第34話ガリーの村


 あたしたちはドドスの街から「異空間渡り」でドワーフ王国オムゾンの入り口付近の目立たない所に飛んでいた。




 「ほんっとうに大概だな! エルハイミ!!」



 ドゥーハンさんはオムゾンの入り口を見てからあたしに振り向きそう言う。

 そして魔法陣から出てくる他のみんなも見る。



 「エルハイミ、お前がガレントの戦争に参加しなかったことは褒めてやる。お前が参加した戦争は何をしようが悲劇しか生まねえぞ」


 「分かっていますわ。この力も信用できる人にしか明かしていませんもの。だからオムゾンの入り口付近で目立たない所を選んだのですわ」



 ドゥーハンさんが言いたい事は分かる。

 あたしが戦争に加担して精鋭部隊をいきなり相手の首都にでも送り込めばそれで片がついてしまうしどう考えても一方的な惨殺が起こってしまう。


 戦争とは政治的駆け引き。

 

 感情論では無いのだ。

 しかしあたしの力がそこへ加われば単なる暴力へと変わってしまう。


 そこには政治的駆け引きも無ければ交渉も何もなくなってしまう。

 一方的に暴力で蹂躙するだけだ。


 ドゥーハンさんはあたしの言葉を聞いてしばしあたしを見つめる。



 って、あたしにはそんな気はないわよ!



 しかしドゥーハンさんは頷いてからニカっと笑って言う。


 「やはりユリシアの娘だ。重要な所はちゃんと押さえていやがる」


 そう言って歩き出す。


 「ドワーフの王国には寄らないのですの?」


 「既に役目は果たした。お前さんがもう一度行く必要は無い」


 それだけ言って付いて来いと言わんばかりに手招きしてまた歩き出した。

 あたしたちはドゥーハンさんの後を追うのだった。



 * * * * *



 「見えてきたな、あそこがガリーの村だ」


 ドワーフ王国から約二日で山間を降りた盆地にその村は見えた。

 小さな村で近くの山から鉱石を採掘しているのだろう、所々で山間の方が切り開かれている。


 「うー、やっぱり大地の精霊力が強いわね」


 「え? 林や小川が多いですよ? それでも大地の精霊が強いんですか?」


 シェルが何となく不機嫌でそう言うとイオマが反応する。

 確かにここはドワーフ王国のように地中ではない。


 「精霊力が強いのはその土地土地で特徴があるからよ。ここは多分鉱石が多いのでしょうね。ジルの村以上だわ」


 あたしはそれを聞いてちょっと驚く。


 確かにこの辺はドワーフの王国がある山間。

 険しい環境で有るので人も少ないし魔獣も限られている。


 ロックワームのようなのは多いけど以前退治した異様に大きいロックワームでも無ければ人の手で何とか退治は出来る。


 「仕方ありません、この辺は土の女神フェリス様がお亡くなりになられた場所。自然と土の精霊力も高くなるでしょう」


 コクがポツリとそう言う。


 「そう言えばあの女神やたらとねちっこい攻撃してきたのよねぇ。土の壁なんか作られたらあたしのブレス届かなくなっちゃうもんね、そこへちまちまと石の礫で攻撃してきて大したダメージにはならないけど面倒この上なかったわね!」


 セキはそう言って右手の拳を左手の手の平にぱんっと打ち鳴らした。



 おいおい、そんな昔の神話持ち出されたって実感何て湧くはず無いでしょうに。



 そんな事を思いながらガリーの村に着く。

 見れば確かに鉱石の採掘が盛んな所なのだろう。

 今も沢山の鉱石を積んだ手押し車が坑道から出て来ていた。



 「ここは珍しい鉱石も出るんだ。以前にも来た事があってな。あそこのでかい家、村長の家で鉱石の買取も出来るんだ」


 ドゥーハンさんはそう言ってその一番大きな家に向かう。

 あたしたちもそれに付いて行く。

 そしてドゥーハンさんはその家の扉を叩く。


 「村長、いるか? 俺だドゥーハンだ。鉱石を買いに来た」


 大声でそう言うと中から老人が出てきた。


 「おお、お前さんか。よう来たな、まあ入れ。ん? なんじゃ今日は連れがおるのか?」


 「ああ、俺は鉱石の買い付けだがこっちの嬢ちゃんたちは例の『生き返り』の娘に用事があってな」


 そう言って村長の家に入れてもらいながら挨拶をさせてもらう。


 「初めましてですわ。私エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントと申しますわ。ウスターさんからその方のお話を聞きまして是非ともお会いしたいと思っていますわ」


 あたしは正式な挨拶をする。

 その村長さんは物珍しそうにあたしを見ていたが挨拶を返してきた。


 「奇麗なお嬢ちゃんじゃの、始めまして。わしはこのガリー村の村長マックと言う」


 そう言って手を差し出して来る。

 あたしはその手を握り握手する。


 「しかしこんなん所へわざわざ来るとは、ウスターに何か頼まれたのかの?」


 「そうですわね、お役に立てるかは分かりませんがその方にまずは合わせていただけますかしらですわ」


 あたしがそう言うとマック村長は頷きドゥーハンさんに先にあたしたちの用事を済ませる旨を言う。


 「ああ、もちろんかまわないぜ。俺もちょっと興味があるしな」


 「よし、ではついて来とくれ」


 そう言ってマック村長は家を出て行った。

 あたしたちはそれに付いて行くのだった。


 

 *



 そこは村の外れにある一軒家。

 特に変わった所は無い。


 ロック村長はそのままその家の扉にまで行ってその扉を叩く。


 「わしじゃ、ロックじゃ。ベピーはおるか?」


 ロック村長の呼びかけに中から四十代くらいのおばちゃんが顔を出す。


 「あら、ロック村長。どうしたんですか?」

 

 「リーリャに会いたいと言う方を連れて来た。今大丈夫かの?」


 するとベピーと呼ばれたおばちゃんはため息をついて頷く。


 「いるにはいるけどね、相変わらずだよ? それでもかまわないならどうぞ」


 扉を大きく開けてロック村長以下あたしたちを招き入れる。

 あたしは軽く挨拶してから家に入れてもらう。


 「初めましてですわ、私エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントと申しますわ。ウスターさんにお話を聞きリーリャさんにお会いしたく参りましたわ」


 「ウスターのかい? そうかい、そうかい。まあ入っておくれ。正直リーリャには困っているんだけどね」


 ベピーさんはそう言ってため息をつく。


 そして案内された奥の部屋にその女性は椅子に座ってぼぉ~っと窓の外を眺めていた。

 紫色の髪の毛が印象的な女性でその横顔は整っている。

 しかし全体的に覇気は無くまるで抜け殻のような印象を受ける。


 「リーリャ、お前にお客さんだよ?」


 彼女はそう言われゆっくりとこちらを見てそして驚きにその瞳を見開いた。

 そしてあたしが名乗る前にこう言った。



 「エ、エルハイミさん!?」



 彼女は只々驚いている様子だったのである。 

 

  

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