第31話ドドスの鍛冶屋ギルド


 あたしたちはドドス共和国へ「異空間渡り」で来ていた。


 

 ドドス共和国と言えばドゥーハンさんがいるはずだけどあれから半年ちょっと。

 精霊都市ユグリアまではゲートで移動できるだろうけどその後は陸路と海路で戻らなければならない。


 まっとうに帰ってくればそろそろだろう。


 あたしは久しぶりのドドスの街並みを見る。

 特に変わった様子もなくあの時と同じのようだ。



 「それで、鍛冶屋ギルドって所に行くんでしょ?」


 シェルがそう言ってあたしを覗き込んでくる。

 確かに先ずはそこへ行くべきだろう。

 あたしたちは大通りを鍛冶屋ギルドを探して歩き始めるのだった。



 * * *



 「どうやらここのようですね、お姉さま!」


 イオマが真っ先に見つけ出したそこは建物の屋根から黙々と煙が立ち上り鉄を打つ音が鳴り響くところだった。


 あたしたちはそのギルドに入る。

 そして広間のカウンターを見る。


 そこらかしこに武器や鎧、その他日常品にまでわたる鍛冶で作られた品物が並んでいる。

 この広間はギルドのお店も兼ねている様だ。


 あたしたちはカウンターまで行き人を呼ぶ。



 「すみませんわ、こちらにウスターさんと言うドワーフの方はいますかしら?」


 あたしがカウンターの奥の人に声をかけるとその髭面おっちゃんはこちらに振り向く。


 「ああん? ウスターかい? いるけど今はダメだろうなぁ。ちょうど注文の入った剣が仕上げだから呼んでも反応すらしねえよ」


 そう言って品物だろう箱に入った包丁やナイフを丁寧に布にくるんでいく。

 そして話は終わったとでもいう態度でそれきり何も言わなくなった。


 「困りましたわね、お仕事が忙しいのでは邪魔するわけにもいきませんわ」


 「すいません、ウスターさんはどのくらいでお仕事終わります?」


 あたしが困っているとイオマがカウンター越しに髭面のおっちゃんに話しかける。

 おっちゃんは面倒そうに振り向くがイオマを見るとやたらと態度をやわらげて来た。

 なんでだろうと思って見たらイオマったらわざとあの大きくなった胸をカウンターに乗せておっちゃんに微笑んでいる。


 イオマ、何時の間にそんな技を!?

 悔しいけどあたしじゃ出来ない!

 確かに外観上同じ年頃の娘に比べれば大きい方だけど、それって十五、六歳の女の子と比べての話だ。

 大人の女性の魅力爆発のイオマのスタイルには到底及ばない。


 「あ、ああ、そうだなぁ、今仕上げだから明日の昼過ぎ頃には時間が空くんじゃないか?」


 おっちゃんは鼻の下を伸ばしイオマの胸を見ている。



 むかっ!



 あれ?

 なんであたしってばむかついているのだろう?

 せっかくイオマが情報聞き出してくれたのに。


 イオマはおっちゃんにお愛想笑いのお礼を言ってこちらに戻ってくる。



 「あれ? お姉さまどうしました、不機嫌そうな顔をして?」


 「はぁいぃ? わ、私不機嫌そうな顔してましたのですわ?」


 自分では自覚なかったけど不機嫌な顔をしていたらしい。

 まあ、イオマの胸を他の男なんかに見つめられていると言うのは不愉快ではある。



 ‥‥‥え?

 あたしイオマが他の男に見られてイラついている?



 ちょっと驚くあたし。

 

 でもイオマは大切な義妹だしティアナと同じくナイスバディ―になったのだから男の目からは注意するべきよ。

 うんそうだ。

 男なんてオオカミなんだから!!

 あたしが言うのだから間違いない!


 そんな事をぶつぶつ考えているとシェルがあたしの袖を引っ張る。



 「ねえ、エルハイミ聞いてる?」


 「は、はい? ごめんなさいですわ考え事をしていたのですわ」


 あたしは慌ててシェルに向き直る。

 

 「だからここにずっといても仕方ないから近くで食事にしましょう。さっきからセキがお肉騒ぎしているし!」


 見ればコクにたしなまれているセキをショーゴさんがなだめていた。

 

 仕方ない、シェルの言う通り近くの宿屋でもとって気長に待とうか?

 あたしたちは鍛冶屋ギルドを出て近くの宿屋兼酒場を探すのだった。



 * * *



 「ここがよさそうね!」


 匂いにつられてセキが真っ先に選んだのはそこそこ大きな宿屋だった。

 もうじきお昼になるのでお店からは料理の匂いが漂っている。

 

 あたしたちはお店に入り見渡すと一階は酒場兼食堂になっており奥にカウンターがある。

 典型的な宿屋だ。


 既に酒場には数人の客が食事をしている。


 あたしたちはカウンターで部屋を取り、そのまま食堂のテーブルについて昼食を注文する。



 「おにっくぅ~おにくぅ~♪」



 注文した中に小豚の丸焼きがある。

 どうせセキが沢山食べるしこの人数だ。   

 

 イオマはお酒も注文しようとしていた。

 

 「イオマ、昼からお酒ですの? まあいいですが注意しなさいですわ」


 「はい? 何を注意するんですか、お姉さま?」


 あたしはイオマの胸を見る。

 谷間の見える服装は非常に魅力的だ。


 「お、お嫁に行く前の女の子なのですから外で泥酔しない様に注意しなさいですわ」


 あたしがそう言うとイオマはきょとんとしてからにっこりと笑う。

 

 「分かってますよ! 私の体を好きにしていいのはお姉さまだけですから!」


 こらこらイオマ!

 真昼間から何てはしたない事言ってるのよ!!


 焦るあたしに近くの酒を飲んでいた客からヤジが飛んでくる。



 「ちっ、真昼間から何盛っていやがるんだ? くそっ、平和だよなお前らは!!」


 悪態ついている酔っ払いにあたしは何となく視線を向ける。

 そして驚く。



 「ううぅ~ユリシアぁ~、結局エルハイミの手助けにもならなかった‥‥‥ 畜生っ!」



 だんっ!



 お酒の入った器をテーブルにたたきつけるその人は‥‥‥


 「ドゥーハンさん!!!?」


 「はぁ?」




 そう、英雄ドゥーハン=ボナパルドその人であった。

 

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