第40話復讐のダークエルフ
あたしたちはその後ウスターさんやドゥーハンさんに挨拶をしてから人目の付かない路地裏に行く。
「とにかく急ぎティナの町に戻りますわ。急ぎましょうですわ!」
あたしはそう言ってから「異空間渡り」の魔法陣を発生させてそれに入って行く。
みんなもそれに続き入ってくる。
そしてあっという間にティナの町のあたしたちの部屋に出てくる。
「とにかくセレとミアムに会いましょうですわ」
そう言ってあたしはすぐに隣の部屋のセレとミアムの部屋をノックする。
しかし返事がない。
「うーん、部屋にはいないようですわね?」
「連絡をもらったのがファムだからもしかして冒険者ギルドに行っているのかな?」
シェルのその言葉にその可能性が濃厚なので急ぎ冒険者ギルドに向かう事にする。
あたしたちは急ぎ冒険者ギルドに向かった。
*
「エルハイミ殿では無いですか!?」
城と言っても過言で無いこの建物を出て行こうとしたらエスティマ様に出会った。
エスティマ様は大いに驚いている。
「エスティマ様、ごきげんようですわ。セレとミアムから緊急連絡をもらいましたわ。彼女らは冒険者ギルドですの?」
「驚きましたよ、エルハイミ殿。いつ戻られた? そうだ、丁度いい。セレもミアムもちょうど大広間にいます。『風の剣』たちも」
そう言ってエスティマ様はあたしあっちを大広間に案内してくれる。
あたしは歩きながら簡単に今までのことを話す。
「そうですか、ティアナでは無かったか。エルハイミ殿、心変わりはしませんか? 私はあなたの事を」
「エスティマ様、お気持ちはうれしいのですが私はティアナを探し出すと誓っておりますわ。それに私はティアナのモノですわ」
するとエスティマ様は残念そうにため息をつく。
「全く、わが妹ながらうらやましい限りですよ。あなたにそこまで愛されるとは」
そう言いながら大広間に到着してそのまま扉を開いた。
「エルハイミさん、思ったより早く着きましたね」
「正妻、早くこっちへ」
セレとミアムはあたしの顔を見ると挨拶もせずに自分たちの要件を話し始める。
「ファム、一体どうしたってのよ?」
「うーん、なんかねこのダークエルフが一人でここへ攻め込んできたって言うのよ」
そう言ってセレとミアムの向こうに縛られて座っている小柄なダークエルフを指さす。
促されてそちらに目を向けあたしは思わず息を飲み込んだ。
「クク?」
あたしのその名を呼ばれたダークエルフの少女は縛られているにもかかわらず立ち上がりあたしに食らいつこうとする。
「エルハイミ! 貴様ここにいたかぁ! イパネマの仇ぃ!!」
すかさずシェルがあたしの前に出る。
しかし縛られているククはまともに立ち上がる事も出来ずその場に倒れる。
「おっと、あぶねぇ!」
そう言って「風の剣」のライさんが押さえる。
「なんでこのダークエルフが生きてんのよ?」
「それは私にも分かりませんわ。あの時イパネマと一緒に‥‥‥」
シェルは注意深くククを見ながらいつでも精霊魔法が使えるように身構えている。
そんなシェルに怖気づくことなくククは頭だけあたしに向けて言い放つ。
「イパネマが私を守ってくれた! あんな紐みたいな水着をつけろと言って! おかげで私だけは助かった‥‥‥ くそっ! エルハイミ、許さないぞ!!」
紐みたいな水着って‥‥‥
言われてあたしは思い出した。
貿易都市サフェリナの沖合にある水中神殿を。
あの神殿にしまわれていた究極の防御力を誇るマジックアイテム!
確か【流星召喚】メテオストライクにも耐えられると言うもの。
「イパネマのおかげでお前のあの業火からも私とその水着だけが残れた。もっともそれも最後にはボロボロになって崩れたがな。しかし私は生き残った! お前に復讐する為に!!」
殺意に血走った目であたしを見る。
うーん、どうしたものか?
