第26話工房改築


 あたしは今ロックゴーレムの到着後に工房の拡張工事用の地ならしをさせている。



 「これってあたしが大地の精霊を呼び出してやった方が早くない?」


 シェルはそう言うけど実際にはこの後地面が地盤沈下しない様に固めなければならない。

 大地の精霊だとその辺が上手くいかない時がある。


 「大丈夫ですわ。こうして重量のあるロックゴーレムで地ならしした方が後々地盤沈下しにくいのですわ」


 あたしはシェルにそう言いながら図面を見ている。



 工房自体は今までの倍以上、面積的には五倍近くになる。

 そして根本的に「鋼鉄の鎧騎士」専用に作り直すので元の工房は完全に取り壊しになる。



 「お姉さま、大体運び終わりました。あとはベッドとかの大物だけです」


 「分かりましたわ。残りを運び出したらあの部屋も解体し始めましょうですわ」


 工房にはイオマが滞在できる女性専用の部屋があったが今回位置的に悪いので壊す事となった。


 あたしはその部屋を見る。



 あそこはティアナともイチャイチャした事のある部屋‥‥‥

 思い出がある部屋だけど仕方ない。


 

 家財道具が運び出されたら部屋を取り壊そう。

 あたしはそう思って図面をもう一度見る。



 「ところでお姉さま、工房の方は予定通りの改築になるのですが幾つか試したい事が有るのでこことここ、それとこの辺にスペースの余裕と移動運搬が出来る滑車が欲しいのです」


 イオマはあたしの隣に来て図面に印をつけながら要望を追加する。


 「一体何を考えているのですの?」


 「『鋼鉄の鎧騎士』の外装換装をする為のものですよ」


 イオマはそう言いながら別の図面を出す。


 「これは六号機の標準外装なんですけど、どうも素体自体に癖が有るようで必ずしも平均的な数値にならないんですよ。それで、機体ごとに特化させるにはその都度外装の換装をしなければならないのですけど外装を変えるのだって楽じゃないんですよね」


 確かに一旦外装をつけると換装するのがもの凄く手間だ。


 機体ごとの癖を確認してそれに特化した外装にすることは確かに良い事だと思う。


 現在存在する外装は標準型、軽量型、重装型の三つがある。

 ティアナの初号機は規格外なのでこの中には入らないがそれぞれに長所、短所がある。


 これに加え武器類も徐々に増えている。


 通常の剣以外にバトルアックスやランス、バトルハンマーなんて武器まで作っている。

 これに初号機のように片手に付けられる盾をつけたり、もっと大型の多機能盾を装備したりもする。


 戦況に応じて武装も変えられるわけだけど外装とのマッチングの問題もある。



 「うーん、分かりましたわ。換装がもっと簡単にできる方法も考えましょうですわ」



 でも、できればその場で状況に応じて換装まで出来ればもっと効率も上がるだろうなぁ‥‥‥

 うーん、何とかできないものかなぁ。

 例えばキャリアーハンガー自体がそう言った機能を持たせるとか‥‥‥


 いや、いっそ昔のアイミのようにサポートの機体を作ってグランドアイミのように‥‥‥



 「エルハイミさん、また変なこと考えているんじゃないだろうな?」


 「ぴゃぁっ!? ル、ルブクさん!?」



 あたしが「鋼鉄の鎧騎士」の図面を見て色々考えているといつの間にかやって来たルブクさんが声をかけてきた。

 完全に考え事していたので来ていたことに気付かなかった。


 「勘弁してくれよ、工房の改装だってまだなんだからな。これ以上変なもの作るのは流石に無理だからな?」


 「え、ええとぉ、とにかく『鋼鉄の鎧騎士工房』の改装が先ですわ!」


 あたしは乾いた笑いで誤魔化す。

 しかしルブクさんはイオマに向き直り聞く。


 「ありゃぁ絶対になんか余計なこと考えているぞ? イオマちゃん、頼むから同時進行だけはさせないようにエルハイミさんをよく見張っといてくれよな。こっちは普通の人間なんだからエルハイミさんの様なトンでもな事は出来ねーぞ?」


 「ぁはははは、分かってますよルブクさん。ちゃんとお姉さまの面倒は見ますから」


 にっこりと笑ってイオマはルブクさんにそう言う。


  

 うーんあたしって信用無い‥‥‥ わね。

 確かに今までもいろいろやらかしてきたからなぁ~。



 とりあえず構想をまとめてアンナさんにも相談してからにしよっと!



