第37話魔王の意外な側面


 「魔王の像ですの!?」



 あたしは心底驚いている。

 だって「魔王」の話は人類史以前の話。

 何処の文献にも残ってなどいないはず。


 「まあ、儂らの村に伝わる伝説じゃからの。実際におられたかどうかも分からんのじゃよ」


 マック村長はそう言って笑う。

 しかし「魔王」なんて物騒なものがそうそういるはずもない。



 「お姉さま、先に残った魔鉱石をもらいに行きますけど、どうします?」


 「すみませんわ。私のこのポーチに収納お願いしますわ。私はもう少し村長さんとお話をしますわ」


 あたしがそう言うとイオマはポーチを受け取りドゥーハンさんと残りの魔鉱石を取りに行った。



 「でもその『魔王』ってエルフの村の言い伝えの魔王と同じなの? ずいぶんとこの村には良い感じのお話だけど?」


 シェルが「魔王」の像を見ながらそう言う。

 そしてある事に気が付く。


 「ねえ、なんであの像って金属製っぽいのに腰の所だけ布が巻かれているのよ?」


 言われてみれば腰の所だけ布が巻き付けてある。

 像自体が裸体を模したものでもなのに。



 「まあ、これには訳があってじゃのぉ」


 マック村長はそう言ってその像を祭壇から取り出す。

 そしてその像の腰に巻き付けられている布を取り払う。



 「うわっ!」



 思わずシェルが声をあげる。

 それもそのはず何も穿いていないのだ。


 「驚くのも無理は無いじゃろう。言い伝えでは『魔王様』は見た目が普通の人間じゃが体のどこかに文様があるそうじゃ。この『魔王様』の文様はここにある為にこういった像になっておるそうじゃが流石にそのままという訳には行かんのでな。こうして布を巻かせてもらっておる」


 見れば女性の大切な所の上にエルフの村で見たあの文様が刻まれている。


 確かにファイナス市長たちも言っていたけど覚醒した「魔王」は体のどこかに文様が浮かび上がるらしい。



 しかしこの「魔王」は‥‥‥



 「『魔王』が女性であるのも驚きですがこんな所に文様が浮かび上がるとはですわ」


 「ほんにのぉ。おかげでこの年でもこの布をどかす時は少しドキドキするのじゃよ!」



 いや、それはやばいでしょう村長さん!

 お人形遊びではぁはぁしちゃったらやばいわよ!?



 村長さんは「魔王」の像にまた先程の布をきれいに巻き付け祭壇に戻す。

 そしてお祈りをしてから話し始める。


 「伝説では村の娘がある日突然自分は『魔王』だと言い始めて不思議な力を使いいろいろな事をしてくれたそうじゃ。それまで『鉄』について何も知らぬ儂らに畑の耕し方や村の守り方、道具の作り方を教えてくれてこの村をそれまで以上に豊かにしてくれたそうじゃ」


 「元はこの村の人間だったと言うのですの?」


 「伝説ではな」


 あたしの質問にマック村長さんはそう答える。

 あたしは思わずシェルと顔を見合わせる。



 エルフの村で聞いていた「魔王」との印象がだいぶ違う。

 「魔王」は力ですべてをねじ伏せそして従えて行ったと聞く。

 そしてなかなか配下にならないエルフたちには何度も転生して襲いかかったとか。

 

 当時はまだエルフたちも魔法を知らなかったので秘術を使い犠牲を払いながら「魔王」を退けていたらしい。


 「じゃからのぉ、この村や近隣では『魔王様』を女神様同様あがめるのじゃよ」


 「ふむ、それは初耳でした。ジマの国ではそんな話聞いた事もありませんでしたね」


 今まで黙って聞いていたコクがそう言う。

 となると、本当にこの近辺だけの話なのだろうか?


 「じゃから儂らにとっての『魔王様』は名前と相反し悪いお方ではなく感謝するお方なのじゃよ」


 そう言って懐からペンダントを取り出す。

 そしてあたしはそのペンダントを見て驚く。


 そのペンダントはイオマが拾われた時唯一持っていたものと同じペンダントだ。


 そしてそのペンダントにはあの「魔王」の文様が刻まれていた。

 あたしはやっと思い出す。

 以前その文様をどこかで見た事があった訳を。



 「お姉さま、回収終わりましたよ」


 そう言って戻って来たイオマにあたしは近づきそっとイオマの首筋に手を這わす。


 「え、え、ええぇ? お、お姉さまぁ?」


 「イオマちょと良いですかですわ」


 首筋からイオマの胸元へと指を這わす。

 つぅ~っと。


 「ああっ! お姉さま!! やっとその気になってくれたんですかぁ!!」


 そしてふくよかな胸にまで手を這わせ深い谷間に沈むそれを引き上げる。


 「ああぁん! お姉さまの好きにしてぇっ!!」


 「イオマ、何を言っているのですわ?」


 ぽよんと揺れてイオマの谷間からそのペンダントが引っ張り出される。

 あたしはそれを確認する。


 間違いなくこれは「魔王」の文様だ。


 するとイオマは‥‥‥


 「イオマ、もしかしたらあなたの出生はこの村の近隣かもしれませんわ。このペンダントはこの村近隣の方たちが崇める『魔王』の文様でしたわ」


 「え? 『魔王』??」


 イオマは高揚した頬のままあたしに聞き返して来る。


 「そうですわ、イオマあなたの出生に関わる手がかりですわ」



 「ん~、そんな事はどうでも良いですぅ~。あたしもう我慢できないぁ~いぃ、お姉さまぁっ!」



 むちゅぅ~っ!!



 いきなりイオマに抱き着かれ唇を奪われる。



 「んぅむぅうう~、ぽんっ! お姉さま、幸せにしますから、私に任せて下さい!!」


 「んはぁっ! ちょ、ちょっとイオマぁですわぁっ!」



 「あ、こらっ! イオマっ! あたしのエルハイミに何してんのよっ!」


 「イオマ! お母様から離れなさい!!」


 「大丈夫ですお姉さま、先っちょだけですから! 痛いのは最初だけですからぁッ!!」



 その場でイオマに押し倒されるあたし。

 それをやめさせようとするシェルとコク。



 「はぁぁ~、何やってんだか。ユリシアの娘ともあろう者が‥‥‥」


 戻って来たドゥーハンさんは大きなため息をつく。


 「ド、ドゥーハンさん! 見てないで止めてくださいですわぁっ!!」


 「黒龍様も放っておけばいい物をでいやがります」


 「まあそのうち収まるだろう」


 「いつも通りね、エルハイミ母さんは!」




 人様の家で大騒ぎするあたしたちであった。 

 

 

 


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