第28話ジルの村で


 ジルの村は人里離れた山の中腹にある。


  

 「まあ、あの道を歩かないのは良いけど、イオマなんでエルハイミに朝からべったりなのよ!」



 「異空間渡り」で一気にジルの村に着いたあたしたちだったけど朝からイオマがあたしに引っ付いている。


 「いいじゃないですか。シェルさんはずっとお姉さまと一緒だったんですから。ね、お姉さま、ちゅっ!」


 そう言いながらイオマはあまりにも自然にあたしの顔をイオマに向けて唇に軽いキスをしてきた。



 「あ”あ”あ”あああぁぁぁぁぁっ!!」


 「イ、イオマ! お母様に何をしているのです!」



 騒ぐシェルと怒っているコク。

 しかしイオマはあっけらかんと言い放つ。



 「なにって、姉妹のコミュニケーションですよ? ねぇお姉さま!」


 「イ、イオマだからと言っていきなりキスは‥‥‥」



 あたしが少しうろたえているとイオマはとんでもない事を言い出す。


 「いいじゃないですかぁ。昨日の夜だってベッドの上でお姉さま優しかったし、お風呂でだって裸の私を‥‥‥////」


 頬を染めて嬉しそうに言うイオマ。 




 ちょっとマテ、言い方ぁっ!!




 絶対に誤解しか生まないような言い方をするイオマ。

 あたしは焦って訂正をしよとするが既にシェルとコクがあたしに詰め寄ってきている!?




 「エルハイミ! これはどう言う事!? あたしと言う者がありながら浮気!? しかもベッドの上って何!?」



 「お、お母様、昨晩戻られなかったのはイオマと!? どう言う事です!? はっ!? 胸ですか!? 赤お母様のように大きなイオマの胸にやられたのですか!?」




 本気で涙目で赤くなって怒っているシェル。

 自分のお饅頭の胸を手で寄せて問い詰めてくるコク。



 「道理でエルハイミ母さんからイオマの匂いがするわけだ。はぁ、お母さん以外に手を出してもらいたくないんだけどねぇ、あたしとしてみれば」



 セキまであたしを睨んでいるぅ!?



 「違いますわぁ! 私は何もしていませんわぁ!! イオマと一緒に眠っただけですわぁっ!!」


 「信じられない! エルハイミ、溜まっているのならあたしが処理してあげるから!」


 「いいえ、ここは私が! 二百歳の体よりこのぴちぴちの無垢な体でご奉仕しますよ、お母様!」


 「主様! 黒龍様に手を出したらただではおかないでいやがりますからね!!」



 わいわいがやがや。



 「あー、エルハイミねーちゃん、シェルねーちゃん、イオマにコク、いい加減にしてくれよぉ。痴話げんかはティナの町でしてくれ」


 ジルの村で待っていたジルはあたしたちをジト目で見ている。




 「私は本当に何もしていませんわぁっ!!」




 あたしの叫び声がこだましたのであった。



 * * * * *



 「しかし、しばらく見ない間にずいぶんと村らしくなったなジルよ?」


 「まあねぇ。でも肝心な魔鉱石の鉱脈が尽きちゃった。他の鉱石はまだまだ出てくるんだけどね」


 なんとか落ち着いたあたしたちはジルの家でお茶を出してもらって現状を聞かせてもらっていた。



 ショーゴさんはここでも作られているナイフや剣、弓矢の狩り等で使う道具を見ていた。


 

