第24話セレとミアム


 「これはすごいですね、本当にティナの町まで一瞬ですね!」



 コクは珍しく興奮していた。

 あの後あたしはパパンやママンに挨拶をしてティナの町まで飛んだ。

 

 実際にここまで飛べるのは分かっていたけどこの人数でも上手くいくかどうかちょっと心配だった。

 しかし結果としては杞憂だった。


 あたしは今度はボヘーミャまで「異空間渡り」を試してみようと思っている。




 「来ましたかエルハミさん」


 「正妻、待ってたわ」



 声のする方を見るとミアムとセレがいた。

 まあ戻ってきたらもう少し詳しく色々と話すと言う約束でもあったので当然ではあるけど。



 「何があったか全てを話してもらいます」



 ミアムはそう言いながら広間にあたしたちを呼ぶのだった。



 * * *



 今回のエルフの村での赤毛の子については既に話してあったが「魔王」については今話す事となった。



 「と言う訳で、ティアナの転生を探すと同時にもし『魔王』の魂を見つけたならば『魂の封印』をしなければならないのですわ」



 「全く、相変わらず面倒事を引き寄せる」


 「本当ね。余計なことしてないで早くティアナ様の転生者を見つけ出してもらいたいわ」



 ぐっ、こいつら‥‥‥



 二人にはそう言われるもそんなに簡単に見つかっていれば苦労はしない。

 それに厄介事とは言え確実にエルフの村に恨みを持っている「魔王」あたりが復活したら面倒事では済まない。

 ファイナス市長の話では「魔王」は「魔人」辺りなどは易々と下部として取り扱うほどらしい。

 だから完全に放置しておくわけにもいかないだろう。

 


 「それで、こちらは新たにティアナの転生についての噂は無いのですの?」


 「残念ながらね」


 セレはそう言って両の掌をあげる。

 まあ、エルフのネットワークでも新しい話は出てこないのだ、当然と言えば当然か。



 「そうしますと私はそろそろ来るイオマやアンナさんと『マシンドール工房』を『鋼鉄の鎧騎士工房』へと改築する作業の手伝いをしますわ」



 それを聞いてセレもミアムも苦虫をかみつぶした表情になる。

 この二人も戦争が続いているのは勿論知っているしその背後のジュメルが完全に殲滅できていないのも知っている。


 「ジュメルは私たちの大切なティアナ様を奪った原因‥‥‥」


 「もうずっとあいつらには苦しめられているわ」


 ミアムもセレも苛立ちを隠さない。



 出してもらったお茶を飲む。

 そして二人には引き続きティアナらしき人物を探す手伝いをしてもらう。



 「戦争に私は手を貸すつもりはありませんわ。私が動けばきっともっと大きな被害が出ますわ。ヨハネス神父は戦場全てを巻き込みますわ。だから二人には引き続きティアナの転生の噂を掻き集めてもらいたいのですわ」



 あたしがガレントとホリゾンの戦争に手を貸さない理由の一つ。

 ティアナに手傷を負わされたヨハネス神父がどう出るかは分からない。


 だがヨハネス神父の狙いはあたしの魂。


 あたしが戦争に手を貸し一所にとどまれば確実にそこを狙ってきてちょっかいを出され大きな被害が出るだろう。



 ヨハネス神父はあたしのあの方の力を見ている。


 だから真っ向からは挑んでこないだろう。

 そしてきっといろいろを巻き込みながらあたしに対抗するつもりだろう。



 だからあたしは戦争には手を貸さずティアナの転生者を探すことにしている。



 これについてはアコード陛下も理解してくれていてあたしの好きなようにさせてもらっている。


 「まあエルハイミさんの能力を無駄にしておくのももったいないです。わかりました、ティアナ様も噂が入ったらまたエルハイミさんにも伝えます」


 ミアムはそう言ってから残りのお茶を飲んで立ち上がる。

 そしてセレを引き連れて行ってしまった。


 

 「なによあの二人ピリピリしちゃって」


 「仕方ありませんわ、私たちと違って時間に余裕が無いのですから‥‥‥」

 

 シェルのその物言いにあたしは答える。


 セレもミアムももう二十歳になる。

 もしティアナの転生者が見つかっても昔の様にはいかない。

 自分の娘位に年の差があるのだ。


 しかし二人のティアナへの思いはそれでも変わらない。


 


 あたしは部屋を出て行く二人の背をただ見るのだった。 

  

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る