第二章

第33話ウスター


 あたしたちはドドスの鍛冶屋ギルドへ来ていた。


 

 「おう、ジミー。ウスターはいるかい?」


 カウンター越しにドゥーハンさんがいきなり声をかける。



 「おや、ドゥーハンの旦那じゃないですか? 何時お戻りで?」


 「一昨日だよ、それよりウスターはいるかい?」



 顔見知りだったようで話が早い。

 後ろに控えているあたしたちはそのまましばらく待つ事とした。



 *



 「儂に用事があるのかドゥーハンよ?」



 奥から呼ばれて出てきたのは典型的なドワーフの職人だった。

 仕事着のままなのだろう、エプロン姿で汚れた手を布で拭いている。



 「おう、ウスター久しぶり。お前さんには二つほど用事がある。まずは済まん! お前たちの王、デミグラス王とその友人オルスターが『狂気の巨人』と戦い名誉の戦死をした。俺は奴等を守る事が出来なかった」


 ドゥーハンさんはいきなり真面目な顔になりウスターさんに頭を下げた。


 「ふん、その事か。もうメッセンジャーで話は聞いておる。デミグラス王やオルスター殿は勇敢で有ったのだろう? ならば貴様が頭を下げる必要は無い」



 そう言って目を閉じしばし上を向きデミグラス王たちの冥福を祈る。



 「して、もう一つとはなんじゃ?」


 「ああ、実はこいつらがお前さんを探していたんでな。エルハイミ」


 ドゥーハンさんはあたしを呼んでウスターさんに合わせる。


 「初めましてですわウスターさん。私はエルハイミ=ルド・シーナ・ガレントと申しますわ」


 あたしはそう言って正式な挨拶をする。


 「エルハイミ? お前さんもしかして『育乳の魔女』か?」



 「だから何故その呼び名が真っ先に出るのですの!?」



 後ろでドゥーハンさん以下数名が笑っている。

 ウスターさんは首を傾げあたしに聞く。


 「して、嬢ちゃんは儂に何の用じゃ?」


 あたしはタルタさんの手紙を渡しながら要件を言う。


 「タルタさんからの手紙ですわ。そして私がウスターさんを訪ねたのは『生き返り』の女性について詳しく教えてもらいたかったのですわ」


 「なんと、タルタからじゃと? それにあの女の事か‥‥‥」


 ウスターさんは先ずはタルタさんの手紙を開け内容を読む。

 そして読み終わってからあたしを見る。


 「ふむ、タルタの紹介であれば手を貸さねばならんの。同胞を助けてくれて礼を言う」


 「いえ、当然の事をしたまでですわ。それで『生き返り』の女性についてですわ」


 あたしがそう言うとウスターさんは深くため息をついてから「長い話になる」と言ってカウンターの奥から椅子を持ち出しあたしたちに進めてくれる。



 * * *



 タルタさんの話によるとその「生き返り」をした娘は知り合いの娘だったそうだ。


 ドワーフ王国オムゾンの更に南にある村ガリー。

 ここにその「生き返り」をした娘がいる。


 彼女名前はリーリャ。

 亡くなった時は十八歳だったそうだ。

 死因は溺死。

 近くの崖から湖に転落して溺れ死んだらしい。

 

 見つかった時には既に息はなく、悲しみの中葬儀を行ったそうだ。


 しかし葬儀の最中に彼女は生き返った。


 最初はみな喜んだが生き返った彼女は自分ウェージム大陸の人間でリーリャではないと言い張り、魔法など使えなかったのがいきなり魔法を使い始めたらしい。

 しかし魔力切れをあっさりおこし、その反動で髪の毛の色も変わりまた倒れてしまったらしい。


 それが半年くらい前の事らしい。



 そんな話をドワーフ王国に一時帰国していたウスターさんは聞きその知り合いの家を訪ねたそうだ。

 しかし顔見知りのはずのリーリャは完全にウスターさんを知らず、髪の毛の色も紫に変わってしまい言葉遣いも何も変わり果ててしまっていた。


 ウスターさんはこれ以上手を貸す事も出来ず、何かあれば協力するとその知り合いに告げこのドドスの街に戻って来てしまたった。  

 

 そんな話を酒場でなんとなく話したらたまたまいた冒険者連中に面白がられていてどうやらその中に渡りのエルフがいたようだった。



 今はガリーの村でその「生き返りの」娘は大人しくしているそうだ。



 あたしはその説明を聞き変わった髪の毛の色が紫だと言う事に落胆した。


 多分ティアナじゃない。

 時期的にもティアナがいなくなった時より若干早い、きっと他の誰かなのだろう。



 「なんだ、今回も違ったかぁ」


 セキがつぶやく。



 「まあ今の所リーリャは元気にしているらしいがのあれは確かに別人じゃった。そして希望を亡くしたかのような瞳をしておったな‥‥‥」


 ウスターさんはそう言って深いため息をついた。

 出来ればその知り合いの力になってやりたいらしいが肝心のリーリャがそれではどうしようも無い。



 「でもさ、それならそのリーリャって人、自分は誰だって言ってるのよ?」


 シェルは首をかしげながら聞く。


 「そうさな、儂もよく聞いてはおらんかったが確か、『イ』何とかと言っていたような気がしたのぉ」



 いや「イ」だけじゃ誰だか分からないって。


 

 「ふむ、それはちょっと気になるな。おいエルハイミ、せっかくだからそのガリーの村に行ってみるぞ」


 いきなりドゥーハンさんはそう言って立ち上がる。


 「ドゥーハンさん、ここに来るまでに話しましたが私たちはティアナの転生者を探しているのですわよ?」


 「何言ってる、こう言うのは万が一ってのがあるだろ? それにちょうどいい。あの村には希少鉱石が出るからな。ちょいと懐がさみしい。エルハイミ手伝えよ」



 ニカっと笑うドゥーハンさん。

 このオヤジはぁ~。



 まあ、話を聞く限りはティアナではなのは確実だろうけどその村に出る希少鉱石って言うのにはちょっと興味もある。

 

 この後帰っても次の情報もないし、行ってみるのも悪くはないだろう。




 あたしたちはガリーの村へと行く事となったのだった。


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