第46話ゴエム再び
あたしたちは翌日「知恵の魔女」に会うためにメルモさんに引き連れられて出かけていた。
モルンの町は前回来た時より少々物々しくなっていた。
それもそのはず、半年くらい前にここから数日先のルド王国で「狂気の巨人」の封印が解かれその姿を見たものも少なくはない。
帝国は女神のお力だと言っていたが現にルド王国の人間が喰われたと言う話や何処からから現れた英雄たちらしき者によってその「狂気の巨人」が倒されたと言う目撃情報はこのモルンの町ではかなり広まっており、ホリゾン帝国の強引な戦争の継続に対しても疑問を持つ者は少なくないらしい。
実際にバルドさんは引き続きホリゾン帝国内で活動をすすめ女神の力である「狂気の巨人」が倒されたことや秘密結社ジュメルについても情報を流し内部からの陽動を行っている。
そして戦線が膠着しているもう一つの理由がガレント軍の指揮官にゾナーが表立って動いていると言うのもある。
ゾナーはわざと自分が健在であり「ホリゾン帝国の開放」と謳ってガレント軍、連合軍の助力を得て聖戦を行っていると宣伝している。
これになんと宮廷魔術師の一部が賛同したり、一部貴族の賛同も得られたようで徐々にホリゾン帝国にとって不利な状況になってきている様だ。
と今までの状況をメルモさんから聞きこのままいけば時間の問題ではないだろうかとあたしは思う。
「着きました、ここが『知恵の魔女』セリア様のお宅です」
メルモさんに言われ見ると町の外れにある一軒家。
大きな家ではないけどだいぶ古い家のようだ。
煙突から煙が昇っているので在宅のようだ。
あたしたちは周りの様子を確認してから扉をノックする。
ホリゾンの軍人らしき人影は無い。
コンコン
「どなたですか?」
中から女性の声がする。
「獣人の方に紹介され参りました者ですわ。『知恵の魔女様』のお宅で間違いないでしょうかしら?」
あたしはそう言って答える。
「獣人の方の紹介ですか‥‥‥ 分かりました。少々お待ちください」
そう言うと何かの詠唱をしている様だ。
そしてその詠唱が終わると扉にかけられていた結界が解かれ自動で扉が開き始めた。
そして出迎えてくれたのは一人の女性。
一目で魔女と分かる古風ないでたちをしていた。
「お初にお目にかかりますわ。私はエルハイミ=ルド・シーナ・ガレント。獣人ファルメルさんの紹介で参りましたわ」
そう言ってファルメルさんが書いてくれた手紙を差し出す。
「ファルメルのですか‥‥‥ それにエルハイミという名は‥‥‥」
すると今度は家の中から声がする。
「エルハイミだとぉっ!?」
ん?
どこかで聞いた事のある声?
そして奥からがたがた音がして出てきたのは‥‥‥
「ゴエム!?」
「エルハイミ、てめぇ、何こんな所ほっつき歩いていやがんだ!! 早く入れっ!」
そう言って「知恵の魔女」の了解ももらわずあたしたちは家の中に引き入れられるのだった。
* * *
「お姉さま、何なんですかこいつ? やたらとお姉さまになれなれしい」
「エルハイミ、てめぇあれだけの事しておいてティアナ姫がいなくなった途端にもう他の女に手を出しているのか?」
「なんなのですのそれっ!? 私はティアナの転生者を必死に探しているのですわよ!? この子はイオマ、私の義妹ですわ!!」
家の中に引き込まれていきなりゴエムにそんな事を言われる。
「まあいい、それより付けられてないだろうな?」
「どう言う事ですのゴエム?」
「どうもこうも、この『知恵の魔女』ことセリアはジュメルの連中に狙われているんだよ!」
ジュメル?
