第55話イザンカへ
「エルハイミ教」とか言う変な宗教にこれ以上関わりあいたく無いあたしはイザンカに行く事にした。
「あらあらあら~、エルハイミもう行っちゃうの? もっとゆっくりしていればいいのに~」
「お母様、またそのうち来ますからですわ」
あたしはそう言ってもっとゆっくりして行けと言うママンを振り切る。
エルザさんの話だと明日にはパパンが戻ってくるらしい。
そうしたらなんかとても面倒な事になりそうだ。
なのでいち早くこの場を離れたい。
「お婆様、また来ます。今度はジマの国の特産物をお持ちします」
「そうだねぇ~また来るよばーちゃん!」
コクやセキはそう言ってママンに抱き着く。
ママンはそれを嬉しそうにしていたけどコクやセキが離れると仕方なしに「あらあらあら~、待ってますよ~」と言ってハンカチを振り振りとしてくれた。
さて、それじゃあ行きますか。
あたしは魔法陣を展開して「行ってまいりますわ!」と言って真っ先に入って行くのだった。
* * *
「こ、これはですわ‥‥‥」
首都ブルーゲイルに着いたあたしは街が祝福一色になっている事に驚く。
「どうしたと言うのでしょう? お母様?」
「なんか賑やかね?」
周りをきょろきょろと見ながらコクやシェルはそう言う。
「お姉さま、これってもしかして‥‥‥」
イージム大陸出身のイオマは何か心当たりが有るようだ。
「街中に卵が並べられています。こっちの方では卵を並べるのは婚姻の義、結婚式とかのお祝いの時にするのですけど、ここまで盛大となると誰か偉い人が結婚するのでしょうか?」
言われてみれば街のあちらこちらに籠に入った卵が置かれている。
そして道行く人は嬉しそうに肩を抱き合い笑っている。
「うーん、何があったか聞いてみましょうですわ」
あたしはそう言って近くの露店で果物を買いながら聞いてみる。
「このリンゴをくださいですわ。それでどうしたと言うのですの? 何やら街が祝福一色のムードのようですわ?」
「あら、知らないのかいお嬢ちゃんは? 国王陛下が明日婚姻の義なんだよ。アビィシュ陛下もやっとご結婚されるんだよ。はいよリンゴね、おまけしておくよ」
果物屋のおばちゃんからリンゴを受け取って代金を払いポーチにしまっておく。
そして聞いた話が本当だとするとあの髭オヤジがとうとう身を固めたわけだが‥‥‥
「お姉さま、するとフィルモさんが!?」
「多分そうでしょうですわ。もしフィルモさんを泣かすようなことがあればただでは済ませませんわ。城へ行ってみましょうですわ!」
あの時は別れの時にはフィルモさんも良い返事をもらっていたはずだし、まず間違いないだろう。
もしあの髭オヤジがとち狂った事したらただではおかない。
あたしはそう思いながらふと祝いの品が無い事に気付く。
「いけませんわ、お祝いの品がありませんわ」
「だったらジルの村のあの宝石をプレゼントすれば良いじゃない?」
シェルはそう言ってポーチからダイヤモンドを引っ張り出す。
だけど原石のまま渡す訳にも行かない。
あたしたちは仕方なしに宿屋に部屋を取りあたしの【創作魔法】で宝石を加工する。
途中の店で買って来た他の部材も使って豪華な首飾りを作り上げる。
「これで良しっとですわ」
「うわっ! 奇麗!!」
「へぇ、あの宝石加工するとこんなに奇麗になるんだ」
「ふむ、宝石とはいつみてもいいものですね。私も迷宮の宝物庫にいくつか在りましたね」
「え~? あたしは金の方が良いなぁ。宝石ってものによっては溶岩近くで燃えちゃうんだもん! 金細工の奇麗なのが好きかなぁ~」
イオマはその首飾りをうっとりと眺めシェルは原石を持ち出しそれと加工された首飾りを見比べている。
黒龍や赤竜も財宝を持つ習慣があったらしく自分たちの財宝や何が好きかを言い合っている様だ。
あ、そう言えばセキのお宝は全部ガレント王国に献上しちゃったんだっけ?