「エルハイミ、こいつはジュメルよ。かまわないわ始末しちゃいましょう!」
シェルはそう言って手を向けて精霊魔法を発動させようとする。
「ふんっ! もうジュメルなんて関係ない! 私はイパネマを、イパネマを殺したエルハイミに復讐さえできれば!!」
「こいつっ!」
今にも精霊魔法を発動させる寸前のシェルの手をあたしは抑える。
「シェルちょっと待ってくださいですわ」
そしてわめいているククを見る。
「畜生! くそっ! 殺せ!」
観念したのだろうかククはそう言いながらあたしを睨む。
ふう、仕方ない。
「クク、よく聞きなさいですわ。あなたの『時の指輪』はどうなりましたのですの?」
「『時の指輪』だと!? なにを今更‥‥‥ えっ?」
やっぱりそうか。
「時の指輪」はエルフの「命の木」を共有する。
そしてその「命の木」が枯れない限り指輪をはめた者も生き永らえられる。
それは命だけでなく魂もつながる行為。
あたしとシェルが魂の隷属でつながるのと同じ深い関係がある。
「う、嘘? イパネマ? イパネマなの!?」
「どうやら分かったようですわね? でも彼女はもうイパネマではありませんわ。別の人物に転生して新しい人生を歩んでいますわ」
あたしのその言葉を聞きククはその場に泣き崩れる。
シェルはあたしを見て少し不満そうだけど何も言わない。
「それでどうしますかお母様? まさかあの者に引き合わせるつもりですか?」
「私は何もしませんわ。イパネマは、彼女は四百年の呪縛から解き放たれた。今更ジュメルに戻る気も無いでしょうですわ」
コクに聞かれあたしとしてもどうにかするつもりはない。
ただ、イパネマとククの間にある関係はあたしに口出しするいわれのない事。
「一つだけ教えてあげますわ。イパネマはリーリャという女性に生まれ変わっていて力を失い普通の人間としてその村でこれから生活していくでしょうですわ」
「イパネマが? そう、四百年の悪夢が終わった‥‥‥」
ククはそう言って寂し気に言う。
「もういい、私を殺せ。『時の指輪』はあの時消えた。もう今のイパネマにも影響は無い」
うなだれしかし何処かすっきりした感じがしている。
「ショーゴさんですわ」
あたしがそう言うとショーゴさんはなぎなたソードを引っ張り出してククに大きく振りかぶる。
「お姉さま!」
イオマが慌てるがショーゴさんはそのままその刃をククに振り下ろす。
ざんっ!
そして見事にあたしの思い通りにククの縄だけが切り落とされた。
「なにっ!? どう言うつもりだエルハイミ!」
いきなり自由になったククは縄から解放され驚く。
「もうジュメルのククと言うダークエルフは切り伏せましたわ。今ここにいるのは私の知らないダークエルフ。害を及ぼさないダークエルフにかまっているほど私は暇ではありませんわ」
「正妻!」
「エルハイミさん!!」
セレとミアムがあたしに詰め寄る。
しかしあたしは動じない。
「リーリャは普通の人間ですわ。今までと違って時間はありませんわ。さあ、早い所何処へでも行くが良いですわ」
あたしはそれきり興味も何もなくした。
「エルハイミ‥‥‥ 礼は言わない」
「まあせいぜいイージム大陸中を探すが良いですわ。このウェージムに比べればずっと狭い大陸ですしですわ」
ククは立ち上がりそのままこの場から姿を消した。
「良いのですかエルハイミ殿?」
「先ほども言いましたわジュメルで無いただのダークエルフにかまっているほど暇では無いのですわ」
エスティマ様はそれ以上何も言わなかった。
そしてセレもミアムも同じだった。
ダークエルフと違い今のイパネマはただの人。
イージム大陸だってリーリャという名の女性を探すのは至難の業。
それでも愛する人に会いたい気持ちはあたしだって同じだ。
だからジュメルのククだけは始末した。
もう二度とあたしたちの前に姿は表さないだろう。
「エルハイミ‥‥‥」
「お姉さま」
「お母様」
シェルもイオマもコクもあたしの名を呼ぶ。
しかしあたしはあたしで忙しいのだ。
「ふう、それよりエスティマ様、「鋼鉄の鎧騎士」に使える魔鉱石を見つけましたわ! 残り五体もこれで何とかなりますわ!」
そう、今やれる事は今やればいい。
やらないで後悔するよりもずっと。
あたしはそう言いながら「鋼鉄の鎧騎士工房」へと向かうのだった。
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