第42話盗賊たち


 ジルの村付近でここ最近盗賊が出ると言う話なので盗賊退治をする事になった。



 「しっかし情けないわね? 盗賊くらい退治できないのかしら?」


 シェルはドーナッツを食べながらそう言う。

 一息入れる為にあたしがポーチから大量に引っ張り出したものだ。


 コクなんか嬉しそうに黙々と食べている。



 「でもさ、普通の人間じゃないらしいんだ。なんでも獣のような動きをするって」



 「獣ですの?」



 「うん、あの岩肌を平然と登ったり壁にしがみついたり普通の人間じゃ到底できに様な事をしているらしいんだ。それに希少なお酒やちょっとした医薬品、道具とかジルの村じゃ手に入れられないものも狙われているんだ。幸い死人は出ていないけど中には谷底まで落とされた者もいるんだよなぁ」



 いや、谷底まで落とされて死ななかったてのも大概だけど。


 ジルはそう言いながらドーナッツをかじる。



 「どんな奴かは知らないけどあたしたちが来たからにはもう大丈夫よ! 盗賊くらいすぐに片付けてあげるわ!」



 ここぞとばかりに無い胸張って威張るシェル。

 分かっているのだろうか?



 「しかし、獣と言う事は主よ」


 「ええ、北方から来た難民となればいるでしょう。獣人たちがですわ」



 あたしやショーゴさんはその正体に心当たりがあった。

 本来はひっそりと暮らしているはずの獣人たち。

 ホリゾン帝国でも帝都エリモアには入れない程迫害を受けている種族。


 実際には会う人会う人は良い人が多かったが敵国となるガレントに難民で逃れてきたのだ、しかも盗賊をする程の。


 「少し面倒になるかもしれませんわね」


 あたしはジルの入れてくれたお茶を口にするのだった。



 * * * * *


 

 翌朝盗賊討伐にあたしたちはティナの町に向かって移動していた。



 「相変わらずなんて道なのよ!」



 「まだシェルは動きやすいからいいですわ」


 「エルハイミまで!? ひどい、傷ついた! 責任とって大きくしてよ!!」



 あたしたちは脚幅くらいしか無い道を壁を伝って歩いている。


 崖の壁に張り付こうとするとあたしでも胸がつかえて歩きにくい。

 イオマは「鋼鉄の鎧騎士」作成でっティナの町に置いて来たけどもしこんな所を歩かせたらティアナと同じで足止めになってしまう。



 「なんでいやがりますか主様?」


 「いえ、その服装だと歩きにくいのではと思いましてですわ」



 なんとなくクロエさんを見ると不機嫌な様子。


 そしてちらっと見た胸元には壁までまだ余裕がある。

 シェルの壊滅的なものよりは膨らんでいるけど、見た目が十三、四歳の女の子だから小さいとは言え当然と言えば当然だ。

            

 本来は彼女としてみれば移動だけならあたしの「異空間渡り」か竜の姿になってひとっ飛びしたいのが心情だろう。


 しかし今回の目的はこの辺から出始める盗賊の退治だ。

 地道に囮をしながら引き寄せなければならない。



 「しかしこんな所どうやって襲ってくるのよ?」


 一番先頭を行くシェルは周りをきょろきょろ見る。

 ほとんど壁にへばりついているようなあたしたち以外に誰もいるはずもなく、只々苦行のような行進が続く。



 だが‥‥‥



 「主よ、お出ましのようだ」


 言われて見たのはあたしたちの頭上。

 完全に断崖絶壁にどうやって立っているのか片足を壁に載せたたずんでいる影が一つ。


 よくよく見れば羊の角が頭から生えている。

 どうやら羊の獣人のようだ。



 「こっちからも来た!」


 

 正面のシェルからも警告の声が上がる。

 見れば壁に爪を立て片手に剣を持っているのがたたずんでいる。



 「大人しくしてもらおうか。もらうものだけもらえれば命までは取らない」


 そう言ってその正面の獣人は剣を振る。

 まあ、こんな所で襲われたら普通の人はどうし様もない。



 「お母様、殺さない程度にすればいいのでしょうか?」


 「え~、めんどいなぁ」


 「コク、セキ痛めつけるのが目的ではありませんわ。捕縛してくださいですわ」



 あたしがそう言うとコクはいきなりセキやクロさんクロエさんを従え壁から飛び降りる。



 「なっ!?」



 正面にいた獣人が驚く。

 しかし次の瞬間には他の彼らも目を見張る。


 落ちた人の姿がいきなり竜へと変わる。

 そして一気に上空へと飛び上がる。



 「んじゃ、風の精霊よお願い!」

 

 そう言ってシェルも飛び降りると風の精霊に身を任せ空を飛ぶ。

 あたしも浮遊魔術を使って空中へ。


 唯一ショーゴさんがまだ壁にいるけど既に異形の兜の戦士に変身している。

 その気になれば壁に腕でも足でも突き刺し動ける。



 「エルハイミ! 後ろからも来た! 全部で五つ!」



 マリアの警告に全部で五人いる事が分かった。



 「大人しくするのはあなたたちですわ! 【拘束魔法】バインド!!」


 魔法の光のロープが正面の獣人に襲いかかる。

 だが流石にそれは避けて上へ逃げ去る。


 上にいたヤギの獣人も慌てて逃げようとする。



 「逃がさん!」


 そう言ってショーゴさんは有り得無い跳躍をして一気にヤギの獣人にとびかかり蹴飛ばし空中に放り出す。

 それをクロさんが器用に捕まえる。



 「ほい、こっちも!」


 シェルも風の魔法で上に逃げた獣人の足元をすくう。

 爪で壁にしがみついていても足元をすくわれればどうにもできない。

 程無く空中に放り出されクロエさんの竜に捕まる。


 そんなこんなで何だかんだ言ってあっという間に五人全員がコクたち竜に捕まった。

 

 

 「な、何なんだあんたらは!?」


 「私はエルハイミですわ」



 あたしがそう言って名乗ると獣人たちの間に衝撃が走る。



 「ま、まさか!? た、頼む俺にはまだ小さな子供がいるんだ!」


 「お、俺にだって病気の母が!」


 「お願いだ、命だけは!!」


 「どうか見逃してください、『育乳の魔女』様っ!」


 「ひえぇぇぇ、『無慈悲の魔女』だぁ!!」



 ちょっとマテお前ら。

 一体全体どう言う扱いよあたしって!

 しかもしっかりと「育乳の魔女」も入ってるし!



 「あなたたちですわ‥‥‥」


 「「「「「ひえぇぇぇぇぇぇっ!」」」」」



 ガクブルで涙目になる獣人たちだったのだ。



 * * * * *



 その後あたしたちは「異空間渡り」でジルの村に戻りこの五人の獣人を縛り上げていた。



 「へぇ、噂には聞いていたけど本当に動物と人間が混ざっているんだ」


 ジルは物珍しそうに彼らを見ている。


 

 「それではいろいろと話してもらいましょうですわ」




 あたしの微笑みに更にガクブルで涙目になる獣人たちであったのだった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る