 「いいナイフだ。鉄の質が良い様だ。硬いのに粘り気が有るようだな?」


 「うん、ここで取れる鉱石から作った道具はどれもこれも良い物になるよ。最近はドワーフの職人もこの村に移住してきていろいろと道具を作ってくれているしね」



 「そう言えば作ってあげた畑もいい感じで作物が出来ているじゃない?」


 「ああ、シェルねーちゃんに教わったやり方で安定して食い物が出来ているよ。ただここでは小麦が出来ないから主食は豆になるけどね」


 そう言ってジルは近くにあったツボを取り出す。

 そしてシェルにそれを見せると中には乾燥された豆がびっしり入っていた。



 「あれ? これってエルフ豆?」



 「そうだよ、この豆って最後黄色くなって硬くなるとかなり保存に適しているんだよね。栄養価も高いみたいで重宝しているよ」


 シェルはそれをつまみ上げ見ている。


 「うん、上物ね。そうだ、これ使ってエルフの伝統料理作ってあげようか? どうせしばらくこの家に泊めてもらうんだから」


 「マジ!? やったぁ、頼むよシェルねーちゃん!」


 ジルはシェルに気が有るのですごくうれしそうだ。

 ただ、シェルがあたしの嫁になったと聞いた時はすごく残念がっていたけど。



 「それでジル、ここでの現在採掘出来ている鉱石についていろいろ聞きたいのですわ」


 あたしは本題を切り出す。


 今回の目的は「魔鉱石」に代わる鉱石で「鋼鉄の鎧騎士」に使えそうな鉱石の有無を確認に来たのだ。


 採掘状況や鉱脈の予想、そしてその安定確保性。

 今後の事を考えるとますますここは重要となってくる。


 そしてもしまた魔鉱石の鉱脈が見つかれば非常に助かる。


 「今の所は鉱石と魔晶石の原石くらいかな? 肝心の魔鉱石もわずかだけど出てはいる。ただ以前のように大量にはいかないけどね」


 ジルはシェルに言われて食材や台所の道具などを教えていた。



 「そうするとやはりオーソドックスな方法しか無いのでしょうか?」


 「ミスリル合金が確かに一番良いのでしょうけど流石にそうそう簡単に手に入るものでもありませんわ」


 イオマは考えながらそう言っている。

 でもミスリル合金だってそうそう簡単には手に入らない。



 「あ、そうだエルハイミねーちゃん魔晶石じゃない水晶とか鉱脈が見つかったんだけどさ、これだよ」



 そう言ってジルは小さな原石を取り出す。

 あたしは渡された原石を見て驚く。



 「これはダイヤモンドでは無いのですの!?」



 「よく分からないけど、やたらと硬い水晶みたいでさ取り扱いに困っているんだよ」


 どうやらジルはダイヤモンドを知らないらしい。

 この世界でもこれの希少価値は高い。


 そこであたしは思う。

 財政難のガレントにとってこれは交易に使えるのではないだろうか?


 「ジル、その鉱脈の予想はどうですの?」


 「うーん、まだ見つけたばかりだからよく分からないけどかなりの量らしいよ。問題は採掘するのに一苦労らしくて大きい物はこぶし大のがごろごろ出てくるらしいよ?」


 「こぶし大ですの!?」


 もしそれが本当で質が良い物だったら大騒ぎになる。

 ガレント王国の王室でさえそこまで大きなダイヤは無いはずだ。


 あたしは原石を見る。

 光にかざす限り傷、ひびなども見受けられない。

 カラーも無色透明、透明度も高い、俗に言う最高品質の物だ。



 「お姉さま、ダイヤモンドってあの最高級の宝石ですよね?」


 「ええ、結婚指輪などにも使われる最高品の宝石ですわ」



 がたっ!



 思わず立ち上がるイオマとコク、そして向こうからもシェルが飛んで戻ってくる。



 「お姉さま!?」

 

 「お母様、それは人間の世界で言うつがいの証でしたよね?」


 「結婚指輪!?」



 あれ?

 みんななんかものすごい反応??


 

 「お願いエルハイミ、私にそれちょうだい!」


 「いえ、お姉さま私に!!」


 「お母様とのつがいの証! 私とお母様にこそふさわしい!!」


 

 え、えーとぉ‥‥‥



 「エルハイミっ!」


 「お姉さまっ!」


 「お母様っ!!」



 

 「エルハイミねーちゃん、頼むから痴話げんかはここではしないでくれよ? 家が壊れて無くなるから」


 そう言いながらジルはあたしをジト目で見てくる。




 ジルのその一言にあたしは頬に一筋の汗を流しながらたじろぐのだった。


  

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