第25話工房の改築


 「今度は工房の大改造か、全くエルハイミさんがいると何時も何かあるな」



 ルブクさんはそう言って頭を掻いている。

 

 「しかしエルハイミちゃんがいればすぐに出来ますよ。残り五体も作成しなければならないのですから」


 アンナさんはそう言いながらルブクさんをなだめている。



 あたしたちはこのティナの町にある「マシンドール工房」を「鋼鉄の鎧騎士工房」へと改築しなければならない。



 今のスペースだとせいぜい二体が納められるのが限度。

 しかし「ガーディアン計画」で「鋼鉄の鎧騎士」は全部で十二体必要となった。


 現在出来上がっているのは五体。

 うちティアナ専用の初号機は普通の「適合者」には扱えるものでは無くなっていた。


 移動くらいはイオマでも出来るけど戦闘ともなればティアナ以外に扱える人物がいないのが現状だ。

 なので初号機はあたしが預かり魔法のポーチにキャリアーハンガーごとしまっている。


 残りの零号機、二号機、三号機は現在北のホリゾン帝国との戦闘に参加している。

 そしてガレント領の南方に四号機が配属されている。


 現在制作中の五号機と六号機はこのティナの町で制作中だ。



 「しっかし、こんな化け物あと五体も作らにゃならんとはねぇ。『適合者』は見つかっているのかい?」


 「そこは魔法騎士を中心に探していますよ。魔力だけ多くても戦闘センスが無い者では結局動かせるだけで終わっちゃいますもんね」


 

 ルブクさんは作成中の五号機と六号機の素体を見ながらため息をついている。


 イオマは現状の「適合者」選定について説明するも結局はロクドナルさんの鍛えた騎士団の中でも魔法騎士から探すしかない。



 もともと「ガーディアン計画」は十体の「鋼鉄の鎧騎士」をガレントの各方面に八体配備して残り一体は王都ガルザイルの守り、そしてもう一体予備兼遊撃機として運用するつもりだった。


 しかし宣伝と連合軍でのデーター収集の為一機、あたしがティアナ用にカスタマイズした初号機で一機、全部で十二体作成となった。


 お陰で国の予算約十年分は「鋼鉄の鎧騎士」で消えた。


 あたしたちが持ち帰った赤竜の財宝で多少は助かっているが「鋼鉄の鎧騎士」のおかげで国庫は大赤字、そこへホリゾン帝国との戦争が始まったので更に厳しい状況が続いている。



 それでもこの「ガーディアン計画」を続けるのはそれだけこの「鋼鉄の鎧騎士」が有用である証拠だ。



 実際に秘密結社ジュメルの奥の手である「巨人」に対抗できるのはこの「鋼鉄の鎧騎士」だけとなっている。


 そしてその性能が証明されると他国は更にガレント王国に対して和平を持ちかけるようになる。

 友好関係を築き現在の安定する秩序の傘下に入りたがる訳だ。

  


 「『鋼鉄の鎧騎士』は今後の国防や戦争を根本から変えます。ガレント王国に野心が芽生えない限り世界はこの新しい体制下で安定をして行くでしょう」



 アンナさんはそう言いながら五号機と六号機の素体を見上げる。


 「そんなもんかねぇ‥‥‥」


 ルブクさんはそう言ってあたしに向き直る。


 「さて、エルハイミさんよ、何処から手を付ける?」


 「そうですわね、まずはガレント領側に工房の拡張する敷地を確保して岩切場からロックゴーレムで基礎となる外壁の岩を運搬ですわね。工房自体ももっと効率化を考える必要がありますわ。キャリアーハンガーを移動させやすい様にしたり外装交換がし易い様にしたりですわ」


 こうなってくるとマシンドールは別の工房を作成した方がよさそうだ。

 通常の警備などではまだまだマシンドールの有用性は在る。


 なのでそちらはそちらで考えた方がよさそうである。



 「それと、お姉さま魔鉱石の採掘なんですがやはり鉱脈が尽きた様です。ジル君お話だと魔鉱石はほとんど出なくなったそうです」


 「では残り五体の制作は出来ないのですの?」


 イオマは資料をパラパラとめくる。

 そしてあたしに答える。


 「ギリギリと言う所でしょう。武装に回せるエルリウムγまでは無理ですが」


 となると別の武装も考えなければならない。

 

 うーん、剣や斧は無理になりそうだなぁ。

 そうなると鈍器でも持たせるか?


 いやいや、もし相手がミスリルとかだったらあまり効果が無い。



 あたしがそんな事を考えているとシェルたちがやって来た。


 「どうなのエルハイミ? 旨く行きそう?」


 「そうですわね、工房自体は『マシンドール工房』を別に作ってこちらは『鋼鉄の鎧騎士工房』だけにした方が良いですわね」


 あたしはシェルに答えながら改築の構想をみんなに話す。


 「確かにその方が良いですね。これで『鋼鉄の鎧騎士』の製造は何とかなりそうですね、イオマちゃん」


 「はい、アンナさんその通りですがいくらここで製造は出来ても前線での整備はまだまだ問題が残りますね」



 前線での整備かぁ‥‥‥

 あたしは工房で無い場所での整備を想像する。



 キャリアーハンガーごとに馬車で大々的に運んでいるがただ運ぶだけだし、整備をするごとにその場で足場を組んだりもする。

 外装とかを取り外したり着けたりする滑車も必要になる。


 うーん、動力源をどうにかして運用艦みたいのを作り上げた方が良いのかな?

 そして緊急射出用カタパルトつけたり、支援用の中距離攻撃型ゴーレムや長距離支援型ゴーレムで遠方支援射撃出来るようにして‥‥‥


 「エルハイミさん、また変なこと考えていねーだろうな? とにかく今は余計なこと考えねーで目先の事片付けてくれ。でないとまた職人が苦労する」



 先にルブクさんからくぎ刺された。



 「も、勿論ですわ! さて、始めましょうですわ」



 あたしは乾いた笑いをしながらルブクさんのジト目をかいくぐり工房の改築作業を始めるのだった。 

 

                        

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