第18話イチロウ・ホンダの同行
エルフの村で「魂の封印」を方法を習ったあたしたちはユグリアに戻りボヘーミャへと行かなければならない。
「エルハイミ、ごめんやっぱりちょっと良いかな?」
シェルはそう言って実家のお義父様とお義母様と別れの挨拶をしてからこっそりとあたしに言う。
「どうしたのですの? ちゃんと仲の良い夫婦を演じましたわよ?」
「うん、それはありがと。お父さんもなんだかんだ言ってあたしたちの事認めてくれたしね。それで、実は帰る前にマーヤの所に寄っていきたいのよ」
シェルはそう言ってなんとなくすまなさそうにする。
別に昔シェルが好きだった人の事が気になるのは正常な事だし、マーヤさんはシェルの事を娘のように思っている。
「だめ?」
「かまいませんわよ。マーヤさんにもしばらく会っていませんし、師匠の事もありますわ。寄っていきましょうですわ」
あたしの回答にシェルは喜ぶのであった。
* * *
「ほんと、この短期間でシェルも見違えたわ。ここまで精霊の扱いが上手になっているなんてね!」
マーヤさんの家に行き挨拶をして今はリビングでお茶を出してもらっている。
シェルは水の精霊を使ってお茶を入れるのを手伝っていた。
「マーヤもだいぶ回復してきました。これもエルハイミさんたちのおかげですよ」
ファイナス市長はそう言ってお茶を飲む。
「ほんと、ありがとうね、エルハイミさん。シェルも元気そうだし、あなたと言う伴侶を見つけられてよかったわ‥‥‥」
ぐっ、マーヤさん、シェルは‥‥‥
あたしが本当のことを話したいのをぐっと我慢しているとシェルはマーヤさんの後ろでにたりと笑う。
お、おのれシェル!
あたしが引きつく笑いで応対していたのだが、あたしもマーヤさんには用事があったのだった。
「それでマーヤさん、この後私たちはボヘーミャに戻りいよいよ師匠を元の世界に返しますわ」
びくっ!
マーヤさんが小さく震えて動揺をする。
しかし直ぐに取り繕い無理矢理笑顔を見せる。
「そうね、ユカもやっと元の世界に帰れるのね。寂しいけど良かった‥‥‥」
「そこでマーヤさんにもボヘーミャまで来てもらいたいのですわ」
あたしのその一言にマーヤさんは驚きあたしを見る。
「エルハイミさん‥‥‥」
「師匠に最後に会っていただけませんかしら? イチロウさんも一緒に行くって言ってますわ」
あたしがそう言うとマーヤさんはしばし下を向いて無言になる。
「マーヤ、行ってきなさい。そしてユカに私からも元気でと伝えてきてあげて。今は私はここを離れるわけにはいかないのだから」
ファイナス市長はそう言ってマーヤさんを見る。
「ファイナス長老‥‥‥」
「寂しいのは分かります。私も友人と今後会えなくなるいうのは寂しいですがこれはユカの願いです。ですからマーヤ、あなたもユカに会うべきです」
ファイナス市長はそう言って優しく微笑む。
マーヤさんは小さな声で「はい‥‥‥」と言って無理やり微笑み返した。
こうしてマーヤさんもあたしたちと一緒にボヘーミャまで行く事となった。
* * * * *
「準備は良いぜ、おいアレッタ、アレもってこい」
「はいはい、こちらも準備できていますよ」
あたしたちは「緑樹の塔」でイチロウさんたちと合流してこれからゲートへと向かう予定だ。
イチロウさんたちは大きな風呂敷包みをいくつか持っていた。
流石に持ちきれなくてショーゴさんやバティック、カルロスも手伝う。
「イチロウさん、これはですわ?」
「おう、これはなこの世界の俺の集大成だ。ユカさんには何度お礼を言っても足りねえ。だがこの世界で俺が成し遂げた事は知ってもらいたいんでな。餞別のようなもんだ」
そう言ってイチロウさんはニカっと笑う。
あたしたちはファイナス長老に挨拶をしてソルガさんの先導でゲートへと向かう。
「そう言えば今のあっちの世界ってどうなってんだいエルハイミの嬢ちゃん?」
「そうですわね、私があちらにいた時は世界が平和になって来ていましたわ。日本も急激な成長を遂げ、経済的にも何もイチロウさんの時代に比べかなり豊かになりましたわ」
イチロウさんはそれを聞いて興味を持ったようだ。
「食いモンはどうなんだい?」
「そうですわねぇ、海外の食事が普通に食べれるようになって、和洋中を中心に朝鮮や中東、ロシア、ベトナム、フィリピンの食べ物なんかも簡単に食べれる世界になっていますわ」
「そいつはすげえ、あの焼け野原後にそこまで日本は豊かになったのか! しかも海外の食い物も味わえるのか!」
「それとですわね~」
あたしたちはそんな話をしてゲートまで歩いていく。
そしてゲートに着く頃にイチロウさんはぼそりと一言いった。
「そんだけ変わっちまったんだ、ユカさんも今更戻ったってなぁ‥‥‥」
それはみんなが思う事。
そして本当は元の世界に帰ってもらいたくないあたしたちの本音。
でも‥‥‥
「師匠はその為に今まで頑張って来たのですわ」
そう、あたしがまたティアナに会う為にどんなに苦しくてもどんなに大変でもあきらめないのと同じに。
「‥‥‥違いねぇ。ユカさんの願いだもんな」
イチロウさんのその言葉に誰もが黙ってしまう。
あたしたちはゲートに入り最後にソルガさんとも挨拶をしてボヘーミャへと飛ぶのであった。
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