なんでまた連中が「知恵の魔女」なんかを。
「挨拶がまだでしたね。私は『知恵の魔女』と呼ばれるセリア。このモルンの町で代々魔女の家業をしています」
「改めまして、エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントですわ。こちらは私の義妹イオマ、従者のシェルとショーゴ・ゴンザレス、私の娘コクにセキ、そしてその従者のクロさんとクロエさんですわ」
あたしがみんなを紹介するとマリアがシェルの懐からもぞもぞと出てきて飛び回る。
「エルハイミ、あたしもいるぅ~!!」
「そうそう、ごめんなさいですわ。そしてフェアリーのマリアですわ」
メルモさんは軽く会釈だけしている。
どうやら顔見知りのようだ。
「それで、ゴエム。一体どう言う事ですの? それにあなた、あの後ゾナーのもとに行くとかどうとか言ってませんでしたの?」
「ちっ、落ち込んでた割りにはしっかりと聞いているじゃねーか? だが野暮用が出来てセリアたちを助けなきゃならないんだよ、このままじゃジュメルに利用されてしまうからな」
なんかやたらと「知恵の魔女」の事を知っているかのような感じね?
あたしたちがそんなことを話しているとセリアさんは先ほどあたしが渡したファルメルさんの手紙を読んでいた。
「そうですか、ファルメルたちはどうにか逃げ延びましたか。良かった‥‥‥」
読み終わった手紙を近くのテーブルに置いてセリアさんはあたしたちにソファーに座るよう言ってくれる。
とりあえずずっと立ち話も何なので進められたソファーに座る。
すると奥から一人の男性が赤子を抱いたまま出てきた。
「セリア、大丈夫なのかい?」
「ええ、大丈夫よ、あなた。それよりこの人たちにミーティアを見せてあげて」
そう言ってその男性が抱いている赤ん坊をあたしたちに見せるよう言う。
男性は静かに言われるままにその赤ん坊をあたしたちの前に持ってくる。
それは紛れもない赤髪の女の子。
「夫のドワイッシュと娘のミーティアです。エルハイミさん、この子の魂を見てあげて‥‥‥」
そう言って彼女は視線を外す。
んー、どう言う事だろうか?
あたしは言われた通りにそのミーティアちゃんを見る。
赤髪がやわらかそうに白い肌のその赤子はかわいらしく寝息を立ててすやすやと眠っている。
こんなに小さいのにまつげは長く、将来きっと美人になるであろう、この「知恵の魔女」同様に。
あたしは静かに同調を始める。
そして瞳を碧眼から金色へと輝かせこの赤ん坊の魂を見る。
それはティアナそっくりだった。
彼女の魂の色は赤。
そしてそれは女神シェーラ様にと強く結びついている。
いや、結びついてると言うよりその者のようにさえ感じる。
なんだろう、こんなのは初めてだ。
あたしはその魂の大きさも普通の大きさで無い事に気付く。
しかしおかしい。
ティアナでは無い。
ものすごくティアナっぽいのにティアナじゃない?
あたしは更にその魂を見る。
そしてその記憶に触れると驚いた。
「せ、精霊ですの!?」
そう、この赤ん坊に宿っている魂は炎の上級精霊イフリートのそれだった!
「精霊? まさかこの子の魂は人では無いのですか?」
セリアさんは驚きあたしに聞く。
しかしそれは事実。
「ええ、間違いありませんわ。この子の魂は炎の上級精霊イフリートのそれですわ」
それを聞いたセリアさんはその場に崩れ落ちる。
それを旦那さんが支える形で受け止める。
「やはりそうでしたか‥‥‥ あの時の‥‥‥」
「ちっ、本当だったのか。セリア、やはりここから逃げるしかない」
何やらいろいろと問題が有るようだった。
あたしは彼女、セリアさんに聞く。
「一体何があったと言うのですの? ジュメルが関わってくるなんてですわ?」
「それは‥‥‥」
「私に力になれることがあれば協力致しますわよ。ミーティアちゃんを見せてくれたお礼にですわ」
あたしはそう言ってにっこりとほほ笑むのだった。
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