「ま、今のあたしはそんなものよりお肉の方が良いけどね~」
セキはニカっと笑うのだった。
あたしは後でセキの好きなだけお肉を食べさせてあげる事にするのだった。
* * *
お祝いの品としてダイヤの首飾りを準備してその他にもちょっとだけガルザイルに戻って献上用のお酒やウェージム大陸特産の食べ物を買い込んで戻って来た。
「さてと、これで準備は良いですわね。それでは行きましょうですわ」
あたしはそう言ってお城へと行く。
最初「育乳の魔女様だ!」とか騒ぐ門番のせいで大騒ぎな状況になりかけたけど直ぐに衛兵長が来てあたしたちを確認して城に入れてくれる。
そして祝賀ムードの中、あたしが来た事を伝えてもらって応接間に通される事しばし‥‥‥
ばんっ!
いきなり扉が開かれフィルモさんが入って来た。
それは一見して幸せ絶頂の様子。
「エルハイミさん! 本当にエルハイミさんね!? よく来てくれたわ!!」
「フィルモさん、おめでとうございますですわ‥‥‥ってぇ! な、何ですのそのお腹はっ!?」
フィルモさんのお腹は既に大きくなっていた。
いや、まあ、ちゃんと責任とって結婚しているのならいいのだけど、まさか出来ちゃった婚?
「ふふふふふっ、こんなお腹なら説明は必要ないわね? でもやっとあの人も婚姻の義を行ってくれることになったの。長かったわ‥‥‥」
「狂気の巨人」の戦いではるか遠いこのイザンカからフィルモさんたちは駆けつけてくれた。
そしてあの戦いの後錯乱していたあたしに声をかけてくれたりしていたけどあたし自身はその頃の記憶があいまいだ。
それほどあの時は落ち込んでいた。
「フィルモさん、改めておめでとうございますですわ。そしてあの時はごめんなさいですわ」
「何を言っているのよエルハイミさん。あなたは私の友人でしょう? そのあなたがこうして来てくれただけでもうれしいわ」
そう言って嬉しそうに笑う。
いいなぁ、あたしもティアナとは結婚式上げたけど子供までは授かることは無かった。
コクやセキはいるけど本当のあたしたちの子供ではない。
その点フィルモさんは愛されそして最愛の人の子供を身籠った。
女性としての幸せの絶頂だろう。
「エルハイミ殿が来られているとは本当か?」
そう言ってアビィシュ陛下がやって来た。
「おおっ! エルハイミ殿! よくぞ参られた、歓迎いたしますぞ!」
「アビィシュ陛下、ご無沙汰しておりますわ。この度はフィルモさんとのご結婚、おめでとうございますですわ」
あたしがそう言うとシェルがポーチから祝いの品を出してあたしに手渡してくれる。
「これは私たちからのお祝いですわ。どうぞ受け取ってくださいですわ」
そう言って首飾りの箱を手渡す。
アビィシュ陛下はそれを受け取り「開けても?」と聞いてくる。
あたしは「ええ、勿論ですわ」と言って二人の様子を眺める。
「これはっ!?」
「ええっ!? エルハイミさん、これって!」
アビィシュ陛下が箱の中から取り出したその首飾りは大きなダイヤを中心に小さなダイヤが周りをキラキラさせプラチナとミスリルを使った豪華なものになっていた。
フィルモさんはそれをうっとりとして見ながら言う。
「こんなに素晴らしい物を‥‥‥ ありがとうエルハイミさん!」
「きっとフィルモさんに似合いますわ。さあ、アビィシュ陛下ですわ」
あたしに促されてアビィシュ陛下はその場でフィルモさんにその首飾りをつけてあげる。
それはフィルモさんにとても似合っていた。
―― ドワーフはその人が身に着けた時に一番似合うように飾りを作るのじゃよ、エルハイミの嬢ちゃんはそれがよくわかっているよじゃのぉ ――
何となく戦死したオルスターさんがそんな事を言ったように感じた。
フィルモさんはそれはそれは素晴らしい笑顔でこう言うのだった。
「私今最高に幸せよ! ありがとうエルハイミさん!!」
あたしもその様子を見ながら心から祝福をするのだった。
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