第44話知恵の魔女


 新たに獣人の難民を受け入れたジルの村は今後の事も有るので歓迎会を開いていた。

 


 「ありがとうございます。我々を受け入れてくれる人がいるとは」


 「いやいや、あの山岳地を荷運びするのは大変なんで谷底まで下りるのも命がけなんだよ。それを獣人の力でやってもらえるのは非常に助かるんでな」



 ボルバさんはそう言ってお酒を飲む。


 本来は希少なものでそうそう飲めないのだけどあたしがティナの町まで【異空間渡り】で戻って色々とエスティマ様に都合をつけてもらって持ち帰ったのだった。


 今回は住民も増えるし、ティナの町まで運んだ原石もいっぱいあったので食料なんかの提供もしてもらっている。

 なので当分はこの村も食料や薬、衣料品なんかも大丈夫だろう。



 「まさか獣人とはですね。お姉さま、さっきから気になっているんですがフェルミナさんの尻尾撫でまくってませんか?」


 あたしは獣人の中できつね獣人のフェルミナさんの尻尾を触らせてもらっている。

 このもふもふ、このつややかさ、さいっこうぅっ!


 「ちゃんと了承は得てますわ! ほ、他は触ってませんわよ?」


 「いえ、手つきが怪しいです!」


 ちゃんと承諾してもらっているからフェルミナさんは苦笑いしている。

 フェルミナさんはあたしよりちょっと年上の二十二歳、生きていればティアナと同じ年だ。


 イオマはジト目であたしを見ている。


 ティナの町に戻って原石を引き渡し、エスティマ様に話をして倉からお酒や食料、衣料品や薬を受け取っていたらイオマと会った。

 もともと受け取りが終わったら「鋼鉄の鎧騎士工房」へイオマを訪ねるつもりだったので手間が省けたけどジルの村で宴会をやると言ったら付いてくると言い出した。



 「お酒の席でお姉さまを放置したら何をする事やら」


 「どう言う意味ですの?」


 「エルハイミぃ、そのままあたしに手を出してもいいのよ!」


 「こらバカエルフ! お母様にくっつくのではありません!!」



 お酒が入りだんだんと調子が出始めた頃シェルが絡んできた。

 コクも飲んでいるけどまだまだしらふのようだ。



 「ほら、やっぱり見張ってないと危ない!」


 「いえ、何もしませんわ!」


 「信じられません!」



 イオマも飲んでいるので酔いが回ってきているのだろうか?

 いつもより絡んでくる。



 「ねえエルハイミ母さん、それより次はモルンに行くのでしょ?」


 近くで骨付き肉をかじっていたセキが食べ終わり聞いて来た。

 あたしは頷き返す。


 「ええ、勿論ですわ。その『知恵の魔女』さんの娘さんを確認させていただきますわ」


 既にファルメルさんからは「知識の魔女」に対して紹介状を書いてもらっている。

 モルンの町ではもともと獣人の里が近かったせいでホリゾン帝国でも獣人に対する迫害が少ない場所だったらしい。

 過去には獣人との交易も盛んだった為住人の中には獣人も結構いるそうだ。


 ただ、今次戦争で傭兵として駆り出されたりしているらしい。

 獣人の特殊能力は通常の戦争では非常に役立つからだ。


 

 「でもその『知識の魔女』ってまだモルンの町にいるの?」


 シェルはあたしにおかわりの飲み物を差し出しながら聞いてくる。


 「ファルメルさんの話ですとまだいるらしいですわ。どちらにせよ行ってみなければわかりませんもの」


 シェルから受け取った飲み物を飲みながらあたしはそう言う。

 

 ティアナ転生の情報は他にはない。

 エルフのネットワークや世界中のあたしの知り合いはそれらしい情報が有ればいち早く知らせてくれることになっている。

 しかし今の所それらしい話はない。  


 なので可能性が少しでもありそうな話は確認をしに行かなければならない。


 「今度こそお母さんだといいなぁ」


 セキはそう言いながら次の骨付き肉をかじる。

 あたしも同感でセキと同じく骨付き肉に手を伸ばすのだった。



 * * *


 

 「それではジル、行ってきますわ。どのくらい時間がかかるかは分かりませんので何かあったら『風の剣』のファムさん経由で連絡をくださいですわ」


 あたしはジルにそう言ってモルンの町に飛ぶ準備をする。


 

 「うん分かった。エルハイミねーちゃんのおかげで当分この村も物資には余裕が出来たからね、ありがとう」


 「どういたしましてですわ。それでは行ってまいりますわ!」


 あたしはそう言って【異空間渡り】の魔法陣を展開する。

 そしてジルに見送られながらあたしたちはモルンの町に飛ぶのだった。


 

 * * *



 「便利は便利なんだけど、なんで門の外に出るのよ?」

 

 シェルはモルンの町の城壁の外に到着して文句を言っている。

 しかしいきなり町の中にあたしたちが現れる訳にはいかない。

 なのでこうして人目の付かなさそうな林に出ている。



 「いきなり人目に付く訳には行きませんわ。それにガレントの隠れ家に行くにしても先に連絡をしなければですわ」


 一応ティナの町で先に風のメッセンジャーで連絡は入れている。

 だから合図をすればメルモさんたちにも分かるだろう。


 ただそれでもいきなりアジトに現れるのはまずい。

 なので夜になってから【異空間渡り】でアジトに行こうと思っている。



 あたしは準備した伝書鳩を飛ばすのだった。



 

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