 「エルハイミ、あんた絶対にもう何か企んでるでしょ?」


 シェルにジト目で見られながらあたしは頬に一筋の汗を流しながら聞こえないふりをするのだった。



 ◇ ◇ ◇



 三日後「鋼鉄の鎧騎士工房」が出来上がった。



 「流石エルハイミちゃんですね。この短期間で良く間に合わせてくれました」


 アンナさんはそう言って出来上がったばかりの工房を見る。


 「ところでお姉さま、五号機と六号機は?」


 「ああ、それなら私のポーチですわ。今出しますわね」


 あたしはそう言って腰のポーチから制作中の五号機と六号機をキャリアーハンガーごと引っ張り出した。

 そして運送用のレールの上に置く。



 「さてと、アイミ手伝ってくださいですわ」


 ぴこっ!



 レールに乗せたキャリアーハンガーごと五号機と六号機を押してもらう。



 「あっ! あんなに簡単に動かせるんですか?」


 「そう言えばお姉さま、五号機と六号機が収まっているキャリアーハンガーが違いますね!!」



 そう、あたしはこの工房で整備し易い様にキャリアーハンガーも新しいものに変えていたのだった。

 これならば男性二、三人で押して移動できるし所定の場所では寝かせて作業も出来る。


 今の工房は会い向かいに三体ずつ並べて置くスペースがある。所定の場所まで持って行けばキャリアーハンガーを横にも出来る機構がついている。



 「これはまた画期的な方法ですね! そうか、場合によっては寝かせて整備する事も出来れば重いパーツを吊るしあげる手間も最小限で済みますね!」


 「それにこの『レール』という物おかげで簡単に移動できるのもすごいですねお姉さま!」



 まあ、あっちの世界ではよく有る事なので今までこっちの世界の非効率さの方があたしにとっては異常だったのだけどこう言った物には順序がある。


 いきなりあっちの技術を持ってきてもこっちの人間がそれを受け入れなければ話にならない。

 しかしこう言った初めての試みならば意外と受けいられるのだ。



 「へぇ、これは便利だ。エルハイミさんも毎回こう言う事やってくれるのならば俺らも楽なんだがなぁ。そうだ、『十得君』をあと最低でも十セット欲しいな。今後の事もあるからな」



 珍しくご機嫌なルブクさん。

 でもこれで工房については何とかなった。



 ぴこぴこ~?


 ん?

 アイミがなんか言っている?



 ぴこ

 ぴこっ!



 「エルハイミさん、アイミがなんか言ってるな? なんだって?」


 「自分の居場所のマシンドール工房はどうなったか聞いてますわね‥‥‥」



 ぴこっ!



 嬉しそうに頷いているアイミ。


 「んじゃ、エルハイミさんには『マシンドール工房』も引き続きたのまぁ。俺らは『鋼鉄の鎧騎士工房』に道具やら何やら運び入れるんでな。そうだアイミ、お前も手伝ってくれよ」



 ぴこっ!



 自分の胸を叩き任せろと言わんばかりのアイミ。



 「それでは私も六号機の製造の続きを始めますね」


 「あら、そろそろルイズにご飯をあげないと」


 「そうそう、ジルに牧場の手伝い頼まれてたっけ」


 「エスティマ様からゾナー殿不在中にここの兵士を鍛えてくれと頼まれている。主行ってくるがかまわんか?」


 「エルハイミ母さん、お腹すいた! お肉!」


 「黒龍様、新しい下着の購入に行きましょう! あ、主様の分は自分で買ってくるでいやがります。下着は黒が最高なのでいやがります!」


 「これ、クロエ主様に失礼であろう。黒龍様お供いたします」



 なんだかんだ言ってみんな自分のやりたい事を始める。

 


 「え、ええぇ~とぉですわ‥‥‥」


 「エルハイミぃ~、早く終わらせて街にあの餅入りミルクティー買いに行こうよぉ~、あそこのビスケット美味しいんだもん」


 残ったマリアだけあたしの周りで騒いでいる。



 あたしはため息をついてから「マシンドール工房」を作る為残ったロックゴーレムたちに地ならしを始めさせるのだった。


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