第59話レイム
「師匠っ!?」
「イオマ、お前は黙っておいで! わたしゃこの嬢ちゃんと話している!」
イオマのその叫びをエリッツさんは遮る。
しかしコクは違った。
「一体どう言うつもりである! 貴様あの痴れ者の仲間か!?」
どんっ!
コクの殺気が一気に膨れ上がる。
って、何この殺気!?
コクが本気で怒っている?
「ほう? そっちのおチビちゃん、あんた只者では無いと思っていたがこの波長、竜族かい? しかも【古竜】エルダードラゴンクラスじゃないか!?」
「コクッ! やめなさいですわ!!」
「しかしお母様、この者はあ奴の仲間ではないのですか!!」
今にも襲い掛かりそうなコクをあたしは制する。
相当リッチの事が頭に来ているのだろう、しかし目の前にいるエリッツさんは「ご先祖様」と言っていた。
「まさか、『死者の門』を研究していたシナモナと言う魔法使いはですわっ!?」
「ああ、『死者の門』を研究し、不死の体『亡者の王リッチ』にたどり着いたのさ」
そう言い放ちエリッツさんはまたその場に座り直す。
「約束だよ、なんでも聞きな。私の知っていることは包み隠さず教えてやるよ」
そう言ってニヤリと笑うのだった。
* * *
「つまり『死者の門』とは冥界の女神セミリア様の扱う御業に通じると言うのですの?」
「ああ、そうだ。そしてそれはこの世とは違う場所へと導く、つまり冥界さ。私たちの一族はこの世とあの世との境を見極めそして『異界』もしくは『異空間』というモノを知ったのさ」
そもそもこの世界にはアガシタ様たちが作り上げた人間界、精神世界、精霊界や妖精界そして死者の魂をまとめる冥界など別の世界がある。
しかしそれは全て女神たちの力から成り立っていてこの世界の一部となっている。
だがこの世界以外にも別の世界、そう「異世界」が有ることにエリッツさんたちの一族は気づいた。
それが異世界からの召喚のもとになっていると言うのだ。
「そうしますと異界人の召喚もシナモナ一族が見出したと言うのですの?」
「まあそうだがそれにはいろいろ制約があってね。嬢ちゃんも知っての通り魔術の原則、等価交換の枷を外さなならんのさ。『異世界』とはそれ程女神の力でさえ簡単にどうこうなるものじゃないって事さ」
そう言って深いため息をつく。
魔術の原則は無から有を生み出すのではない。
有から有しか生みだせないのだ。
この世界は全て魔素、魔力、マナ、そして物質と連なっていてそれは空気にさえある。
魔術とは女神様たちの御業の秘密を人であるあたしたちでも使えるようにしたもの。
天秤の女神アガシタ様がこの世界の主を「人間」として決めたからこそ教えられた女神の力の片鱗。
だからこの世界で魔法を使うと言う事は等価交換であり必ず何かの代償が必要だ。
一般的にはそれは「魔力」を糧にするがその法則が効かない「異界人」たちを呼び寄せるのもこの世界に押しとどめるもその代価が必要となる。
「そうすると『異世界人召喚』や『悪魔召喚』とはですわ‥‥‥」
あたしは言いながらもう気付いていた。
悪魔たちが好み、女神様たちがなぜこの世界の人間の魂を輪廻転生させるのかを。
「そう、この世界以外の物を欲するなら代価として『魂』が必要なのさ。それは人間たちの贄って訳さ」
エリッツさんにそう言われあたしは心底嫌気がさす。
そしてアガシタ様の言っていた女神様たちも万能では無い理由が分かった。
「でも師匠、そうするとお姉さまたちが作り上げた四連型魔結晶石核はどうなるのです? 精霊王たちの力を使った逆スパイラル機構は代価を使っていませんよ!?」
イオマが思わずあたしたちの会話に割り込んだ。
「さて、その四連型魔結晶石核とやらが何かは知らないけど、それ相応の代価を使っているのだろう?」
確かに四連型を使うには相当な魔力を消費する。
それは通常の魔術師ではできない。
現在完全稼働できるのはこの世界でもあたしだけだ。
「エルハイミさん、私にはあんたが化け物に見えるよ。そこにいるちっこい嬢ちゃんたちは竜の化身と言った所かい? しかしあんたは違う。あんたは人でありながら人では無いね?」
「!?」
それはあたしが一番気にしない様にしていた事だった。
実は実感があった。
あのお方の力を使い何度も魂の枷を外し、そしてあのお方の力と同調するたびにあたしはあたしでない部分が増えていっている事を。
あたしはそれは魂の容量が増えたせいだと思っていた。
しかしそれは違っている。
あたしの魂の中には既にあのお方の置いて行ったお力が残っている。
「エルハイミが人じゃないって何よ!? あたしの旦那様はそんなバケモノじゃないわよ!」
「確かにお母様は人の力を超えていますがバケモノではありません!」
シェルとコクまでもが異議を申し立てる為に話に割り込み始めた。
しかしエリッツさんは動じる事も無くポリポリと額を掻く。
「『狂気の巨人』を易々と倒すことが出来るやつが化け物以外の何だって言うんだい?」
「うっ!」
「そ、それは‥‥‥」
痛い所をつかれてシェルもコクもそれ以上何も言えなくなる。
「エリッツ‥‥‥」
「ジーナ、言っただろう? あんたが育てたこの嬢ちゃんは女神をも超える存在になるかもしれないって」
ジーナはそれ以上何も言わなくなって下を向く。
それを確認してからエリッツさんはあたしに向き直りもう一度聞く。
「他に聞きたいことは有るかい? 無ければ行こうか。レイム様もお待ちだ」
「レイム様がですの!? ど、何処へ行くと言うのですの!?」
するとエリッツさんはニヤリと笑い言い放つ。
「決まっているだろう? 私たち一族が代々研究を重ねそして守ってきた場所、シナモナの研究施設さ!!」
あたしたちはそのシナモナの研究施設に行く事になるのだった。
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