第36話魔王の魂


 ガーリーの村で「生き返り」の娘の正体がイパネマであった。



 やっぱりティアナじゃなかったけどまさかイパネマだとは思いもしなかった。

 しかし彼女はもう昔の彼女じゃない。

 この村のリーリャである。


 

 「んで、マック村長あの鉱石って有るのかい?」


 「そうさな、最近また鉱脈が見つかったようでだいぶ出始めておる。ほれ見てみい」


 そう言ってマック村長はドゥーハンさんにその鉱石を見せる。


 「ほう、上物じゃないか?」


 「一体どんな鉱石ですの? ‥‥‥ってぇ! これ、魔鉱石じゃないですの!?」


 「ええっ!? お姉さまそれ本当ですか!?」


 ドゥーハンさんがマック村長から受け取ったその鉱石は間違いなく魔鉱石だった。

 あたしやイオマはそれを見て驚く。

 

 「なんだエルハイミ、お前さんこれ知っているのか? これはな、ドワーフの鍛冶屋に持って行くと高値で買い取ってくれるんだ。しかもこいつで作った武器や鎧は魔法との相性が抜群でなかなりのものが作れるって事で冒険者の間でも重宝されてるんだ」


 ご説明ありがとうございます。

 と言うか、これであたしは「エルリウムγ」作ってガレントの防衛の要、「鋼鉄の鎧騎士」のフレームを作っている。


 知らないはずの無い鉱石だ。



 「マック村長、これってまだありますの? なんなら有るだけ買いますわ!」



 「おいおい、エルハイミ何なんだよいきなり? お前さんが金に困ってるなんて無いはずだが?」


 「違います、ドゥーハンさん。これでお姉さまは‥‥‥もがぁっ!」


 こらこらイオマ、一応内緒で国家機密なんだから!


 「なんだよ? 話しちゃまずい事にでも使っているのか?」


 「え、ええとぉ、魔道でどうしても必要なんですわ、おほっ、おほほほっほほほっ‥‥‥」


 ドゥーハンさんはジト目であたしを見る。

 間接的には、正確にはこれが現在の戦争にもかかわってはいるけどあちらがジュメルの巨人を持ち出す限り仕方ない事だ。


 「まあいいがマック村長、先に俺が来た。だからこの商売は俺優先だぞ!」


 「ああ、それが礼儀じゃしな。エルハイミさん、せっかくの申し出じゃがドゥーハンとの商売が終わってからで構わんかの?」


 「ええ、勿論ですわ。残った分でも構いませんわ、お願いしますわ!」


 あたしは快諾して先にドゥーハンさんが買い出しを始める。

 しかしその量ときたら剣が一本作れるくらいの量?


 「ま、こんだけあればしばらくは何とかなるか。マック村長、また頼むぜ!」


 「ふむ、足元見おって。さてお待たせしましたのエルハイミさん。どれだけ欲しいのかの?」



 「残り全部でお願いしますわ!」



 あたしはびっと人差し指を立ててそう言う。

 するとマック村長は大きな袋を持ち出してテーブルの上に置く。


 「今現在採掘されたのはこれが十袋と言った所じゃが、リーリャの件もあるからのぉ、一割引きで売らせてもらうがこんくらいになるがの?」


 示された金額はまあ、普通の人には驚くような金額だろう。

 しかしこれはガレントにとって喉から手が出るほどに欲しい物。


 あたしはポーチからガレント大金貨の入った皮袋を取り出す。



 どんっ。

 じゃらっ!



