祖様と縁を切りたいとね!!」
もう真赤になりながら暴露するエリッツさん。
少し涙目だ。
「だからシナモナ一族は研究をしたんだよ、この世界の異空間にご先祖様である魔術師シナモナを封じ込める事を。それは派生になって『召喚魔法』になったりもしたけど結局精神体まで封じ込めるのは難しい。そこで目をつけたのが『異世界』だったんだよ!」
もともと異世界からの召喚は特殊も特殊。
しかしシナモナ一族が目指したのは召喚ではなく送付。
恥ずかしいご先祖様と縁を切る為に異世界に飛ばそうとしていたらしい。
「おかげでその理論を使って『異世界人召喚』なんて事をし始める人が現れたって事ですよ」
レイム様は何がおかしいのかにやにやしながらあたしたちを見ている。
過去古代魔法王国時代には「異世界人召喚」何て物は無かった。
唯一有るのは悪魔召喚の類だったらしい。
しかしそれもこれも元々はこの魔術師シナモナがモテたい一心で始めた欲望が始まり。
そしてその元凶であった「亡者の王リッチ」はあたしが倒した。
「エルハイミさん、わたしゃ一族を代表して礼を言うべきだとは思うんだがね。ただ、出来ればこの事はずっと秘密にしてもらいたいんだよ。『シナモナ』の名を継ぐ者はいなくなってもそんな恥ずかしい理由で歴史に私たちの名が残るのはまっぴらごめんなんだよ」
あたしはエリッツさんのその気持ちが痛いほどよくわかる。
同じくあんなご先祖様を持ち、そして今尚あたしたち子孫たちに赤っ恥をかかせているあのご先祖様に!
「とまあ、長くなったけどこれが今までにいきさつです。そして問題はその後なんですよ、エルハイミさん」
レイム様はそう言ってあたしの肩をしっかりとつかむ。
「僕としては訳の分からない遺跡を一つ一つ探すのなんてまっぴらごめんなんですよ! 手伝ってもらいます!」
「はいっ!? わ、私がですの!? なんでですの!?」
「手伝ってくれたらティアナさんの転生した場所教えますから!! 既に数百遺跡を回っていますがこんなのやってられません! なんでこいつらみんな変な研究ばかりしているんですか!? そんなの一つ一つ確認するこっちの身にもなってください!!」
そう言ってレイム様は異空間から魔道具のガラクタらしい物を引っ張り出しあたしたちの前に投げ出す。
それはモザイクがかかってしまう物から何に使うかすらまったく分からない魔道具、「お茶の美味しい魔道での入れ方」とか「究極の茹で卵の魔道での作り方」とかが書かれた魔術書だったりする。
「確かに人間たちは見ていると面白いですよ? でも関わるとこういった変な連中が多すぎるんです! なんですかこの『メイド服大全集』とか!? 僕への当てつけですか!? 僕だってアガシタ様の言いつけで無ければこんな格好したくありません、何が『男の娘』だぁっ!!!!」
思わずその本を叩きつけるレイム様。
ぺしっ~ん!
はぁはぁ。
肩で息をしているレイム様。
「アガシタ様に言われましたけど、確かに『異世界人召喚』はこの世界に影響があります。そして低級悪魔召喚ならまだしも最上位悪魔召喚は面倒すぎます。手伝ってもらいますよ! ジュメルの連中にこれ以上面倒な上級悪魔召喚させないために!!」
一気にそこまでまくし立ててレイム様はもう一度「メイド服大全集」を踏む。
「ああっ! なんてもったいない事をしやがるでいやがります!! 女神の分身、それいらないなら私がもらうでいやがります!!」
反応しまくるクロエさんを見ながらあたしは思う。
エリリアさん、ティアナの情報の代価が面倒すぎると‥‥‥
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます