第60話面倒事
あたしたちはエリッツさんに連れられてベムの村近くにある岩山の秘密のダンジョンにいた。
「にょへぇぇぇえぇぇっっ!! 【火球】ファイアーアボールぅううぅっ!!!!」
ぼんっ!
ごあぁっ!!
あたしの【火球】ファイアーボールに哀れロックキャタピラーたちの群れはそのほとんどが丸焦げになる。
いや、食べればおしいのは知ってるよ?
でも流石に成体のロックキャタピラ―の群れは心臓に悪い。
あの岩肌が持ち上がった後のお腹の色!
そしてうねうねと動く短い前足の気持ち悪さ!!
そんなのが群れで襲ってきたら思わず攻撃魔法ぶちかましちゃうわよ!!
「何を遊んでいるんだい? こんなの【異空間】に放り込めばいいだけの事だろう?」
そう言ってエリッツさんはあたしがほとんど焼き散らかして残ったロックキャタピラ―をさっくりと【異空間】に放り込んで片付ける。
「エリッツ、エルハイミ様に無理を言わないであげて、彼女は令嬢。こういった所は私たちと違いそう来るような所では無いわ」
ジーナはそう言ってあたしを振り返りながら「大丈夫ですか?」とか聞いて来てくれる。
まあ大丈夫は大丈夫だけどこいつって何度見ても気持ち悪いのは慣れない。
「ううぅ、流石に元冒険者ですわねジーナ。あの気持ち悪いのが平気とはですわ」
「ええ、ロックキャタピラーはダンジョンでは貴重な食料になりますからね。エビの様で美味しいのですよ」
それは知っている。
しかも小さいのは特に美味しいのも知っているけど成体はとにかく見た目が気持ち悪い。
何度見てもそうそう慣れるものじゃない。
「お姉さま、相変わらず虫系のモンスターって苦手ですよね?」
「こいつら美味しいのにねえ~」
イオマもシェルも平然としている。
そんな中エリッツさんはどんどんと奥へと入って行く。
そして何度かモンスターたちの襲撃を退け行き止まりの場所へ着く。
「さあ、着いた。ここからは一気に最下層の研究施設に行くよ。この奥に隠し部屋がある。あとはゲートと同じ、行き先の魔法陣までひとっ飛びさ」
そう言って岩肌に【解除魔法】をかけると封印が解けるかの如く壁の岩が左右に割れていく。
そしてその先には明らかに人口の石造りの部屋があった。
魔法の明かりで薄っすらと照らされているその部屋の中央床にはゲートの魔法陣があった。
「さて、行くとするかね。エルハイミさん使い方は知っているね?」
「ええ、ゲートでしたら問題ありませんわ」
あたしがそう答えるとエリッツさんは「よろしい」とだけ言ってあたしにゲートを起動させる。
まあ、行き先が安全性を確保しているのなら問題も無いしこれだけの人数、あたしなら一気に運べる。
みんなが魔法陣に入ったのを確認して起動する。
途端に光のカーテンがせり上がりあたしたちを包み込んだと思ったら静かに下がっていき目に映る光景が一変する。
そこはかなり広い空間で大きな洞窟のようになっていた。
そして足元の魔法陣が書かれている石畳はそこから人工の通路になっていてその先に神殿のような建物があった。
「ここが我らシナモナ一族が代々守って来た『死者の門』の研究施設さ。さあ行こうとするかね」
エリッツさんはそう言って神殿に歩いていく。
あたしたちもそれに付いて行く。
「すごいです、こんな場所がベムの村近くにあったなんて‥‥‥」
「お前さんが冒険者にならず私の所にずっといれば今度はお前さんに託そうとしたんだがね、イオマ」
エリッツさんはそう言ってイオマを見る。
「師匠?」
「あたしにゃ子供がいない。我らシナモナ一族は私の代で終わりさ。でもね、イオマお前さんにはゆくゆくここの研究は必要になるだろうからね。あたしが死んだらここはお前にあげるよ。好きに使うがいい」
そう言って神殿の扉に手をかける。
そして中へと入って行くと‥‥‥
「やあ、来ましたねエルハイミさん?」
そこには年の頃十二、三歳くらいの可愛い女の子のメイドさんがいた。
しかしそのまとう圧力は普通ではない。
はずだったのだけど?
「レイム様、ごきげんようですわ」
「うん、こんにちわ。しかし、流石に化けたね君は。僕の威圧を受けても平然としていられる。やっぱりあのお方の力のお陰かな?」
にっこりと笑っているけど目の色だけは違った。
「女神の分身ですか‥‥‥ この分身、ピンク髪の分身と同じ雰囲気ですね?」
そう言ってコクが前に出る。
そしてコクも一気に殺気を放つ。
それにつられてセキもクロさんもクロエさんも身構える。
「はいはい、やめやめ。レイム様も私ら普通の人間相手に威圧何てせんでもらいましょうか? とてもじゃないが耐えられないですぞ?」
「ああ、悪い悪い、エリッツたちには流石に辛かったね? エルハイミさんの成長を試したかったんだよ。黒龍たちも悪かった。君たちと事を構える気はないよ」
言いながらレイム様は威圧を解く。
途端にイオマやジーナ、シェルやマリア、ショーゴさんが息を吐く。
「エルハイミさんはもう僕を超えちゃったね? 全く、人間風情に負けるようになるとは僕も焼きが回って来たようだよ」
そう言って苦笑する。
「レイム様?」
「エルハイミさん、君はエリリアに言われて僕を探しているのだろう? まあアガシタ様からも君に会ったら話すよう言われているし丁度いいか」
うっ、アガシタ様がらみ?
なんか面倒事しか無いような気がしてきた。
「まあそんなに身構えなくていいよ。とてつもなく面倒な話なだけだから」
あたしのそんな心の声を聴いたかのようにレイム様はそう言うのだった。
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