第56話婚姻の義
イザンカ王国首都ブルーゲイル。
今ここは祝福に満ちていた。
イザンカ王、アビィシュ陛下とその伴侶となるフィルモさんの婚姻の儀が今まさに始まろうとしていた。
連合への参加は既に申請をしていて徐々に安定を始めたイザンカは外賓の大使たちも増えて来ていた。
国として内乱も平定し、新たな国王を中心に国が力をつけ始める。
そしてさらに安定させるために伴侶を娶る事は国にとっても重要な事となる。
あたしは一線を退いてアコード陛下からティアナの転生者を探す事を許され自由気ままに行動させてもらっているのでイザンカ王国のこういった話は伝わってこなかった。
それでもあたしたちはこの結婚式に参列している。
新婦フィルモさんの友人として。
「お姉さま、来ましたよ!」
「懐かしいわね、あたしとエルハイミの時を思い出す!」
城の中に有る教会で婚姻の義が執り行われるが参列者は既に式場に集まり式場へ新婦が来るのを待っていた。
そして今イオマが言った通り入り口の扉が開き、お腹の大きくなったフィルモさんが奇麗な純白の花嫁衣装姿で現れる。
そして父親のアスター伯爵に連れられて式場の奥に待つアビィシュ陛下のもとまで静々と歩いて行く。
アビィシュ陛下のもとまで連れられて行った新婦はベールで顔を隠されているがうっすらと見えるその中は笑顔が見取れる。
そして式が粛々と進み最後の誓いのキスへと。
「ではお互いの永遠の愛を誓い、夫婦となる誓いのキスを」
アビィシュ陛下はフィルモさんのベールをまくり上げる。
そこには瞳を潤ませ嬉しそうにしているフィルモさんが。
そして二人は熱いキスをする。
途端に祝福の歓声が上がる。
周りからも拍手がなされはにかんだフィルモさんと嬉しそうにするアビィシュ陛下。
まさに式は最高潮に達し二人の近くにまでみんな集まる。
「お姉さま、私たちも近くへ行きましょう!」
「バージンロードを通って退出するのではないのですの?」
単に祝福の言葉をかけに行くだけだと思ったらそうではないらしい。
「イージムではその場で花嫁がブーケを投げるんですよ! いかなきゃ!!」
そう言ってイオマは慌ててその中に行く。
あたしは既に既婚者なのでブーケが万が一あたしのもとに来てしまったら気まずいなんてものでは無い。
なのでややも遠くからその様子を見ている。
そして花嫁であるフィルモさんがブーケを投げる。
一斉に女性陣がわっとなり、そのブーケが最後落ち着いた場所は‥‥‥
「お姉さま! やりました! 私が次に幸せになれるんですね!?」
なんとイオマのもとにそれは飛んできてイオマの手に収まってしまった。
‥‥‥いや、あたしはダメだよ?
人妻だよ?
今は未亡人だけど、ティアナが見つかったらまたティアナと一緒になるからね?
しかしイオマは瞳を輝かしあたしのもとへやって来る。
そして尻尾を振る犬のように興奮している。
「お姉さま、これは運命です! 義姉妹の関係から一気に夫婦に関係へ!」
「こらイオマ! エルハイミには妻であるあたしがいるんだからね! 他探しなさい」
「何を言っているのです、このバカエルフは! あれは便宜上。シェルは従者です! お母様は私のモノです!!」
幸せの笑顔からみんな苦笑の笑顔になる中あたしたちはしばし騒ぐのであった。
◇ ◇ ◇
婚儀の儀式から既に二日経っていた。
あの後あたしたちは客人としてお城に招かれ滞在する事なったので慌てて宿屋を引き払い新婚アツアツの二人のいる王城に来ている。
「あら、あなた! 動きましたわ!!」
「ほう、どれどれ」
二人のイチャイチャを見せつけられながらやっと落ち着いていたので今回の目的を話す。
「そう言う訳で、『知識の塔』の管理者である『彼女』ことエリリアさんの神託でここイザンカにいるはずの天秤の女神アガシタ様の使い、レイム様を探しにまいりましたのですわ」
あたしの話を聞いたアビィシュ陛下「ふむ」と唸ってから話し始める。
「エルハイミ殿には多大なる恩が有ります。我々にできる事は惜しみなく協力致しますが、悪魔召喚をする為の古代遺跡となると我々も聞いた事がありませんぬな」
「城の記録を確認しましょう。宮廷魔術師たちに協力してもらってそれらの古代遺跡の伝承や記録を当たってみますわ。エルハイミさん、ジニオたちにも協力させますからね」
フィルモさんもそう言ってこの歴史あるイザンカ王国の記録を探ってくれることとなった。
「しかし、古代遺跡ですか‥‥‥ お恥ずかしい話、歴史だけはある国の割に古代魔法王国時代の魔術師たちの研究施設は把握しきれていないのです。何分この国にある古代遺跡は場合によっては個人規模までの物を入れると数千にも及ぶ数と言われてましてな‥‥‥」
「数千ですの!? 流石は最古の都市イザンカと言った所ですわ。しかし個人の研究施設とは何なのですの?」
通常魔道の研究施設はそこそこの規模が有るのが普通で場合によっては迷宮化している所が多い。
しかし個人的施設とはウェージム大陸では聞いた事が無い。
「イージム大陸の地は古来人が住むには厳しい環境でした。ですので身を守りながらの魔道研究とは専門の施設を作ること自体が困難となります。ですので個人的に安全な場所を見つけそこに魔道の研究をしていたらしいのです。なので街の地下や城の隠し部屋など様々な所に研究施設が有ると言われております」
そう言いながらアビィシュ陛下苦笑する。
なるほど、そう言われればここイージム大陸は魔獣や妖魔が多い。
街や村は全て城壁があり外敵から身を守るように出来ている。
前回はジュメルがらみの内戦に手を貸したからそんな事にまで気が回らなかったけどここ首都ブルーゲイルだってご先祖様が作った城壁を基本に外部にどんどんと街が広がり城壁の輪が街の所々に見受けられている。
しかしそうするとレイム様がいそうな遺跡を探すのも一苦労になりそうだ。
あたしたちは申し出を受け召喚魔法に関連した施設の絞り込みをしてもらう事にした。
まずはそこから調べるしかないだろう。
そしてあのレイム様、ここにいると言う事はもう傷の方は良いのだろう。
アガシタ様のお使いで異界召喚の魔法に関する物は全て回収し続けている。
あたしは窓の外を見る。
穏便に事が進めばいいのだが。
そんな事を思うのだった。
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