第43話確認


 ジルの村とティナの町の間に盗賊が出ると言う事であたしたちは盗賊退治をした。

 そして掴まえた盗賊は北の大地、ホリゾン帝国からの難民でありしかも獣人であった。

 獣人は北のノージム大陸にいる少数の種族で猫耳に尻尾という一家に一人メイドとして欲しい様な種族である。



 「しかし本当に獣人なんだぁ、初めて見るよ」


 「これって作りものじゃ無い耳なんだよな?」


 「見た目は普通の人間と変わらないじゃないか? ワーウルフやワ―タイガー、ワーベアみたいのと思ってたよ」



 わいわいがやがやがや。


 村には物珍しさに住民が集まっている。

 


 「さてと、それではいろいろと話してもらいましょうですわ」


 あたしはにっこりとそう言うとこの捕まえられた獣人たちは涙を流しながら命乞いを始めた。



 「後生です~どうあ命ばかりはぁ~」


 「お願いします、私はどうなってもいいので幼い子供たちに呪いをかけるのだけはぁ~」


 「なんでもします、だから命ばかりは~」



 号泣である。


 後ろでシェルけたけた笑っている。

 全く、あたしってホリゾンではどう言う扱いなのよ!!


 「大人しく言う事を聞けば危害を与えませんわ。それでまず確認ですわ。あなたたちはホリゾン帝国の難民ですのね?」


 「はいぃ~ぃっ! その通りでございますぅ~っ!!」


 猫だか虎だかの獣人が代表して答える。

 みんな耳が垂れ下がっているのが男性ばかりだけどちょっとかわいい。


 「では次にあなたたちの仲間はまだ居るのですの?」


 「ああっ! どうか家族たちだけはご勘弁をぉっ!」


 あたしが聞きたいこと聞き終わる前に縄に縛られたまま頭を床に押し付け哀願する。



 いや、あたし確認事項が有って聞いてるだけなのに‥‥‥



 「ふう、ねえあなたたち、ちゃんとエルハイミの質問に答えないと男でも胸を大きくする呪いをかけられるわよ?」


 シェルが面白半分でそう言う。

 すると獣人たちは脂汗を掻きながら涙する。



 「う、噂は本当だったんだぁっ!」

 

 「近寄る者全ての女は妊娠させられ、男は巨乳にされると言う噂は本当だったんだぁ!」


 「しかも飽きると雷で丸焦げにさせられ食べられてしまうってっ!」



 おいおい。

 何処でどうねじれてそう言う噂になった?



 「ふう、全くですわ」


 あたしはそう言ってロープを外すようショーゴさんにお願いする。

 ショーゴさんは一瞬でなぎなたソードで縄を切る。



 「へっ?」


 「こ、これはどう言う事ですか?」


 「ああっ! 逃げる所を狩られるんだぁっ! なぶり殺しにされるんだぁッ!!」



 ガクガクブルブルは止まらない獣人たち。

 あたしはもう一度だけため息をついてから話し始める。


 「とにかくあなたたちはこのジルの村で今後働いてもらいますわ! あなたたちの並外れた能力は非常に助かりますわ。この村に移り住んで物品の運搬やここの村を豊かにするのに力を貸してくださいですわ」


 あたしがそう言うと獣人たちがみんな固まる。

 そして恐る恐るあたしに聞いてくる。


 「あ、あのぉ、それって一体どう言う事ですか?」


 「言葉の通りですわ。あなたたち獣人の難民を受け入れると言っているのですわ」


 あたしにそう言われ獣人たちは目をぱちくりとしている。

 あたしの見立てではこの人たちもあたしが会った獣人たちと同じで根は悪い人たちではないだろう。

 難民となり人間たちを恐れ仕方なしにこんな所で盗賊何て事しているわけだ。


 「あの、我々をこの村に迎え入れてくれると言うのですか?」


 「あなたたちは今後ずっと盗賊なんてことをするつもりでしたの? ガレントはそこまで甘くはありませんわよ? 討伐隊が来たらあなたたちは有無を言わさず切り捨てられますわよ? それに盗賊のくせしてずいぶんと生ぬるい物取りですわ」


 あたしにそう言われ彼らはうなだれる。


 「すいません‥‥‥ ホリゾンを出てガレントに逃げ込めば何とかなると思ったんですが砦には機械のおっかない人形がいるし、逃げ込んだ場所は大雪で動きが取れない程で徐々に仲間も弱っていって‥‥‥」


 「それで仕方なく人が少ない所で物取りを‥‥‥」


 「ガレントに獣人がいないと聞き、町に行くのも怖くて‥‥‥」


 口々に釈明を始める。

 まあそんな事だとは思っていたけどだからと言ってなんでこんな所で盗賊なんかやっているとは。


 「とにかく、あなたたちの仲間もを引き連れて来なさいですわ。もし盗賊に戻るなら次は無いですわよ?」



 「ひぃえぇぇぇぇっ!! わ、分かりました! 呼んできますから命ばかりはぁっ!!」



 慌てて猫耳の獣人が立ち上がり仲間を引き連れに出て行く。

 そして残ったヤギや他の獣人たちにあたしは聞く。


 「なぜこんな人通りも少なく危険な場所で盗賊なんてしているのですの?」


 「あ、あのぉ、ここなら通る事で手いっぱいで大人しく品物渡してくれると思ったので。それにもし討伐隊が来るにしてもここなら逃げられるかなと思いまして」


 着眼点は悪くないけどもともと人通りも少なく運搬する物資だってそれほど多くは持てない。

 それなのにここを選んだ理由が気になった。


 「まああなたたち獣人の能力であればこそですのね?」


 「すみません、もうしませんから殺さないで!」


 まだビクビクしてるよ。

 うーん、これなら【束縛魔法】のギアスかけなくても大丈夫かな?