 「これで足りると思いますわ」


 マック村長は皮袋を開いて驚く。

  

 「流石にこれはもらい過ぎじゃぞ? しかもこれはガレント大金貨じゃな!? 儂もこれを見るのは二度目じゃが、こんなに有るのは初めて見たのじゃ!」


 これだけあればこの村を要塞化にしてもおつりがくるだろう。

 でもそれでも今後の為にもこの購入ルートは確保しておきたい。



 「また採掘されれば買いに来ますわ!」



 「おいエルハイミ、お前俺の分まで買い占めるつもりじゃないだろうな?」


 「勿論そんなつもりはありませんわよ? あ、そうだちょうど良いですわ、ドゥーハンさんの剣を出してくださいですわ!」


 いぶかしがるドゥーハンさんだったけど素直に剣を差し出してくれた。

 見ればなかなかの業物っぽい。

 でも所々刃こぼれがしている。

 やはり心眼使いが使う剣にしては物足りない。



 「これは前回のお礼も兼ねてですわ!」


 

 あたしはそう言ってポーチからミスリルと先程の魔鉱石を少々取り出し【創作魔法】を使ってなぎなたソード同様にその剣を作り直す。 

 そしてそれをドゥーハンさんに手渡す。



 「俺の剣に何したんだ? って、何だっこりゃぁ!?」


 ドゥーハンさんはその件を持ってすぐに分かった様だ。

 重量は若干軽くなったが持っただけでぶれも無くその刀身の威力がドゥーハンさんレベルならすぐわかるだろう。



 「こりゃぁ聖剣か魔剣並じゃねえぁ!」



 「ドゥーハンさん、これを切ってみてくださいですわ」


 あたしはそう言って魔鉱石を「エルリウムγ」の棒にして立たせる。


 ドゥーハンさんはそれを見て自分の剣を見てからすっと息を吸って上段から下段に振る。



 きんっ!



 「ほうっ!」


 思わず声を漏らしたのはショーゴさんだった。

 そして「エルリウムγ」で出来た棒は奇麗にけさ切りになり真ん中あたりで切断された。



 「うそっ! 『エルリウムγ』が切られた!? しかもお姉さまの作ったものが!?」



 驚くイオマ。

 まあ、あの剣ならできるだろう。

 それにドゥーハンさんは心眼を開いている。

 金色に薄く輝く瞳を元の色に戻してドゥーハンさんは息を吐く。



 「なんてもん斬らせんだよエルハイミ! ちょっとでも気を抜いたらせっかくの剣が刃こぼれするじゃねーか!!」


 「でも流石ですわドゥーハンさんがこれを切った初めての人ですわ!」


 「確かに見事だ、ドゥーハン殿!」



 珍しくショーゴさんも絶賛する。



 「全く、お母様はああいった危ない物をホイホイと世の中にまき散らさないでもらいたいものです。あれでは我々黒龍ですら危ないではないですか」


 「うぇ、やっぱりそうなの? エルハイミ母さん勘弁してよねぇ。太古の竜の希少価値が下がっちゃうわよ!」


 コクもセキも嫌そうにその剣を見る。 



 「そんなに凄いの?」


 「バカエルフには分からないでいやがります。あれは我々の鱗ですら容易く切り裂くでいやがります」


 「まさしく聖剣、魔剣の類ですな」


 シェルは理解出来ていないようだがクロエさんやクロさんは分かっている様だ。



 「それにしても凄い。お姉さま、もしかしてここの魔鉱石って」


 「ええ、多分ドワーフの『拘束の鎖』の原材料でしょうですわ。あの『狂気の巨人』を捕らえた」



 ドワーフが遠い過去に作った「拘束の鎖」それの原材料である魔鉱石は希少な鉱物。

 当時もきっとここや近隣の山々から採掘したのだろう。


 「しかしここにも鉱脈があったとはですね。村長さん、まだまだ出て来そうですか?」


 イオマは魔鉱石をつまんで見ながら聞く。


 「どうかのぉ、まあ毎日ご神体にお祈りしながらやってはおるがの」


 そう言って笑う、

 そして部屋の奥に祀られている女性の像に向かってお祈りをする村長。



 女神様か何かかな?



 あたしはそのご神体が何なのかなんとなく気になって聞いた。


 「マック村長、あのご神体は?」


 「ああ、あれは『魔王様』のご神体じゃよ。伝説では『魔王様』がこの村を支配していた時に鉱石の採掘方法を教えてくださって儂らに農機具や狩りの道具の作り方を教えてくださったそうな」


 「魔王ですって!?」



 意外な所で意外な名前が出てあたしは驚くのであった。

 


 

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