第21話二人の結果


 「それではマーヤさん、イチロウさん、アレッタさんお元気でですわ!」



 あたしはそう言って師匠を見送りに来た三人をゲートで精霊都市ユグリアに送り届けた。


 そしてここボヘーミャに戻ってきて皆と合流する。



 「さてと、今度は私たちが実家に戻らなくてはですわね」


 地下のゲートからゲストハウスに戻りながらあたしは学園を見る。


 もう師匠はここにはいない。


 新しい学園長には何とマース教授が就任したらしい。

 おかげでアンナさんも大忙しだ。


 

 なんとなく学園の校舎の前の大通りを歩く。

 そしてふと立ち止まる。


 ここはあたしがちゃんとティアナに告白した場所。

 そしてティアナはあたしの告白に答えてくれてこの場でキスしてくれた場所。


 この学園には沢山の思い出がある。



 「ティアナ‥‥‥ 必ず見つけ出して見せますわ!」



 あたしはそっと自分の唇に指を当ててからゲストハウスに向かうのだった。



 * * * * * 



 「お姉さま、浮気者駄目ですよ~」


 「浮気とは何よ! エルハイミは私の旦那様なんだから浮気じゃないわよ!!」


 「バカエルフはお母様から離れなさい!」


 

 今あたしたちはゲートの前でファーナ神殿へ行こうとしている。

 イオマはまだ仕事が有るので今回は実家まで付いて来れなくなってしまった。


 「ちゃんとイオマの分のチョコレートも持ってきてあげますから頑張ってくださいですわ」


 バティックとカルロスの件が終わったらティナの町に一旦戻り「マシンドール工房」を「鋼鉄の鎧騎士工房」にしなければならない。

 それにセレとミアムにもエルフの村の事は教えてあげないといけない。



 あたしもそうだったけどあの二人の落胆もひどかった。



 あたしの言葉にどうにか立ち直り始めてはいるけど、ティアナが今回も見つからなかったって聞いたらまた落胆しちゃうかな?


 そう思いながらあたしはゲートを起動しようとするとアンナさんが話しかけてきた。



 「エルハイミちゃん、当面はティナの町にいるつもりですか?」


 「はい? そのつもりですわ。ティアナの情報が無いのに闇雲に動く訳にも行きませんもの」


 その答えを聞いたアンナさんは少しほっとしたような顔をする。

 そしてあたしに聞いてくる。


 「『鋼鉄の鎧騎士』シリーズはガレントの防衛の要に全部で十体必要でしたが戦争が長引く為全部で十二体必要となりました。ジルの村からも魔鉱石の採掘量が減って来たそうですので今後を考えて数は増やせませんが各機の性能の向上が必要になるかもしれません。エルハイミちゃんにも協力をお願いしたいのです」


 アンナさんはそう言って少し不安そうになる。

 協力自体は良いのだけどアンナさんのその不安も分かる。



 強化すると言う事はそれだけ適合者が減ると言う意味でもある。



 イオマクラスで何とか動かせるくらい。

 だとするとそれ以上のとなると確かに厳しい。


 「わかりましたわ。強化するのならばその補助も考えましょうですわ。でないと乗り手が見つからなくなってしまいますものね」


 あたしのその言葉に今度はアンナさんもほっとして微笑んでくれた。


 「では行きますわ。今度はティナの町で」


 あたしはそう言ってゲートを起動させた。



 * * *



 

 「ファルさんお邪魔しますわ!」


 「うわっひゃぁっ!! って、エルハイミさん?」



 何度目かのデジャブ―。


 あたしは鍵のかけられた鉄格子からファルさんに声をかける。

 するといつも通りのアクションで驚いている。


 ファルさんはすぐに鍵を持ってきて開けてくれるけどあたしが許可もらって魔法で開けた方が早かった。



 「エネマ司祭はいらっしゃいますかですわ?」


 「エネマ司祭は今丁度出かけています。ところでどうでした?」



 ファルさんの質問にあたしは首を横に振る。

 それを見てファルさんも残念そうにため息をつく。


 「早く見つかると良いですねぇ」


 そう言いながら応接間にあたしたちを連れて行きお茶を出してくれる。



 「ところでエルハイミさん、エルハイミさんの弟さんたちって冒険者になるのですか?」


 「そうですわね、その事で実家に戻りお父様にお話しするつもりでしたわ」


 するとファルさんはあたしの前にずっと寄ってくる。


 「それで、弟さんたちってどうなんですか?」


 「ええ、合格ですわ。この間ずっと手出しせずに見てまいりましたが期間限定の冒険者になる事を私は認めますわ」



 「姉さま!」

 

 「ほんと姉さま!?」



 ちょっとフライング気味だけど遅かれ早かれ二人も知る事だ。

 明後日にはパパンにも同じこと言うつもりだし少し早かったけど良いだろう。



 「そうですか。ではエルハイミさんお願いがあるのですが‥‥‥」


 「はい?」


 ファルさんはそう言って真剣な顔であたしに話し始める。



 「弟さん二人を私にください」



 「はぁっ!?」

 


 いきなり何言ってるのこの人!?

 もしかして年下好き!?

 

 だ、駄目よ!

 あたしの弟をいきなり二人とも欲しいだなんて!?



 「ファ、ファルさんいきなり何を言うのですの!? だめですわ、弟たちの貞操はそうそう渡せませんわ!」


 「何を言ってるのですエルハイミさん? 私が欲しいのはパーティーとしての話ですよ? いくらエルハイミさんの弟さんだからって‥‥‥ あら、意外といい男?」



 こらこらこらっ!

 何いきなりあたしの弟に色目使っているのよ!!



 「冒険者ですか?」


 「パーティーを組むってどう言う事?」


 しかしバティックとカルロスはその言葉に反応する。

 するとファルさんは咳払いして話を始める。



 「実は私も神官としての修行をもっと積まなければならないのです。方法は色々ありますがここはやはり冒険者の方とパーティーを組んでファーナ様の教えを広めながら私も修行をしなければならないのです」



 そう言ってバティックとカルロスを見る。


 「私は友達がいません。しかし幸いなことにエルハイミさんたちとは知り合いです。私一人で冒険者ギルドに行って仲間を募集するなんて怖くてできません!」



 いやいやいや、それじゃ何時まで経っても修行にならないじゃない。

 それに布教活動するのに他の人怖がっていちゃだめでしょうに。



 「一応神聖魔法とかも使えます。回復系がメインですが」



 なのに一生懸命自己アピールしている!?



 「姉さま、ちょっと良いですか?」


 バティックがあたしの肘をつつく。

 そして小声であたしに聞いてくる。 

  

 「この人危なくない人ですよね? ボッチですか? 大丈夫なんですか?」


 「バティック、世の中には理想と現実に隔たりがある人もいるのですわ。だからと言って根は良い人ですわ、あまりそう言った事を言うものではありませんわ」


 「あの、聞こえてますけど‥‥‥」


 ひそひそと話すあたしたちにジト目で見ているファルさん。



 「でもさ、回復系の魔法が使えるなら僕たちにぴったりではあるよね?」


 カルロスはあっけらかんとそう言う。

 そしてあたしを見てからバティックを見る。


 「姉さまから合格ももらったしいいんじゃないかな兄さん」


 「うーん、そうだなぁ。どちらにしても姉さまについて行くのはあきらめたしなぁ」



 はえ?

 どう言う事?

 バティックもカルロスもあたしと一緒にティアナを探しに行くのじゃ無かったの?



 「姉さま、僕たちは姉さまについて行くのをやめます」


 「ど、どう言う事ですの?」


 「レベルが違い過ぎるって事だよ。僕たちじゃ姉さまの足手まといになっちゃうもんね」


 ぱちくりと二人を見るあたしに当たり前のようにそう言う二人。

 確かに今のあたしたちの中ではこの二人はまだまだだけど。


 「むしろファルさんと共にもっと自分の出来る事が試したいです」


 「姉さま僕たちが見えない所でいろいろとやってくれるもんね、でもそれって結局は姉さまの力だもんね」


 うっ、確かに二人には見えない様に魔法でいろいろとしてはいたけど‥‥‥


 「シェルさんや先生、それにコクちゃんやセキちゃん、クロさんにクロエさんにまで内緒で僕たちのサポートさせてたでしょう?」


 「流石に狩りするときにあちらから獲物が来るなんてあり得ないもんなぁ。旅の途中先生たちと稽古つけてもらう前にそこの場所にある邪魔な小石とか草とかまで片付けられれば誰だって気づきますよ、ちっちゃいストーンゴーレムが連なって歩いてるし」


 そう言って二人は笑っている。



 「だから言ったでいやがります。主様は過保護だと」


 「これ、クロエその事は主様から言わない様に言われているであろう?」


 あ、クロエさん肯定する事言っちゃだめだってのに!


 「しかし主が認める通りこの二人はもう立派に冒険者をやっていけるだろう。まだまだ失敗することもあるだろうが精進する事だ」


 ショーゴさんはそう言って二人の肩を叩く。


 「ね、姉さま良いよね?」


 「僕たちは僕たちのできる事をやってみます」



 二人してそう言う。

 もう、二人とも立派になっちゃって‥‥‥



 あたしは思わず二人を抱きしめる。

 あんなにちっちゃかった二人はもうあたしの伸長を超え体つきもしっかりと男性のそれになって来ていた。



 「うわっ! だから姉さま当たってるって!」


 「へへへぇ~やっぱり姉さまのおっぱいぼよんぼよんだ~」



 「もう、二人ともですわ!」



 騒ぐ二人を抱きしめられずにいられないあたしは二人の顔を思い切り自分の胸に押し付けてその成長を喜ぶのであった。






















 「い、『育乳の魔女』から『子供を授ける魔女』を経てとうとうエルハイミさんが慈愛の女神に!? はっ!? もしやエルハイミさんは女神ファーナ様の生まれ変わり!? あ、ありえる。今までのエルハイミさんの奇跡からすれば!!」 


 なんかあっちでファルさんがぶつぶつ言っていたようだった。 

  


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