 「それで全部で何人いるのですの? 後ホリゾンは今どうなっているのですの?」


 多分それほど多くは無いと思うので村に受け入れるのは大丈夫だと思う。

 実際盗賊として襲ってきたのは五人だったし。


 「え、ええとぉ、全部で二十人です。女子供や老人もいまして‥‥‥」


 「ジル大丈夫ですわよね?」


 「まあそのくらいはまだまだ大丈夫だよ。その代わりここではしっかり働いてもらうからね!」


 ジルがそう言うとヤギの獣人はごくりと唾を飲む。

 そして恐る恐る聞く。


 「あの、奴隷となるのは仕方ないですがどっかに売られるのだけはご勘弁ください。やっと家族と逃げ出したのです。どうか家族全員ここで奴隷として従事させてください!」


 「あのね、奴隷なんていらないの。うちの村はそんな奴隷を持つなんて程豊じゃないんだからね!」


 ジルはそう言ってあたしを見て笑う。

 あたしの意図はもうわかっている様だ。



 「あんたらを歓迎する、村には掟があるけどそれさえ守ってもらえばあんたらは住民だよ。ここはまだまだ村としては出来たばかり。もっといろいろと便利にしたり採掘した品物を売りに行ったりとやる事は沢山有るんだからね」



 そう言ってジルは手を差し出す。


 「俺はジル。この村を任されている。それに俺はもとホリゾンの人間だよ」


 差し出された手を見てヤギの獣人は驚く。


 「ホリゾンの? ならなおさら我々を受け入れるなんて‥‥‥」


 「ここはホリゾンじゃない。ガレント王国ジルの村だよ。あんたらには期待しているからな?」


 そう言ってジルはニカっと笑う。

 ヤギの獣人は恐る恐るジルの手を握る。



 そしてジルたちは握手をしたのだった。



 * * * * *



 「本当に我々の様なものを受け入れてくださってなんと感謝すればよいのやら‥‥‥」


 猫耳の獣人が仲間を引き連れて来た。

 総勢二十名。

 ほとんどが数名の家族でその中で一番歳をとったヤギの男性があたしたちに深々と頭を下げながらそう言った。

 名をファルメルさんというらしい。


 「ここはガレントでもほとんどの人が知らない隠れ里のような所ですの。人の往来も荷運びくらいしか無いので少ないし、採掘がメインでそれ以外がなかなか発展できませんわ。しかし村としての機能は必要ですわ。ですからあなたたち獣人のその能力は十分ここで役立ててほしいのですわ」


 あたしがそう言って手を差し出すとファルメルさんは片手で胸を押さえながら握手の手を差し出す。



 おいこら、何だそのリアクションは?



 「貴女が【育乳の魔女】様ですか。噂とは違いおきれいでお優しいですな」


 「一体どんな噂だかは聞きませんが、違いますわよ? ホリゾンで出回っている噂は全偽りですわよ!?」


 後ろでシェルとジルがケタケタ笑っている。

 すると猫耳の獣人が済まなさそうに言ってくる。


 「あの、取った品物は返します」


 「ダイヤの原石以外別に返す必要は無いよ。その代わりしっかり働いてもらうけどね」


 ジルはそう言ってこちらを見る。

 まあ取られた中のダイヤの原石はガレントとして今後の予算確保のために重要な商品になるからね。

 他のはお酒や薬や食料と言った物らしいからね。

 と、あたしは思い出す。


 「そうそう、そちらにいる人たちはこちらへですわ」


 後ろにいる子供や老人にはケガをしたものや弱っているのもいるようだ。

 あたしは取りあえず【浄化魔法】や【回復魔法】をかけてやって一人一人様子を見る。

 病気はいないようなのでこれで大丈夫だろう。

 ちょっと匂っていたのも服を含め奇麗になったしこれで一安心だ。



 「すごい、怪我が治った!?」


 「ママ、毛づくろいしたみたいに奇麗になった!」



 ここまで逃げ延びる途中に怪我したりしていたのだろう。

 服もろくに着替えられなかったのだろう。

  

 「まるでモルンの『知恵の魔女』様のようだ」



 ん?

 モルンの「知恵の魔女」?

 それは初耳だわね?



 「『知恵の魔女』ですの?」


 「はい、我々獣人に対しても分け隔てなく接してくれた魔女様です。最後にお会いした時はお子を産まれるのでご挨拶も出来ず我々はモルンの町を逃げ出しましたが」


 「もともとモルンの町にいたのですの?」


 あたしの問いにファルメルさんは頷く。

 そう言えば帝都エリモア以外には分散した獣人たちがあちらこちらにいたっけ。


 「はい、あそこは我々が元いた獣人の里に近いですからね。先代の『知恵の魔女』様の時代もよくしていただきました」



 世襲制で二つ名を受け継ぐ魔女かぁ。

 この世界でもそう言ったのは珍しい。



 しかしそうするとその魔女って獣人たちと随分と仲が良いのかな?


 「風の噂では元気な赤い髪の毛の女の子をお産したとか。あの家系で赤い髪の毛はいなかったのに」


 ファルメルさんはぽつりとそう言う。



 赤い髪の毛の女の子?



 「ファルメルさん、そのお話もっと詳しく聞かせてくださいですわ!」





 思わずそう言うあたしだったのだ。  

 

 

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