第45話モルンの町で
伝書鳩を飛ばしたあたしたちに夕方合図の炎が真っ先に城壁の上に灯った。
「どうやら大丈夫のようですわね?では行きますわよ【異空間渡り】」
あたしはガレントの拠点であるあの家をイメージする。
そして魔法陣に入る。
ほどなく拠点で会ったメルモさんがあたしたちを出迎えてくれる。
「お久しぶりです、エルハイミさん、皆さん!」
「ごきげんようですわ、メルモさん。その節はお世話になりましたわ」
あたしがそう言って挨拶しているとここの拠点の他のスタッフも出迎えてくれる。
中には獣人の人もいてこのモルンの町が獣人が多い事を物語っている。
今回はこの潜伏先を拠点に「知恵の魔女」と称される人物の娘さんに会いにいきたい。
噂ではその一族には今まで生まれてこなかった赤毛の女の子が生まれたという話だ。
時期的にもティアナがいなくなってすぐ位。
もしかするとティアナの転生者かもしれない。
今度こそティアナだったらいいなぁ。
あたしはそんな淡い期待を抱く。
「それでエルハイミさん、概略は伝書鳩で知っているのですがその『知恵の魔女』が‥‥‥」
ここへの支援物資をポーチから引き出すあたしにメルモさんは目的の「知恵の魔女」について話しだした。
「実は少々厄介なんです。ホリゾン帝国から彼女にも戦争へ参加するように召集状が来ていたらしくもめているとか」
「召集状ですの?」
ホリゾン帝国とガレント王国の戦争は長引いている。
ウェージム大陸とノージム大陸をはさんだ海峡で睨み合いが続いている。
時たま出てくるジュメルの「巨人」との対決にガレントからも「鋼鉄の鎧騎士」が出て人外の戦闘も起こっているらしい。
しかし双方とも海峡に阻まれ決めての進軍が出来ずこの半年近く膠着状態らしい。
「ホリゾンとしてみれば遠距離攻撃の強化として魔術師がもっと必要らしいです。なのでこのモルンでも召集状が出回って来ています」
メルモさんはそう言ってため息をつく。
「では『知恵の魔女』は今ここにはいないのですの?」
「いえ、生まれてまだ乳飲み子の子供がいると言って召集状に対して拒否をしているそうです。ただ彼女はこの界隈では有名なので軍の人物がしきりに戦争参加に呼びに来ているのです」
うーん、それは確かに面倒だ。
国民の義務として召集がかかってしまえばよほどの理由がない限り参加を強制される。
ましてや戦力として期待される人物であればなおさらだ。
「『知恵の魔女』のいる所は分かりましてですの?」
「はい、場所は分かっています」
メルモさんから大体の場所を聞いてからどうするか考える。
「お姉さま、どうしますか?」
「そもそもその『知恵の魔女』ってあたしたちの話聞いてくれるの? ガレントの人間嫌いなんじゃない?」
イオマとシェルは支援物資を並べてチェックをしている。
ここの潜伏員に受領のサインをもらって自分のポーチにしまう。
「ファルメルさんの手紙が有りますわ。『知恵の魔女』は獣人に対しても分け隔てなく接していたと聞きますわ。きっと大丈夫でしょうですわ」
「知恵の魔女」と称される人物だ、感情だけで動くとは思えない。
なのであたしはメルモさんにお願いして明日早速会いに行く事にするのだった。
* * * * *
「ところでお姉さま、ここってノージム大陸でモルンの町ですよね? 伝説の『知識の塔』って有るんですか?」
イオマは興味津々で聞いてくる。
魔術師であれば一度は聞いた事のある「知識の塔」。
伝説では知恵の女神オクマスト様が女神戦争で自分の知識が失われるのを恐れ作った塔。
そこには分身の「彼女」と呼ばれる管理者がいてご先祖様に「狂気の巨人」を封じる方法を教えたとか。
「行ってみたいですねぇ~『知識の塔』」
「イオマ、それは伝説の話で実際には誰も見つけてはいないそうですわよ? それに多分あったとしても今はもう‥‥‥」
もしあったとしても既にジュメルの手に有るか破壊されたかだろう。
あの時レイム様は女神の分身のくせして力がない「彼女」を助け出しヨハネス神父と戦い傷を負った。
だからもしそれが残っていたとするともうジュメルの手に落ちているだろう。
「そうですか、残念です。もしあれば惚れ薬の作り方を教えてもらってお姉さまに‥‥‥ ぐふっ、ぐふふふふふっ」
「イオマ、声に出てますわ。それとよだれ」
あたしはハンカチを渡しながらイオマにそう言う。
「それずるい! もしそんな薬有ったらあたしが奪ってエルハイミに使うわよ!」
「イオマ、シェル。惚れ薬はずっとは効きませんよ? それにあの様な物を使ってお母様のお心が変わるとは思えません。魔力抵抗の強い者には効きませんからね」
え?
有るんだ惚れ薬って。
それに魔力抵抗が強いと効きにくいんだ。
「コク、それは本当ですの?」
「はい、それで手痛い目にあった者を過去に見て来ましたから」
昔を思い出したのかコクは嫌そうな顔をする。
「そうなんですか、残念ですねお姉さま」
「いえ、私は特に欲しいとは思いませんし使う必要は無いですわよ?」
イオマはあたしを見ながら本気で残念そうにしている。
「知識の塔」かぁ。
ちょっとは気になるけど今は「知恵の魔女」の娘さんが先だ。
あたしは既に暗くなった窓の外を見るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます